第2話 青薔薇の棘

 貴方と再び出会ったのは、母の日から3日が経った日。


「店員さん、この間はありがとうございました」


 青い薔薇を1本だけ持ってやって来た貴方は、素敵な笑顔と共にそれを私に差し出した。


「ええっと…あの、1本で良いん…ですか?」


「はい…1本が良いんです」


 そう言った貴方は、恥ずかしそうにして頬を掻いた。

 薔薇は贈る本数によって意味が変わる。1本だと「一目惚れ、貴方しかいない」。私はそれが、貴方なりの告白だと受け取った。


 恥ずかしさから貴方のまっすぐな瞳を見ることができず、思わず目を逸らしてしまう。本当はちゃんと貴方の顔を見ていたかった。貴方のころころと変化する素敵で魅力的な表情を、一つたりとも見逃したくなかったからだ。


「あれから青い薔薇の花言葉を調べたんです。そうしたら、一目惚れとか喝采とか色々出てきて…その中でも奇跡っていう花言葉が、まるで店員さんとの出会いみたいだなと思ったんです。僕にとっては、本当に奇跡みたいな出会いでした」


「………あ、あの…」


 そう言ってもらえたのは嬉しかったけど、正直に言って私には自信がない。貴方のように素敵な人と私なんかが釣り合うのだろうか。貴方は太陽のように眩しくて、遠い存在で、私のような雑草女には勿体無いくらいだ。


「私…朝…得意じゃないですよ?」


「それなら僕が起こしてあげます」


「…料理、あまり得意じゃ…ないです」


「僕もです。一緒に上手になりましょう」


「そ、その…本当に私なんかで良いんですか…?」


「貴方が良いんです。僕は貴方の人柄と笑顔に惚れたので、貴方以外では駄目なんです」


 貴方の言葉は笑顔のように温かい。

 こんな素敵な人と出会う奇跡は、これから先一生無いんだろうな。と、そう思った。





 静かに目を開いて横を向くと、時間の止まった貴方が青い薔薇の前で笑っている。それを見ていると、いつの間にか涙が流れて耳を濡らしていた。


 今日は母の日。夢の中に青い薔薇が出てきた時、気が付けば良かった。青い薔薇の花言葉は「奇跡。夢、叶う」。でも夢の中に現れると、全く別の意味に変わってしまうらしい。


 ずっと変わらない貴方の笑顔は、いつまでも素敵だ。それでも私はまだ夢の中に居たくて、そっと目を閉じるのだった。




 青薔薇の棘 ー完ー

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恋愛集「恋と呼ぶには早いのかもしれない」(短編集) かさた @1572kasata

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