硝子魚

 夏の終わりに拾ったそれは、今年見た中で一番美しい色をしていた。


 もとが何であったのかは不明。水の中を転がって削られた硝子は岸辺にたどり着く少し手前で、再び歪に割れてしまったようだった。

 親指ほどの大きさをしたそれは元はなんの硝子だったのか。摘んで光にかざしてみても、 定らない虹色の影がおちるだけ。鈍く白く研磨されたまぁるい胴に、斜めに割れて美しく輝く断面を見せるのは流れて揺れる尾びれの魚にも見えるが、これは割れたからそう見えるだけだろう。


 けれど、そう見えるのならそれでもいいじゃないか。そんなふうに思い至ったのは、夏が終わって大きな嵐が過ぎた次の日のこと。窓辺に置いたそれが、快晴の空から降り注ぐ陽の光で輝いているのを見た時だった。

 ああ、これは水の中に有るべきだ。


 乾いた場所になんているもんじゃない。押入れをひっくり返して見つけた金魚鉢に水を張って、ぽちゃりとそれを落としいれる。


 沈んだそれが泳ぐことも浮かぶこともないけれど、不思議とこれが正しい形のように思えた。

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