カスパーハウザー その3

 陽が沈んだ頃、王国中に人々の陽気な歌声や喧騒が飛び交いはじめる。バイエルン王国はクリスマス祭のムードに包まれていた。年に一度のクリスマスだ。


「レディースアンドジェントルマン!!メリーーーークリスマス! ウンシュリット楽団による素晴らしい演奏にもう一度拍手を!」

 ウンシュリット広場を全長十五メートルほどの特設ステージが占領していた。ステージの階段から、楽器を持った兵士たちが退場していく。ステージは、赤や白の飾りで派手に輝いている。司会の声と観客の拍手が会場に響き渡る。

「さあ、次に紹介するのは最近話題の少年。彼は暗黒の空間を過ごしたことで鋭い五感を発達させ、尋常ならぬ能力を発現させました。その少年の名は『カスパーハウ

ザー』!!」

 会場に熱い拍手が鳴り響く。ステージの壇上にカスパーハウザーが登場する。彼には目隠しがされてあった。

「彼の特異な能力の一つを紹介しましょう。彼は触覚がとても優れており、触れた物質が何であるかを当てることができるのです。そしてステージの中央をご覧ください」

 黒服の人間がでてきて、ステージの真ん中に長机を設置した。机に板が立て掛けられる。

「この板には、金、銀、銅、鉄が並べられています。色は全く同じ。観客のみなさんが判断できる要素は、各金属板の上に置かれた金属名が書かれた名札のみ。金属はすべて同じ十センチ四方の板になっており、石の重りで質量を均一にしております。そこでカスパーハウザー君に、これらの金属に触れてもらい、触れた物質の名前を当ててもらいます。当然、一般人の私には触ってもすべて同じような感触にしか感じられません。しかし、彼はそれを見事に当ててしまうことができるのです!」

 ピゅーっピーっと口笛が飛び交う。カスパーハウザーは黒服に机まで案内され、待機させられる。

「カスパーハウザーくん、あなたの目の前には全て同じ形状、重さの金属があります。あなたは触れることしかできません。持ち上げることはできません。目隠された状態で、金属の物質を言ってごらんなさい」

 カスパーは手を伸ばし、右から2番目の金属板に触れた。

「カスパーくん、それは何だと思いますか?」

「銅です」

ドラムロールが鳴る。

「正解!!!」

 観客から歓声が飛ぶ。カスパーハウザーはステージから退場し、司会は次の見世物の説明を始めた。

「以上、カスパーハウザー君でしたー!」

 

カスパーが舞台裏に行くと、アンゼルムがいた。

「おい、こんな見世物に出る必要はないんだぞ。カスパー、無理をしなくてもいいんだ」

「アンゼルムさん、僕が身寄りと呼べるのはあなただけです。僕を育てるのにはお金がかかります。僕が見世物になることで、あなたにお金が入るのなら、いくらでも大衆の前にでましょう」

 アンゼルムは自分の鼻筋を掴んで、俯いた。

「カスパー、お前が自分から進んで見世物になる決意が強固なものだと、私は理解している。しかし………」



 それから数か月後、カスパーが暗殺されたというニュースが国中に報じられる。

死因は刺殺。犯人は見つかっておらず、現代にいたるまで事件は解決されることはなかった。

 しかし、このカスパーの死の謎はさらなる謎を呼び起こした。それは、バイエルン王国の根幹を揺るがしかねないほどの重要な隠された謎があった。


つづく。

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