第18話 帰還
アルはエルをしっかり背負うとそのまま急いで暗殺者ギルドを後にした。
「お姉ちゃん、重くない?」
「全然。軽すぎるほどだよ」
事実、エルはほとんど体重を感じないのでは、というほどに軽かった。
これも長い間捕らわれていたせいであろう。
今度こそはしっかり食べられるように力を尽くすからね。
そう固く決意するとアルはユウの村へ向けて走り出す。
『これでもう安心ですねぇ』
いつの間にか戻ってきたマシロが笑顔を見せていた。
アルを思ってのことではなく、ユウから頼まれた仕事を完遂できることを喜んでいることは安易に想像がつく。
それでもエルを助ける手助けをしてくれたのだからアルからしたら感謝の気持ちしかなかった。
『これからどうされるのですかぁ?』
「エルと二人でどこか身を隠す場所を探すよ」
迷いなく答えるとマシロは不思議そうに聞き返す。
『ユウ様のところへ身を寄せないのですかぁ?』
「そんなことをしたら私たちを助けてくれたあの人に迷惑がかかっちゃいますから」
『ユウ様はそんなこと思いませんよぉ。きっとすでに歓迎の準備をされていると思いますよぉ』
何か確信がある様子のマシロ。
それもそのはずで精霊達の感覚は大体共有している。
そこで、ユウの家が完成したこと。
その中の部屋にアルやエルの部屋があることまで把握していたのだ。
もし本当にそうならどれほど嬉しいだろうか。
でもやはり迷惑をかけたくないという気持ちがどうしても先行してしまう。
『余所へ行くかどうか……、ユウ様と会ってから考えてはいかがですかぁ?』
「うん、そうするよ」
結局決め手が何もなく、でもお礼を言いにどちらにしても一度は行く予定だったのでそれで納得することにした。
◇◆◇
しばらく経つとアルが小さな少女を連れてマシロと戻ってくる。
そして、この領地へ着いた瞬間にぽっかりと口を開けて驚いていた。
「えっと、ここで……合ってるよね?」
数日見なかっただけでずいぶんとこの領地も発達していた。
主に建物がかなり建っている。
住宅街にはずいぶんと家が建ち並びだしているし、そもそも村へ入るための門が出来上がっていることが一番の驚きだった。
門のところではヤークが真剣に周囲を見張っていた。
「お前はアル! また戻ってきたのか」
「うん、ユウにマシロを返さないと。おかげでエルを助けることができた。お礼を言いたい」
「そうか。なら通るといい」
「いいの!?」
「当然だ。そもそもユウに危害を加えようなんてことが間違っているからな」
「全くだね」
お互いユウを襲おうとした過去があるから通じ合うものがあるようだった。
しかし町へ入れば入るほど、その驚きが増していく。
そして、ユウがいる村の中心へいったときに一番の驚きを浮かべていた。
「こ、ここがユウの家?」
「うん、そうだよ。なんか精霊さんたちが張り切っちゃって……」
「こんなに大きかったらユウと一緒に寝られない――」
「それは寝なくて良いからね!」
「……冗談」
「絶対に冗談じゃなかったでしょ……」
ジト目を向けるとアルが目をそらす。
やはりリアと一緒で本当に寝ようとしていたんだ……。
「ところで背中のその子がもしかして――」
「んっ、妹のエル」
「あのあの……、え、エルです。よろしくお願いします」
「よろしくね。ただ、とりあえずまずは……、リア、そろそろ良いかな?」
「大丈夫ですよ。もう準備万端ですから」
家の中からリアが笑顔を見せてくる。
そして、アルトとエルの二人は背中を押されながら家の中へ無理矢理つれて行かれるのだった。
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