第9話 盗賊頭ヤーク
「ぐおぉぉ、なんだこれは。おい、お前達、この辺りに何かいるぞ! 子供達を守るんだ!」
「おう!」
なぜか盗賊達に守られるように囲まれてしまう。
見えない敵に怯えるように青ざめた顔で周りを見渡している。
特に僕たちを守っている頭といわれた男。
手があらぬ方を向いているにも拘わらず片手で剣を抜き周りを見ている。
さすがに悪いことをしているな、という気持ちにさせられる。
まぁ悪い人たちなんだけどね。
ただ、こうして今も僕たちを守ろうとしてくれている姿を見ると何か事情があって、盗賊の身になっているのかもしれない。
「うん、クロエ。とりあえずみんな捕まえられる?」
『――(こくこく)』
クロエが頷いた瞬間に盗賊達は目に見えない紐で括り付けられていた。
ついでにリアも。
「えっ、な、何が起きたのですか!?」
驚くリア。
するとひょこっとクロエが姿を見せる。
あぁ、突然飛びつかれるのを警戒して、だね。
僕は苦笑しながら「リアのは解いてね」とお願いするのだった。
◇
「もう、クロエちゃんは意地悪ですぅ!」
頬を膨らませているリアをよそに僕は盗賊の頭へと近づく。
「くっ、まさか子供のお前にこんな力があるなんて油断しちまったぜ」
「教えてください。どうしてあなた達は盗賊になったのですか? さっき僕たちを守ろうとしてくれましたし、そんな悪い人には見えないのですけど」
「はははっ、俺たちは盗賊だぞ? 悪いやつに決まってるじゃないか」
男が高笑いする。
自分から「悪いやつだぞ」という人に極端に悪い人はいない気がする。
あくまでも感覚的なことだったが。
「なら、どうしてさっきは僕たちを守るなんて言ってたのですか? 何か事情があるんじゃないですか?」
「それは……、お前たちガキには関係ないことだ」
くぅ……。
そんな時に捕まえた盗賊の一人のお腹が鳴る。
「お腹空いてるのですか?」
「空いてない!」
くぅ……。
やはりお腹は正直であった。
「ちょっと待ってて。クロエ、あのでかいやつ、持って来れる?」
『――(こくっ)』
一度クロエが頷くとそのまま姿を消し、しばらくすると現れる。
そして、僕たちの前に食べなかった方の大猪を置く。
「なっ!?」
盗賊の頭は目を点にしていた。
「いろいろ聞きたいことはありますけど、一旦休戦ですね。ご飯にしましょう」
「な、なんでこんなところにワイルドボアが? し、しかも倒したのか?」
「たいしたことはしてないんだけどね。えっと……」
加工前のワイルドボアを見て僕の手が止まる。
そういえばまずは解体しないといけないんだった。
「どうしたのですか?」
「僕、解体はできないんだった」
「それなら俺がしてやるぞ?」
盗賊の頭が言ってくる。
「そんなことを言って、そのまま私たちを襲うつもりじゃないのですか?」
「はははっ……、たった二人でワイルドボアを倒す相手に襲い掛かっては返り討ちに合うだけだ」
「現にあいましたもんね」
「だな。とにかく俺にもうお前たちを襲う意思はない。それよりも飯にするんだろう? 食い終わったらまた縄についてやる」
僕はリアと視線を交わしたあと、クロエにいう。
「彼の縄を外してくれる?」
『――(こくっ)』
見えない縄が解かれる。
これで男は解放されたものの相変わらず手はあらぬ方を向いている。
「クロエ、あの手って治せないかな?」
『――(ふるふる)』
どうやらクロエには治すことができないようだった。
こういったものが得意そうな人は――。
「マシロ、いる?」
『――(っ!?)』
クロエが驚きの声を上げる。
以前マシロにも言われたが、精霊を二体召喚することは魔力の量的に厳しい。
でも、完全に召喚するわけじゃなくて光の玉のマシロに相談するだけなら何も問題はなかった。
『はいー、なんでしょうかぁ?』
光の玉のマシロが姿を現す。
それぐらいだったら全然魔力が減った感じはしなかったので少しホッとする。
「マシロはあの手を治すことできるかな?」
『もちろんですよぉ』
「あっ、よかった。もし治したとして僕の魔力、どのくらい使うかな?」
『それほど使わないと思いますよぉ』
「それなら頼んでも良いかな?」
『はいー』
マシロが僕から魔力をもらうとそのまま男の側へ寄る。
白く輝く光を発すると男の手が元に戻っていく。
「な、何が起こってるんだ?」
「あっ、そのままだと不自由だろうから治しておいたよ」
「そ、そんなことまで……。も、もしかして、これって病気とかにも効くのか?」
「どうだろう? マシロ、どうかな?」
『程度によって魔力が変わりますけど、死んでない限りは治せますよぉ』
「なんでも治せるみたいですよ」
「ほ、本当か!? そうか……。うん、そうだったんだな……」
男はなぜかわからないが感動をしていた。
「おっと、まずは調理だったな。待ってろ、最高に上手く作ってやる!」
男は腕まくりをして、自身の剣を使い、上手く大猪を解体していった。
◇
「美味しかったですね」
相変わらずリアは満足そうな表情を浮かべていた。
ただ、僕としてはやっぱりどこか物足りなかった。
「久々にこれだけ食ったな」
「高級肉だもんな。普通にしてたら食えないぞ」
「これもこいつらを襲ったおかげか」
盗賊たちも満足そうな表情を浮かべながら好き勝手なことを言っていた。
「ところで、今度こそいろいろ話してもらっても良いですか?」
「あぁ、もちろんだ。まず俺の名前はヤークだ。以前は王国騎士団に所属していたこともある」
「それはすごい……。のですか?」
判断基準に困り、リアに確認する。
「と、とってもすごいですよ!? 並外れた実力を持ってる人しかなることができないんですよ!?」
「圧倒的な実力者を見た後だと恥ずかしい程度の力しか持っていないけどな」
「確かにリアはすごいですからね」
「ユウ様のことですよ!?」
僕は精霊に力を借りてるだけの普通の男の子なのに……。
「まぁ、あの堅苦しい生活に馴染めずにすぐ辞めちまったんだけどな。後はちょっとスラムで知り合ったやつが……な。とにかく、それで俺は人を困らせてる悪徳貴族相手にものを盗む盗賊家業を営むことになったんだ」
「義賊ですね」
「でも、それならどうして僕たちを? 僕は別に貴族でもなんでもないですよ?」
不思議そうに首を傾げる。
するとリアが申し訳なさそうに言ってくる。
「すみません、ユウ様。もしかしたら私のせいかもです」
「あぁ、そうだな。コルティアの黒い噂は昔からあるからな」
「……コルティア?」
「私の家名です。でも、私が追放されてしまいましたから名乗るのも変かなって……」
「こんな小さな子供を追放するなんて……。えっ? 追放??」
ヤークが不思議そうに首を傾げる。
「えぇ、私が持っていたスキルが呪われたものだったので、それで――」
「くっ、そうとも知らず嬢ちゃんたちを襲ってしまうなんて。申し訳がたたねぇ」
「それはもう良いですよ。それよりもこれからも盗賊稼業を続けるつもりなのですか?」
「いや、今回スラムの奴らが食糧不足になってわかった。いちいちそんなことをしてても根本的な解決にはならない。短期的な解決にはなるけどな」
そこまでわかっているなら答えは簡単だった。
僕はリアを呼び寄せて小声で相談する。
「どうだろう、あのヤークさんたちを僕たちの土地へ来てもらうっていうのは?」
「確かにヤークさんは良い人そうですけど大丈夫ですか? 盗賊さんたちなのですよ?」
「うーん、確かに気を許しすぎてるかな?」
『それなら入れる場所を限れば良いんじゃないでしょうかぁ? あとはもし危害を加えるようならこきっ、ってする事もできますよぉ』
「こきっ?」
『はいー、ちょっと首を……』
「それはダメだからね。でもそれならしばらくはそれを頼んで良いかな?」
『任せてくださいー』
方向性を決めたあと、僕たちは再びヤークの前へとやってくる。
「話は終わったのか?」
「はい、もしヤークさんがよろしかったらですけど、僕たちが住んでるところに来ませんか?」
「えっ? いいのか? 俺たちは盗賊だぞ?」
「僕たちに危害を加えるつもりなのですか?」
「いや、そんなことはないけど、万が一もあるだろ?」
「もしそんな時は僕の力で首がこきってなるだけなので大丈夫ですよ」
「はははっ、本当にできそうだな。……そうだな、少し仲間と相談させてもらっても良いか?」
「もちろんですよ」
それからヤークは盗賊たちの下へと行き、しばらくやり取りをした後、全員で僕たちのところへ戻ってくる。
「俺たち、総勢十名。お前達の世話になりたい。ただ、不躾なのだが一つ頼みを聞いてもらえないか?」
「なんでしょう? 僕にできることでしたらなんでも」
「俺たちだけじゃなくて、食べるものに困ってるスラムの連中や病気で動けない子供達も連れてきたい。わがままを言ってるのはわかるが……」
「構いませんよ。他にも連れてきたい人がいれば連れてきてください。あっ、迎えにいくのはヤークさんに頼んでも良いですか?」
「それはもちろん構わないが――」
「なら、マシロ、頼むよ」
『はいー、おまかせをー』
ヤークにも危険なことが起こったらそれを弾く結界を張ってもらう。
これで当面の問題は解決……しないか。
たくさんの人が住むなら尚更家が足りない。
しかし、労働力を大量ゲットしたので、ここから一気に発展していってくれるだろう。
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