第16話 アル
「あれっ? 私は?」
奴隷紋がなくなったあとしばらくするとエルが目を覚ましていた。
「やっと目を覚ましたんだね 」
優しく微笑みかけるとエルはぼんやりと僕のことを眺めていた。
しばらくは状況がわからないようだったが、次第に意識が戻っていくと僕に抱かれている現状に気がつく。
「あわわわっ」
顔を真っ赤に染め上げて慌てて僕から離れていく。
その姿は暗殺者のころの面影がまるで残されていなかった。
「大丈夫? もう奴隷紋から解放されたと思うけど何か不都合があったら言ってね」
「えっと、大丈夫……です。私がしてきたこともなんとなく覚えています。私、悪いことをたくさんしたんですね」
「無理やり強要されてきたことだから仕方ないよ。やりたくてやってたことじゃないんでしょ?」
「ち、違いますよ。私は全然そんなことしたくありませんでした」
「それならそれでいいでしょ? リアもそう思うよね?」
「ここで私に振るのですか? でも、そうですね。確かに悪いことをしたかも知れませんが、それが貴方の意思ではないのなら」
「それに本当に悪い人は別にいるんだよね?」
「はい、私に暗殺を命じていた暗殺者ギルドの長がいます」
「なるほど……。つまりは責任はその人にとってもらえばいいんだね」
「で、でも長はとんでもなく強い上に暗殺技術もものすごいんですよ。とてもじゃないですけど、捕まえるなんてできないと思います」
「どうだろう? マシロ、できる?」
『おまかせくださいー』
「大丈夫らしいよ」
『どこにいるかわかりますかぁ?』
「その人がどこにいるかってわかるかな?」
「用心深い人で一か所に止まらないんです。でも私の奴隷紋が外されたとなると会いに来るかと思います 」
「それって君に危険がないの?」
僕の言葉にエルは黙ってしまう。
「で、でも、そうしないとエルが助けられないんですよ!」
「そういえばエルって君の妹の名前かな? それじゃあやっぱり君は――」
「はい、私はアル。暗殺者のアルです……」
「そっか……」
「妹は人質として捉えられているのです。私が裏切らないように――」
「わかったよ。なんとか助けよう」
それならマシロを……。
いや、姿を見せていない状態だとできることに限りがある。
僕は少し迷った結果マシロを呼ぶ。
『なんでしょうかぁ?』
「マシロの姿をアルに見せたいんだけどいいかな?」
『もちろんですよぉ』
「ありがとう、助かるよ」
マシロの承諾を得て僕は彼女に魔力を分け与える。
その瞬間にマシロの姿がアルに見えるようになる。
「えっ、これって?」
「精霊の一人、だよ」
「えっ、一人?」
驚きの表情を見せるアル。
「彼女がいたらとりあえずアルに危険はないと思う。奴隷紋も解消できるしね。でも、アルには危険があるわけだし……どうする?」
「もちろんやります! 力を貸してください!」
アルは真剣な表情を見せる。それを見て僕は一度頷いた。
「わかったよ。それじゃあ、マシロ。アルのことをよろしく頼むね」
『はいー、わかりましたぁ』
◇
アルがマシロを連れて村を去って行った。
もし先ほどの話が嘘でマシロをどうにかしようと思っているのだとしても、マシロなら簡単に逃げることができるだろうし、逆に本当なら大変なことだった。
でも、精霊達も少し僕から離れて行動している子が増えてきており、少しだけ寂しく思う。
そんな僕の気持ちとは裏腹に村は順調に成長を続けていた。
いつの間にか僕の新しい家が完成する。
二階建て木造住宅。
一階には客間と食堂、厨房。あとはお風呂や洗面所、トイレ。僕の仕事部屋などがあった。
仕事部屋と言っても机や本棚が置かれているだけで、居間の僕がうことはほとんどない。それでもいずれ使うだろう、と考えるとありがたい限りだった。
客間には大きな机と椅子が置かれており、来客があるとここで対応すれば良さそうだった。
今のところ来客は誰もいないんだけどね……。
なんだろう? 先の先を見据えすぎている気がする。
それでも食堂や厨房は必要な場所だし念願のお風呂やトイレが自宅に着いてくれたことが嬉しかった。
更に階段を上がると二階にはそれぞれの私室がある。
僕やリアは当然ながらなぜかアルやエルの部屋が準備され、そのほかにも空き部屋がいくつかある。
さらに何やら小さい穴がいくつか開いているので虫食いかなと思っていたら、そこがそれぞれ精霊たちの部屋となっているようだった。
これでようやくリアと一緒に寝る生活も終わりを迎える。
それをリアに言うと彼女は頬を膨らませてすねていた。
「ユウ様は私と一緒に寝るのです!!」
「ど、どうして!? 別の部屋ができたから一緒に寝る必要がないでしょ?」
「私が寝たいからです!」
あまりにも堂々と言い放つから圧倒されそうになる。
「だ、ダメでしょ!? 常識的に考えて」
「私が常識です!」
「それは違うよ」
結局話が付かず、リアが一人で寝られないときは来ても良いと言うことになるのだった。
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