第7話 想い

涼を抱きかかえながら、時は止まったようだ。

そっと目を開けた涼は周りを見て戸惑っている。


【大丈夫ですか?】


ユキの声に少し、涼に反応があった。

すると、涼は目を覚まして、


【今、俺は小学生かな?卒業式目前?合ってる?】


涼の言葉にユキも、


【合っています。ただ眠っていただけです。】


二人の姿は小学生、精神は大人、共にこの世界に来る前は大人だったから、会話は普通、姿に違和感がある。お互い感じてることだが…慣れないもんだ。


【未来の恋人?ユキが?】


涼の真剣な言葉の重みに、ユキは正直に答えた。


【そうです…】


ユキは全て話した。元のいた世界のこと、そこでは涼と結婚していたこと。


涼に記憶ないが…理解できなくてもいい。


涼はニコッと笑って、


【とりあえず、未来の恋人ね、よろしく】


涼の言葉に、ユキは少し動揺する。そして

冷静を装うが、喜びはバレてる。


【よろしくお願いします】


今は思いっきり楽しもう、涼さんとの大切なとても大切な尊い時間。涼はこの世界で生きていく。


元の世界に戻って記憶がない涼との生活は、それは幸せなことではないとユキは理解している。


涼はこの世界でいずれ出会うユキではない女性と結ばれる。せめてそれまでの間は。


涼は家に帰った後、ユキは帰り道に一人、そんなことを思っていた。


涼の幸せが私の幸せ、それを忘れない。

それでも涼と出会えたことに感謝しよう。


突然、TAからの通信がはいった。


【ユキ、そっちは無事か?、いや、ちょっとな】


教官からの通信だ。内容はこうだ。

ユキ達のいた世界が時空の狭間が多数発生して、

とりあえずこちらにしばらく戻るな、という内容。


えっ、何があったの?こっちの世界の影響なの?

タイムパラドックス?


教官は対処できると言って通信を終えたが、

明らかに嘘をついている。危機的状況になってる。


戻って確認するか、それとも言われた通り

こっちで待機するか。


【ユキ、TAからの通信…もう知ってるみたいだね】


るいが現れて、ユキの表情を見て察知した。


【うん、るい…これ何かとてつもないこと、起きてるね。きっと】


【ユキ、戻るなってことだけど、もし戻らず向こうの世界で崩壊が始まったら…無理にでも戻ろうか?どうする?】


【…どうしよう、るい、もし戻って時空の狭間に入ってたらどうなるか予想できる?】


【時空の狭間…何の方向性や理念もなく、

飛び込むと…駄目駄目!、時空の狭間で永遠に彷徨うかも】


るいはそのように答えた後、暫く黙って考えた。


【ユキ、涼ちゃんといられる時間が限られてるよ。それにパラレルワールド行ったり来たり、だいぶ減ってるよね、ダメージ=寿命、もうこれ以上心配して動かず、この世界にいること考えたら?】


【解った、るい、そうする、でも暫くは涼さんと会わない。何か起こるともう対処できないから】


【ユキの代わりに様子見するね、涼ちゃんのこと。もちろん恋愛とかでないからね】



それから、数ヶ月が過ぎた。



るいは、ユキに代わって涼の様子を見に行く。

これはもう毎日の日課になりつつある。


今日は接触してみよう。


【ユキって知ってる?】

【ユキのこと、何か知ってる?】


矢継ぎ早に、るいの質問攻め。涼がぽかーんと

していると、少しムッとして


【こっちが聞いてるの!クラスにいたよね?】


煮えきらない涼の態度にるいはイライラ、

涼は女のコに怒られたことないから、少しビビってる。そして、ようやく、


【俺の中では記憶あるけど、ある時からずーと会ってないんだよ】


大丈夫だ、ユキのことは覚えてる。会わないで忘れていたらぶっ飛ばす予定だった。

※涼はぶっ飛ばされずに乗り切った※


【やっぱり、私もかなり前から】


とりあえず、ユキのこと曖昧にして伝えることに、成功した。私と接触しても問題ないってことは、涼ちゃんとの接点は未来にないってことだ。


それも、なんかムカつく!涼ちゃん、ユキのほうが

タイプなのは解るけどさ!まったく、正直すぎ、

こいつは!


その後も時々、涼との接触を、ごく自然に。

るいは下手くそで無理があるが、


涼からユキのこと、話してきた。


【ユキってあの可愛い女のコだよな?】


るいは、ちょっとムカつく。


【可愛いは余計だけどね、たぶん同じ人、私よりたぶん可愛い、悔しいけど認める】


【ごめん、同じくらい可愛いかな?】


【フォローしないで、余計に惨めになる】


もう!何なのこいつ!ユキのことすっごい気にしてるじゃん!確かに女性から見ても健気でかわいいよ、

だけどさ、私の前で褒めすぎ!ユキのこと。


数日後過ぎて、偶然を装って涼とあったるいは、

涼から、


【おはよう、女子校生活どう?】


【楽しいよ、普通に、そっちは?】


【つまらん、共学が良かった】


【なにその判断基準、文化祭に期待だね】


そんな馬鹿な会話で帰ろうとしたときに。


【自転車出せないー!】


もう、自転車だせないじゃーん、あっ、涼ちゃん

手伝ってくれるのかな?


その時、手が触れて、るいはドキッとした。

駄目駄目、涼ちゃんはユキの…


その瞬間暗闇が訪れる。時空の狭間に

吸い込まれる。


えっ、何で、私と涼ちゃん接点あるの?

この世界で、何で?


るいは突然消えた。涼も。

お互い何処かに飛ばされたのか?


【ユキ、ごめん。涼ちゃんと私も何かあるみたい】


るいからの連絡に、慌てたユキが、


【るい、何処?涼ちゃんも一緒?】


【私のことはいいから、涼ちゃん探して】


るいは大丈夫だ。高能力者だから自分で対処できそうだ。


問題は涼さんだ。とりあえずTAと連携を

取りながら、何とかその場所と繋がっている時空の狭間を見つけ、飛び込んだ。


暗闇に涼がいる。ユキは叫んで、


【動かないで!そこにいて!】


【どこだ!ユキ!】


ユキが涼の手を握った。すかさずTAに連絡。


【時間軸調整課ユキです。レベル5です。至急ルート固定お願いします】


もうこれしかない。これは過去にない規模の…

いよいよ終わりかも知れない。涼さんだけでも、

何とかしなくては。


【ユキ、会いたかった!】


ごめん、涼さん。嬉しいけど、今はそれどころじゃない。


涼さんに説明して解るかな。


【すみません、レベル5なのでとりあえず言う通りにしてください、間に合わなくてすみません】


ユキは、とにかく手を離さないでいた。


【いいんだ、とりあえず手を離さない】


涼さん、必死だ。何としても助けないと。


【ルートに乗ります、手を離さないでください】


【ユキ、離す訳ないだろ、ユキもここに居ろよ】


もうー、これ普通のシチュエーションなら、喜んじゃうよね。ユキは冷静を取り戻して、


【意味解りませんが、動かないで!】


とにかく、今は離れないことだ。もし、離れてしまってもルート固定されていたなら探しやすい。


このルートを信じるしかない。


















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