四話 お眠な狐君


「美羅、起きろ」

 

 コツンと頭をノックするも、起きない。

 熟睡している。

 

「無理に起こすのは可哀想だよ」

 

「駄目だ。子どものうちは三食食べねばならん。成長に支障を来す」

 

「己は母親か」

 

 孤児院時代に散々言われた突っ込みが入った。

 せめて父親と言ってほしいものだ。

 

「え?言ってほしい?」

 

 そうでなく。

 言うなら母親でなく、父親と言えという事だ。

 

「分かってるよ」

 

 ……冗談が分からない辺りが頭が固い言われる所以なんだろうな。

 

 分かってるなら直せと思うかもしれないが、それが出来たら苦労は無い。

 

「美羅、美羅」

「むぅ……んん〜」

 

 眉をしかめて寝返りを打った。もう少しか?

 

「起きろ」

「やぁだ!ねむぃ……う、にゃ」

 

 はぁ、仕方ない。明日のご飯は抜きだな。

 

「ふぇ!?やだやだ!起きる!」

 

 いい子だ。

 ご褒美をやろう。

 

 ヨウムがさっきおまけに持ってきた林檎を兎の形にカットして差し出した。

 

「うさちゃんだ!」

 

 ……の、前に。

 

「あ!うさちゃん!」

 

 まずは主食を食べろ。林檎をぶら下げて、何とかおにぎりを食べさせることに成功した。

 

「…………熟練の主婦?」

 

 お前、主夫じゃなくて主婦と言っただろう。

 

「いや、どう見ても四、五人は産んでるベテランの母親だよ」

 

 産んだことは一度たりとも無いんだが?それ以前に、私は男だと言っているだろうが。

 

「説得力ないよ」

 

 言うな。自覚はしている。

 

「食べたよ!うさちゃん、ちょうだい!」

「あぁ、ほら」

 

 拳大のおにぎりを二つ食べ終えた美羅に裾を引っ張られた。

 シャクシャクと瑞々しい林檎を齧る音が聴こえる。

 

「ふぁぁ……ねてい?」

 

 まだもう少し頑張れ。次は風呂だ。

 

「お前はどうする」

「ん?後で入るよ」

「お湯は」

「ん〜、今日はいいや」

 

 ご飯を食べて、また眠くなってきている美羅を抱き上げ、隣接している脱衣場に向かった。

 

「美羅、お前、着替えは?」

「ある……」

 

 恐らく、あの収納鞄の中だろう。

 持っているという言葉を信じ、そのまま風呂に入る。

 

「きもちぃ〜」

 

 お湯を浴びている内に少し目が覚めたのか、気持ちよさそうにしている。

 

 目に入らぬよう、洗髪剤シャンプーを流し、栄養剤リンスを馴染ませる。

 

 元が良いのか、髪はさらさらしている。

 

「りっちゃんとエリ兄がね、毎日丁寧に洗ってくれるの。しっぽも洗ってくれるんだ」

 

 まぁ、洗いがいは……あるだろうな。これだけもふもふしていれば。

 

 ちなみに、寝ているうちに飴の効果が切れたようで、耳としっぽは出ている。

 

 今日はもう遅い、明日洗ってやろう。

 いつ間にか寝てしまった美羅の体にお湯をかけ、風呂から出た。

 

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