ラウンド16 断らなかった理由…?

 ウルドからの指摘。

 ジョーはそれに、怪訝けげん深そうに眉を寄せた。



「断らなかったって…?」

「ノア様からのプロポーズのことだよ。」

「……あっ!」



 すぐにレストランでのことだと思い至り、ジョーは慌てて言い繕う。



「いや、だって…っ。あれは普通に、冗談だと思って―――」

「本当に?」



 あくまでも静かに、ウルドは重ねて訊ねた。



「冗談だと思ったから……本当に、本当にそれだけかい?」

「……何が言いたいんです?」



「君の性格上、そんな理由で返事をうやむやにするかと疑問に思ってね。」

「―――っ!!」



 大きく目を見開くジョー。

 ウルドは続ける。



「それに、君にしては仕返しに訴えるまでに時間がかかったし、嫌がらせの内容も思いのほか優しいね? 君って、仕返しに手心を入れるような人だっけ?」



「それは……」



「今までの生き方のせいで、君は自分の本当の気持ちににぶい。だから今、はっきりと伝えておこう。ノア様につけ入る隙を与えたのも君なら、ノア様の背中を押したのも君だ。」



「僕が…?」



 うめくように呟いたジョーに、ウルドは肯定の意を示すように頷く。



「君は、ノア様のことをよく知っている。だから今は、ノア様を責めることよりも、自分の言動のどこにこうなる要因があったのかを考えている……違うかい?」



「………っ」



「自分の胸に手を当てて、よくよく考えてみるといい。本来の君なら、あの時になんと答えた? そしてそう答えられなかった理由は、一体なんだろうね?」



「………」



「そこに、ノア様がここまで自信たっぷりに君を落とそうとする理由、そして私がそれを止めない理由がある。現実に追いつけていないのは、君だけだよ。」



 何さ、その言い方……



 気付いていないだけで、君もノア様が好きなんだろう?

 だからいつもと違って、笑って〝嫌だ〟と断れなかった。



 そう言いたいわけ…?



「とはいえ、このままノア様の押し一手というのもいただけないね。真実がどうであれ、二人の進退はきちんと二人で決めるべきだ。」



 そう言ったウルドは、ジョーの前に一枚のメモを滑らせた。



「この日時に、この場所へ来なさい。ノア様を捕まえさせてあげよう。それじゃ。」



 何も言葉を継げないジョーを置いて、ウルドはくるりと背を向ける。



「ああ、そうだ。」



 ドアから半身を出したところで、ふいにウルドが手を叩いた。



「誤解させたままだとノア様が可哀想だから、一応言っておこう。どうせ落とせるだろうから、先にご両親に報告してしまいなさいと……ノア様をそう焚きつけたのは私だ。」



「んなっ…!?」



 まさかの自供に、ジョーは目を剥く。



「あ、あんたがノア様のブレーキをぶっ壊したのかーっ!!」

「若い二人の背中を押してやるのが、年寄りの役目じゃないか。これで自由奔放なノア様に首輪をつけられると思えば、三千万なんて安い安い。」



「三千…っ。それもあんたが―――」

「では、頑張ってくれたまえ。アルシード君?」



「こらぁっ、そこのくそ親父! 一発殴らせろーっ!!」



 急いでソファーから立ち上がるも、すでに逃げる態勢だったウルドに分がある。

 ドアノブにかじりついてドアを開いた時にはもう、ウルドの姿は廊下からも消えていた。


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