第8話 スライム
リアと共に畑の植物の世話を終えた後、新しい設備の準備を始めることとした。
もちろん、当初の目的であったトイレだ。
「肥料として使うのはどうですか?」
まさかのリアからこのような提案が出てきた。
もちろんそれでもよかったのだが、現代人としてはできれば衛生面は良くしておきたい。
万が一病気がそこから広まる可能性もあるのだから――。
「リアはスライムって見たことある? スライムに廃棄物を食べてもらおうと思ってるんだけど」
「スライム……ですか? 基本的に洞窟とかジメジメした場所にいるって聞きますね」
「ジメジメ……か」
既にこの森自体が暗くてジメジメしている。
開けた場所なんてミオが物理的に木々を倒した僕たちの住んでいるところくらいだけだ。
「そういえば精霊さんの中にそういうモンスターの索敵を得意としてる方はいないのでしょうか?」
「そういえば聞いたことなかったかも。誰か得意な子、いるかな?」
すると黒い光が現れて、僕に触れた瞬間に人型の姿になっていた。
「また可愛らしい精霊さんですね」
『――(ビクッ!?)』
クロエが姿を出した瞬間に僕の後ろに隠れていた。
そして、徐々にその姿は薄れていき……。
「あれっ? 見えなくなっちゃいましたよ?」
「僕には普通に見えてるんだけどね」
『――(えっへん)』
どうやら僕にだけ姿を見せるようにとか、応用が利く様子だった。
「むぅ。ユウ様にだけ見えるなんてずるいです!」
「そうは言ってもクロエは恥ずかしがり屋だから。リアの呪いが消えた時もクロエがやってくれたんだけど、姿が見えなかったでしょ!」
『――(コクコク)』
「あの時私を助けてくれた精霊さんなんですね!? それなら尚更お礼を言わないといけないです! 少しで良いから姿を見せてはくれませんか?」
リアの紳士的なお願いにクロエは迷う仕草を見せてくる。
『――(きょろきょろ)』
「僕からも頼むよ。少しだけで良いから」
『――(こくっ)』
クロエが小さく頷くと僕の後ろから覗き込むようにリアに顔を出す。
『――(ちらっ)』
「やっぱり可愛いですぅ!!」
『――(びくっ)』
リアが再び飛びかかりそうになって、クロエが再び隠れてしまう。
「こらっ」
「痛いです」
僕はリアの頭を頭を軽く小突く。
「大丈夫だよ、クロエ。もう襲わせないからね」
「可愛いのが悪いのですよ。可愛いは正義なのですー」
「お礼を言うんでしょ? クロエが逃げたらお礼を言えないよ!」
「そ、そうでした!」
ようやく落ち着いたリア。
恐る恐るクロエが姿を見せる。
『――(ちらっ)』
「クロエ様、あの時は助けていただきありがとうございます」
『――(ふるふる)』
クロエが首を横に振る。
気にするなとでも言っているのだろう。
「あの……、クロエ様はなんと言われているのでしょうか?」
「気にするなって。助けるのは当然だって言ってるよ。……多分」
『――(こくこく)』
どうやら言ってることは合ってたようだ。
「クロエ、お願いがあるんだけど、この森のどこにスライムがいるかって調べられるかな?」
『――(こくこく)』
うなづいた後、クロエはどこかへ消えてしまう。
「クロエちゃん、またいなくなっちゃいましたね」
「今度は消えたんじゃなくてどこかへ行ったみたいだよ。スライムを探しに行ってくれたのかな?」
「とっても可愛かったですね」
どこか惚けているリア。
すると僕の後ろからクロエが姿を見せる。
今度はリアからは見えないようにしてるらしい。
『――(こくこく)』
「見たかったの?」
『――(こくっ)』
「よし、じゃあ早速行こう!」
「あっ、ユウ様一人だけクロエちゃんと話してずるいです!」
スライムのいる方へ歩き出す僕に対して、リアが頬を膨らませてついてくる。
◇
マシロの結界を出て、クロエのあとを追いかけていくと木陰で休んでいる半透明の球体を発見する。
「本当にいた!?」
「いましたね。どうするのですか?」
「もちろん捕まえるよ」
「でも、スライムって触れるもの全て溶かしちゃうんですよ? 溶け方はすごくゆっくりですけど」
「それってどうなって捕まえるの?」
「それは私が聞きたいですよ」
二人して顔を見合う。
するとクロエが僕の目の前に現れる。
『――(こくこくこく)』
「えっ? クロエはどうにかできるの?」
『――(こくっ)』
クロエが大きく頷く。
どういう方法を取るのかわからないけど、ここまで自信たっぷりなら任せてみるのも良いかもしれない。
「それじゃあお願いして良いかな? でも、無理だけはしたらダメだよ?」
『――(こくっ)』
それからふわふわとクロエはスライムへと近づいていく。
かと思うとクロエは前に手を差し出すとスライムの足元に突然黒い穴が現れ、スライムがそこへと落ちていく。
目の前にはまるで最初からスライムなどいなかったかのように何もない光景が広がっていた。
そのあと、クロエはふわふわと僕のところへと戻ってくる。
『――(こくこく)』
「捕まえたの?」
『――(こくっ)』
僕の目からはどこかへ放り投げて消滅させたように見えたけど、クロエ的には捕まえたらしい。
「もう大丈夫なのですか?」
「二人ならトイレも一つで良さそうだもんね」
「念の為にもう何匹か捕まえてもらいませんか?」
「そのうち数が必要になるかもしれないもんね。クロエ、お願いできるかな?」
『――(コクコク)』
頼られるのが嬉しいのか、クロエは元気よく飛び立ちスライムを探し出すのだった。
◇
あれから夕方まで捕獲を粘っているともう四匹を加えた計五匹のスライムを捕まえられた。
これだけいればトイレ以外にもいろんなところで使えそう。
何を作ろうかなと考えていると目の前に髭面の男たちが立ち並んでいた。
「こんばんはー!」
「おう」
――こんなところにも人がいるんだ。リアもいたから普通なのか?
そんなことを考えながら男たちの隣を通り過ぎようとする。
すると突然肩を掴まれそうになる。
「じゃねー! 有金と食いもん、全て置いていきなー、っていてぇ!!!!」
僕の肩を掴もうとしていた男の手はあらぬ方向へと向いていた。
そのことに気づかずに僕はそのまま先へと歩いていく。
すると後ろをついてきていたリアが申し訳なさそうに言ってくる。
「あの……、よろしかったのですか? あの人たち、何か用があるみたいですけど?」
「えっ?」
改めて僕は男たちの方を振り向く。
すると手を抑え痛がっている男の人がいた。
「だ、大丈夫ですか!? 一体誰にやられたのですか!?」
「オメェだよ! ちっ、舐めやがって!」
「ちょっと待て、こいつ、強いぞ」
「お頭、力を貸してください」
尾頭と呼ばれた男が僕の前にやってくる。
相変わらず髭面の強面顔である。
しかし、僕たちを前にして何か言いにくそうにしていた。
「あー、その……なんだ。お前達、どこに住んでるんだ?」
「ふぇっ?」
突然そんなことを聞かれるとは思わずに変な声が出てしまう。
「えっと、一応森の中で住んでますね」
「……ちょっと待て。それってそっちの嬢ちゃんもか?」
「はい、もちろんですよ。それがどうしたのですか?」
当たり前のことを何聴いてるんだろうって不思議に思っていると、突然男は泣き出す。
「お前達、苦労してたんだなぁ。そんなお前達からものを盗もうとしてたなんて恥ずかしいぞ」
――えっ? 盗む!? もしかしてこの人たちって盗賊とかだったの?
今更ながら気付いた僕は思わず後ろへと下がる。
「よし、決めたぞ! お前達のことは俺が守ってやる!」
「いえ、結構です。僕たちはこれで――」
なるべく関わり合いたくないとそのまま立ち去ろうとする。
当然ながら盗賊の男に肩を掴まれてしまうが、その瞬間に男の手もあらぬ方向へと向いていた。
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