第10話 区画整理
とりあえず盗賊達には僕たちの家がある場所から少し離れた位置で過ごしてもらうこととなった。
ただ、適当に広げていってもあとあと困ることになる。
精霊達に頼めば家ごと動かしてくれそうな気もするけど、確証はないわけだしね。
区画分けを考える上でまず大切なのは僕たちが住む小屋だった。
あれをベースに結界が張られているために必然的にそこが中心となる。
そして、日本と同じ方位に太陽が進んでいると考えて、東の位置にミオが生み出した湖がある。
これは動かそうにも動かせない。
次にすでにあるものでいうと、南東側には畑が広がっている……、というほどの大きさでもないが、畑がある。
ここはリアのスキルによって今にも収穫できるほど大きく育っている。
さらに耕せばキナコパワーで一晩経つと種を植えてもらえる。
あまり畑をばらけさせるのも育てるのが大変なので南東側は畑エリアで固定しても良さそうだった。
あとあるものは僕の家の側にある小屋と南の方に残された大猪の骨くらいだった。
まだ他に何を作るのかは未定だけど、畑の面倒も見てもらえるように南西側を居住エリアとするのが良さそうだった。
ただ一気に人が増えたことでなお衛生面の問題は急務となった。
僕たちの家の側に一つ、あとは居住エリアに共用を二つ。
これを優先して作ろう、と心に決める。
「いずれ道とか作りたいですけど、一旦はこの辺りを使ってください。道具は斧とかならあります」
「ほ、本当にここの土地を使っても良いのか?」
「作物は育つのか? 水は?」
盗賊達が思い思いの質問を投げかけてくる。
「水は今のところ近くに湖があります。綺麗で飲める水です。畑はまた別のところに作ってますが、人数が増えてきたのでここは拡張したいですね。本当に何もないところなので、えっと、そうですね……」
陣頭指揮を取る人間がいたほうが良さそうだ。
ヤークさんが一番良いのだけど、しばらくはスラムの人たちを迎えに行ってて戻って来ない。
「一旦は僕がみんなの家の場所を指示しますね。ヤークさんが戻ってきたらまた応相談で」
「おう!」
「家できるまでは野宿になっちゃうけど大丈夫かな? 一応ここは僕が結界を張ってるから魔物とか入ってこないけど」
「はっ? 結界?」
「うん、元々は僕への害意あるものを弾く結界なんだけどね」
僕は苦笑を浮かべていたが、盗賊達は口をぽっかり開けていた。
「どうしたのかな?」
「あの、あなた様はもしかして神様なのでしょうか?」
いきなり敬語を使われても違和感しかない。
「別に神様でもなんでもないよ」
「ユウ様は『精霊使い』ですもんね」
「せ、精霊使いだって!?」
信じられないものを見る目を僕の方へと向けてくる。
「いや、だって、精霊使いって使えないスキルの代表だぞ?」
「あれっ? そうなの? そういえばリアにも言われた気がするけど」
「精霊に嫌われたら魔法が使えない上に、それほど強い魔法が使えないのだからな」
「こ、こんな強い魔法が使えるなんて……」
「すごいでしょう。なんて言ったってユウ様が力を借りてるのは大精霊ですからね」
なぜかリアが誇らしげな表情をする。
「ま、まぁ、そういうことだから安心してくれると嬉しいかな」
あまり人前で喋ることは慣れていないので少し緊張してしまうが、それでも無難に終えることができてよかった。
◇◆◇
ホムラ『第三回、チキチキ欲しいもの選手権の開催っす!』
キナコ『すぅ……すぅ……』
クロエ『――(こくっ)』
ホムラ『ユウの欲しいもの、何が良いっすかね?』
ミオ『やっぱりあれじゃないかな?』
ミノリ『ずっと欲しがってたの』
ホムラ『なら決まりっす! みんなでそれを作るっす!』
ミオ『みんな?』
ミノリ『マシロちゃんがいないの』
クロエ『――(こくっ)』
キナコ『はっ!? マシロはあるじのお願いで遠くに行ってますです』
ホムラ『そうらしいっすから、すぐに取り掛かるっす!』
その言葉を皮切りに精霊達は一様に飛び去っていた。
◇◆◇
もう毎日の恒例となりつつあるリアの驚く声によって目が覚める。
「ユウ様、ユウ様! 見てください! 新しい建物が出来上がってます!」
眠っていた僕の首を掴み、ゆらゆらとゆすってくる。
その衝撃によって目が覚めた僕は言われるがまま家の外を見る。
今住んでいる小屋よりもさらに小さい小屋が一つ、出来上がっていた。
「新しい住居……ではなさそうだよね?」
「行ってみましょう!」
リアに手を引かれて新しくできた小屋へと向かう。
◇
「これは……、まさか……」
扉を開けた瞬間に僕の動きが止まる。
「キナコちゃんですね!」
「トイレがある!」
小さな一畳ほどの小屋には便座式のトイレがちょこんと置かれていた。
紙はなく変わりに大きな葉っぱが何枚か置かれているのとトイレの中にはスライムが見えている点、あとはかなり頑張ってくれたのか、いつも通り葉っぱの上で眠っているキナコの姿があった。
ただ、今日はそれだけでは終わらなかった。
「ユウ様、ユウ様! すいやせん、ちょっと構いませんか?」
僕たちのところへやってきたのは盗賊改めて、僕たちの土地に住むこととなった男性の一人だった。
名前は確か……。
確か……。
「ラウールさん、どうしましたか?」
一向に名前を思い出せなかった僕に変わり、リアがその名前を告げてくれる。
「きてくやさい! 怪しい建物が突如現れたんっす!」
その話にすごく心当たりがあった。
主に今も見てるトイレとかだ。
もしかすると居住エリアにも何か作ってくれたのだろうか?
僕たちは急ぎ居住エリアに向かっていった。
◇
居住エリアにできていた小屋は二つだった。
流石に怪しいと思ったようで、誰も中に入ることなく様子を伺っていた。
「あっ、ユウ様! 来てくれたのか」
「えっと、これが突然現れたのですね?」
「あぁ、朝起きたら突然こんな小屋がたってたんだ。どう見ても怪しいだろ?」
「あの……、これも僕の能力の一環でしてその……」
男達の前に出るとその勢いのまま扉を開く。
予想通りその小屋はトイレだった。
しかも丁寧に作る予定だった二つ。
「精霊達が一晩でトイレを作ってくれたみたいなんです。だから自由に使ってくださいね」
「いやいや、そんなもの一晩で作れるわけがないだろ!」
「でもできちゃったから仕方ないですよね?」
最初は僕も信じられなかったもんね。
こういう反応になるのもよくわかる。
でも、精霊と共に暮らしている場所なのだからこういう不思議な出来事が起こることは許容してもらわないと。
「ユウ様ー! そろそろ朝ごはんにしましょう。畑も良い具合に野菜ができてましたよー!」
「それもそうだね。この場所についてはまだまだ話しておかないといけないことがあるんだよ。本当はヤークさんが戻ってきてからにしたかったけど、みんな驚くから食後に話すね」
「それなら構わんが……」
「じゃあご飯にしよう。まだ野菜と果物しかないんだけどね」
「俺たちにもくれるのか!?」
なぜかそんなことで驚かれる。
「当たり前じゃないですか?」
「ユウ様はそういう人なんですよ」
なぜかリアが笑みを浮かべながら言う。
「そうか……」
少ない言葉だったが、それでも僕への感謝の気持ちをしっかりと感じることができた。
そして、全員で食事をとってた時に思う。
これだけの人が集まるのなら大きな食堂も必要になりそうだ。
とにかくこれからは建築をメインに進める必要がある。それに関しては新しい人たちの力を期待しよう。
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