第8話 砂時計
あまりにも、大きな時空の狭間、そして最大規模
タイムパラドックス。レベル5/空滅。
何も残らない、空間そのものの滅亡だ。
安易に戻って何かをやり直す、それはエゴだ。
便利なものほど、その反作用は強い。
ルート固定は最後の手段だった。もう選択肢など、何もなく、この世界で過去も未来も関係なく現在に身を委ねるしかない。
誰かが、どこかで道を踏み外した。
そのために辻褄が合わなくなり歪が生まれる。
その歪は最初は小さいものだった。便利さに取り憑かれ、その結末がこれだ。
時空の狭間が現れてから、人々の生活が変わった。
夢を叶えるために人生やり直す人、嫌なことあったから人生やり直す人、その巻き添えになる人…
今を生きること、今が大切、時間こそ全て。
ユキ達は後者だ。この理不尽な世界で愛する人を守るためだけに生きている。
ユキと涼。二人は今、お互いがどこにいるか、再び出会えるのか、何も解らない。
ユキは元の世界で涼と一緒になり、幸せな生活をしていた。けっして裕福でなく、でもお互いが思いやりを持っていて、満足していたはずだった。
涼はこの世界に飛ばされて、人生をループしている。それは涼が望んでいたものなのか?それとも?
もし涼が二つの世界の記憶があるなら、どちらを選ぶのか?
本来一度だ、人生は。だから何よりも生きることは尊い。全てが思いやりを持って助け合えば、もっと素晴らしい世界になっていたはず。
人間は自己都合で世界を壊してきた。そのために絶滅してしまった、絶滅危惧種など何も罪のない動物、植物が危機に直面している。
タイムパラドックスは人類への戒めなのか?
今、目の前にある、砂時計。
砂が落ちきるまで三分間。この三分間の間に何が起きてもおかしくない。このような世界になってしまった。
もう一度、大切なことが何か、考え直す時だ。
……………………………………………………………
【ん、どこだろう?】
ユキがいる場所は、町並みはとくに変わらない。
ただ、この世界に来る前の年齢に近い。
全てがリセットされたのか?
【涼さん…】
涼の姿もない。町並みに人々の行き交う姿から、涼を探した。レベル5が起きた、その後の世界。
何も変わってないように見える。見た目だけだが。
【TA応答お願いします!】
………………
【ユキです、応答お願いします!】
………………
TAからなにも返信はない。
【元のいた世界、もうないのかな……、涼さん…、何もかも無くなっちゃった…何も残ってない…】
ユキは泣き出した。しゃがみこんで。
【ユキ!、どうしたの?ほら行くよ】
友達?私を知ってるみたい。涙を拭きながら、
【どこ行くの?】
【ユキ、大丈夫?クリスマスパーティ〜!、もう、しっかりして!ユキが来るっていうから男性がたくさん集まったんだからね。でも、気をつけて、変なのいないとは思うけど、ところで、何で泣いてるの?】
ユキはクリスマスパーティーに参加することになっていたらしい。どうしてそうなったのか?よく解らない。
確かに落ち着いた、こういう女性は比較的モテる。
ユキの中では涼しかいないのだが…
状況を掴むために、とりあえず友達と一緒にパーティー会場に向かった。泣いていても何も解らない。
TAから何も連絡ないとなると、るいのこともわからない。
【危ない!】
ユキが考え事していて、車に接触しそうに、とっさにユキを抱えてくれた一人の女性が、
【大丈夫?】
【ありがとうございます。すみません】
【クリスマスだからね、解るけど。気をつけてね】
そう言うと、女性は去っていった。
【あっ、財布が、あの人だ】
ユキは友達と探したが、見当たらない。
解っていることは、ショートカットの凄く素敵な
女性ということだけ。
【財布、開けるしかないね、連絡先解るかも】
【そうだね、抵抗あるけど、仕方ない】
財布の中に、運転免許証が。名前は…
【玲奈って言うんだ、素敵な名前】
ユキは友達と交番に届けて、パーティー会場に。
【ユキ、モテるかも知れないけど、変なのいたらすぐ私のとこに来て、ぶっ飛ばすからね】
【ありがとう、何もぶっ飛ばさなくても…】
普通の世界だな、ここ。あれほどのことが起きても世界はあるのが不思議。
その時、パーティー会場の端にあるアンティークな暖炉。そこに砂時計が置いてある。
手にとって見ると、その先に、記憶にある男性が、
えっ!ここにいたの?無事だったの?
涼だ!パーティー会場の中央に。
TAがルート固定してくれた…だから、こんな近くに。みんな、ありがとうね。どうか無事でいて。
戻れることはもう無いかも知れないけど…
砂時計を逆さにしてみる。三分間だ。
その間にもし、涼さんに話しかけるか決めよう。
涼さん、すぐ解る。大人になっても面影がある。
私のこと、ユキって解ってくれるかな?
どうしよう、解らなかったら。
【涼です、横いいですか?】
えっ!涼さんから、ちょっと!心臓止まるー!
緊張から声が…必死に冷静に、冷静に、
【いいですよー、どうぞ】
涼さん、固まってる!なんか、可愛い!
【どうかしましたか?大丈夫ですか?】
【緊急してますね、年上ですよね。可愛い】
ユキは、涼の反応を見て矢継ぎ早に質問攻め。
可愛くて仕方ない。
【ほんと大丈夫?お酒飲み過ぎているのかな?】
ユキは涼から話しかけてくれたことが嬉しくて、
嬉しくて、でも照れもあって、質問攻めが続く。
すると、涼が、
【えーと、あの過去で、いろいろありがとうございました。あれから大丈夫…で…した?】
涼さん、覚えてるの?覚えていて話しかけてくれてるの?もし、そうなら、もう何もいらない。
この時だけでいいです。
涼さん、あなたと会えてから私は、全てを涼さんと
何があっても離れないと決めてました。
【やっぱ飲みすぎてるんですね、少し外に出ましょうか?寒いけど】
ユキは涼と二人になりたい。
【寒いですね。私から言ってたのに】
パーティーって薄着なんだよね、ほんと寒い!
【これ、使ってください、よければ】
ちょっと!涼さん、これ嬉しすぎ!涼さんの服、
涼さんの匂い、ヤバ、ニヤける。抑えられない!
【ありがとうございます。でも私だけ暖かくても、申し訳ないので返します】
ニヤけるのバレたかな~嫌だな、冷静にならないと。静まれー、感情!
ユキは必死だ。とにかく冷静にと、
【大丈夫です、寒くないので】
涼さん、私に触れたじゃん、どうする?どうする?
心臓が口から飛び出そうっとこのことだ。
【覚えていませんか?俺のこと】
涼さん、覚えてるに決まってる!
駄目、もう抑えられない、この気持ち!
【覚えていますよ、涼さん】
言ってしまった、もう止まらない!
【えっ!どこから、どの時代!どの時間から!】
涼さん、嬉しすぎ!あなたの言葉、全て包み込む!
【全てです。やっと会えました、正しいルートで】
涼さん、触れて触れて!もう感情抑えるの限界!
【ユキ、触れていいかな?手を握っても】
キャ~!それそれ!待ってました!
【もちろんいいですよ、涼さん】
何、冷静にしてるの私。ニヤけてない?
たぶん相当だらしない顔してる。
ヨダレ出てない?ちょっとほんとヨダレが…
【寒いから入りましょうか?私ばかり暖かくても】
涼さん、ごめん、トイレでヨダレ確認したい。
たぶん出てる、解るもん。まいったなー、
こんな顔見られたくないな。
【もう少し。手を離したくない】
もー、涼さん。いいや、袖で吹いちゃえ!
涼さん、借りている服でごめんね…
見られないように、何とか…
ふけたー。良かったー。
涼さん、さっきから片手はずーと涼さん、
離さないんだよねー、
嬉しいからいいけど…
【私は離れないから大丈夫ですよ】
とりあえず、手を離してもらって、整えないと、
冷静に冷静に…
【ユキ、ごめん、怒らないで】
何?何?どうするの、涼さん?
えっ、抱きしめられた?ヤバいでしょ。それ。
心臓の音、聴こえちゃう。心拍数限界突破!
涼の優しい、そして強く抱きしめられた力が、
涙を作る。それも大量に。
涼さん、いいにおい。香水?少し緊張して汗
かいてる?もー汗も嗅いじゃう!
何もかも愛おしい、涼さん、こうしていたかった。
【怒るわけないですよ、涙が溢れるだけです】
ユキは涼に抱きついた。
こういう感情って、タイムパラドックスが起きないんだなー。それに起きたら私が許さん!
だって、これほどピュアな気持ちないもんね。
今夜はクリスマス、オリオン座がよく見える。
二人はたどり着いたこの時間こそ、タイムパラドックスさえも凌駕する力があるのかも知れない。
二人を包み込む。澄んだ空気と夜空。
全天88星座が守ってくれている。
いつまでも、いつまでも、二人は離れなかった。
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