ドーム

 ゴボゴボと立ち上ったあぶくが透明な膜に阻まれていた。ドームの天辺で少しだけ揺らいで、小さくなっていき、残った何かがはらりはらりと雪のように降っていく。そしてそれもまた、底に溜まることはない。

 ゆるやかに廻っていくだけのものだ。


「あれの昔話? それが聞きたいだなんて大層変わった御仁だなぁ。ありやあ水に恋した人間の末路さ。自分を改造して水と―つになろうとしたんだよ……あんたよりも一段と変わり者だった。結局どうなったか? そんなものは見ればわかるだろう。あんな姿になったとしても恋は実らず、水にはフラれたんだろうさ。人でなくなって、自我もなく、ただあのガラスドームを維持するだけの塊だよ、あれは。」


「そいつの名前ぇ? さぁ、なんだったかなぁ」


 あぶくの音だけが響く。


「誰かになりたかった、誰かのことなんて。もう誰も、覚えてなどいやしないよ」

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