第1話 青薔薇の棘





 青い薔薇の中心に貴方が居る不思議な夢を見た。「青色が好き」と言った貴方は、いつも青い物を身につけている。

 きっと、その印象が強いからそんな夢を見たのだろう。





 貴方と初めて出会ったのはちょうど3年前、母の日だった。

 私が勤める生花店に来店すると、貴方は「母へのプレゼントを探しています」と言って笑顔を見せる。

 色々な種類がある中で、貴方が30分掛けて選んだお花は青い薔薇だった。

 薔薇は贈る本数によって意味が変わる。そのため、貴方が少し悩んでいたのを今でも覚えている。


「1本だと一目惚れ、3本だと愛しています…というように、贈る本数によって花言葉が変わるんです」


 私の言葉に、貴方は「なるほど…」と言いながら眉をひそめた。それは困っているというよりも、ちょっと驚いているように見える。


「そうなんですね。母へのプレゼントにおすすめの本数ってありますか?」


 そう聞かれて顔を上げると、貴方との距離は思っていたよりも近かった。貴方からはお花よりも少し良い香りがして、私はちょっとだけ後ずさりしてしまう。


「ええっと…どんなお気持ちを伝えたいかにもよりますが、8本だと思いやりや励ましに感謝する…という意味があるので、感謝を伝えるのであればおすすめですよ」


 貴方との距離は手が届きそうで届かない、そんな言葉がぴったりだ。

 さっきはちょっとだけ距離をとってしまったけれど、嫌われていないだろうか。それが少しだけ心配で、薔薇の棘が刺さっているみたいに心がチクりと傷んだ。


「お、良いですね。それなら青い薔薇を8本でお願いします」


「わ、わかりました。すぐに準備しますね」


 どうやらお母様への贈り物が決まったみたいで嬉しかったけれど、少し残念でもあった。お会計をすれば貴方は帰ってしまうからだ。

 この時間がもっと長く続けば良いのに…。

 私はそう思いながら、いつもより少し時間をかけて準備をしていた。


「1本で一目惚れっていう意味なんですね…知らなかったです」


「他にも色んな意味があるので、調べてみると意外と面白いですよ」


「なるほど、調べてみますね。ありがとうございます」


 貴方と会話をしていると、自分の身体が水の中に浮いているような感覚になる。ちょっとだけ緊張して、だけど楽しくて、少しふわふわするような感じだ。

 貴方がどう感じていたのかわからないけれど、私はその感覚が新鮮ですごく楽しかった。


 貴方の第一印象は「優しくて母親想いの素敵な男性」。1番素敵だったのは、見ているだけで心温まるその笑顔だ。

 この人と居たら、きっと毎日が楽しいだろうな。数十分一緒に居ただけなのにそう思ってしまうほど、貴方は魅力的だった。

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