第17話 解放

 アルは暗殺者ギルドの本拠地へとやってきた。


 やはり任務を失敗した暗殺者はいらないようでそのまま処分するつもりのようだ。

 恐怖から体が強ばる。


 それでも助けないと行けないエルのこと、側に浮いているマシロと自分のことを信じてくれたユウのためにもこの仕事だけはやりきらないと行けなかった。

 向かい合うギルド長の威圧に思わず萎縮してしまう。



「よくも任務を失敗して揚々と戻ってこられたな」

「もうしわけございません」

「常々言ってるだろう。弱いやつはいらないと」

「もうしわけありません」

「大体――。んっ?」



 ようやくギルド長はアルの異変に気づく。



「お前、奴隷紋をどうしたんだ!?」

「奴隷紋……ですか?」

「ちっ、そうだった。お前には言ってなかったんだな。付いてこい!」



 無理矢理アルを連れていこうと手を掴む。

 その瞬間に何かに弾かれる。



「な、何が起きたんだ!?」



 ギルド長は困惑の表情を浮かべる。

 何度かアルを掴もうとするが一向にできる気配がなかった。



「お前が何かしたのか!? いや、お前のスキルではないな。そうなると協力者か!?」

「……」



 アルはこれ以上何も話さない。

 それがギルド長からしたら末恐ろしかった。



「ちっ、まあいい。俺に逆らったものの末路は知っているな?」

「――負けない」



 ギルド長が懐に手を入れたかと思うと次の瞬間にアルの目の前にその姿が現れる。


 しかし、その攻撃もマシロによる結界で防がれる。



「これも効かないのか。本当に訳のわからない能力だな」



 楽しそうに笑みを浮かべるギルド長。

 全く効かないはずがその迫力で押されている。

 それでもギリギリのところで攻撃を避け続ける。


 しかし、それも体力が続かない。



「はぁ……、はぁ……」

「もう少しでその結界、破れそうだな」



 一点突破で何度も切られた結界はよく見るとひびが入っていた。

 しかしそれも目には見えない。

 本来ならあり得ないその攻撃も実力差のあるギルド長だから可能としていた。


 これ以上は持たない……。


 そう思ったタイミングでマシロがアルの前に姿を現す。



『発見しましたぁ。もう解放しましたよぉ』

「うん、ありがと」



 アルが笑みを浮かべる。



「何を笑ってやがる。お前はこれで終わりだよ!」



 的確に結界の傷が付いた部分を切りつけるギルド長。

 甲高い音を鳴らして結界が壊れる。

 その瞬間に新しい結界がアルに張られる。



「なっ!?」

「どうしましたか? 暗殺者たるもの、常に冷静に、というのは貴方の教えですよ」

「ちっ、まさか結界を張れるやつが側にいるとはな。そこか!?」



 的確にマシロがいた場所を切りつけてくる。

 ただ、姿は見えていてもそこは精霊。

 物理的な攻撃が聞くはずもなく、マシロの体を通り抜けていた。


 そして、攻撃したと同時に結界の箱に閉じ込められるギルド長。



『これでおしまいですぅ』



 目に見えない箱に閉じ込められたギルド長はそのまま全く身動きが取れなくなっていた。



「な、なんだこれは。くっ、動けない……。お前か。お前の仕業なのか、アル!!」

「このまま突き出す。それできっと十分」

『わかりました』



 マシロの手によってギルド長はどことも知れない場所へと連れて行かれた。

 後に残されたのはアル一人。

 こんなことならもっと早くにあの領地へ行っておけば良かった、と後悔の念に押しつぶされそうになる。



「でももう大丈夫……」



 これもすべてあのユウという少年のおかげだった。



「お礼を言いに行かないと……」



 マシロも返しに行かないといけない。

 それが終わったら……エルと二人でどこか追手のこないところへ行こう。


 暗殺ギルドの長を捉えたとあっては、他に所属していた暗殺者たちから恨みを買うはずだ。


 本当ならユウたちと共に暮らしたい。でも、そうしたら迷惑がかかるよね?


 アルは悲しい気持ちになりながら、エルが捕らえられていると教えてもらった部屋に向かうこととする。





 衛生的にお世辞にもいいと言えない地下の一室。

 思わず鼻もつまみたくなるような場所にアルの妹、エルはいた。


 非常に衰弱しており、体は骨のように細く、顔も青ざめてる。

 それでもしっかりと息はしていた。

 当然だ。マシロが発見した際に治癒魔法をかけているのだから命には何も別状はない。



「おねえ……ちゃん……?」

「エル!! よ、よかった……。本当によかった……」



 アルは彼女にしがみ付き、しばらくの間、涙を流すのだった。

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