第11話 新しい生活

 盗賊達九人、それぞれ得意な分野で動いて貰うことになった。


 畑を耕して貰う人が二人。

 森で木を切ってきて貰う人が二人。

 家を組み立てる人が三人

 森で狩りをして貰う人が二人。



 みんなやる気で食後早々に出かけていった。


 ただ、いきなり任せきりと言うのもどうかと思うので今日は見て回ることにした。






(畑の場合)

 畑を管轄しているのはリアなので、ここを任せた人たちには彼女の指示に従ってもらうことになっていた。



「これはすごい! こんなに簡単に畑を耕せるなんて」

「しかし、この森の中で作物が育つなんて信じられないです」



 男たちは素直にリアの言うことを聞いて畑を耕していた。



「リア、何か困ったことはないかな?」

「今のところは順調ですね。そろそろキナコちゃんに新しい作物をお願いしても良いかもしれません」

「確かに同じものばかりだと飽きちゃうもんね。キナコ、聞いてたかな?」

『すぅ……、すぅ……』



 うん、聞いてなかったようだ。

 僕は苦笑を浮かべながら言う。



「キナコ、起きて」

『すぅ……すぅ……。はっ!? あるじ、どうしたのです?』

「この畑の作物って今と違うものを植えてもらうこととかってできるの?」

『もちろんです。今は芋とかトマトとかメインにしてるのです。他に何が欲しいです?』

「やっぱりお米とか小麦とかは欲しいかな。他にもとにかくいろんな種類が欲しいから畑が大きくなったら、キナコが判断して増やしてくれないかな?」

『わかりましたです。では、さっそく……』



 キナコが畑の周りをふわふわと飛ぶ。

 そして、すぐに僕のところへ戻ってきてスヤスヤと眠りについていた。



「ユウ様、今のはもしかして……」

「うん、キナコがなにか畑にしてくれたみたいだよ」

「ず、ずるいです! 私もキナコちゃんに会いたかったです!」

「こ、今度は姿を見せてくれるように頼んでおくよ」

「絶対ですよ!」



 リアの迫力に思わず押し負けてしまう。

 まぁ、キナコなら姿を見せることは嫌がってなかったから問題はないだろう。

 これがクロエだったらすごく大変だっただろうけど。







(森の場合)

 次は木材を取りに行ってくれている盗賊たちを見に行く。


 彼らは元々木こりだったらしいのだが、突然そこの領主に森林へ入ることを禁止されたらしい。

 まともに生計を立てていけなくなった彼らは家族への反感から盗賊になったようで、本来の仕事は木こりであるため、自ら住宅用の木材を切りに行きたいと言ってくれたのだ。


 でも、ここの木はかなりの大木である。

 僕自身も試しては見たが、まともに切れる気がしない。

 そのはずだったが――。



「はっはっはー、なんだこの斧は。木がまるで枝のようだ!」

「おい、切りすぎたら運ぶのが大変だぞ!」

「そういうお前も大量に切ってるじゃないか」

「ここまで切れるとつい……な」



 僕の目の前には大量に置かれた切り倒された大木の山が置かれている。



「ユウ様、何かありましたか?」

「いや、初めての仕事だからなにか不都合がないか見にきたんだ」

「不都合どころか、サクサク進みすぎて怖いですよ」

「あっ、でも切りすぎて丸太を運ぶのが大変そうなのが不都合といえば不都合ですね」

「でも僕だととても運べないしなぁ……」



 何かいい方法がないかと思い、ふとクロエがたくさんのスライムを運んでくれたことを思い出す。



「クロエ、いるかな?」

『――(こくっ)』



 僕の呼びかけにすぐに出てきてくれる。

 しかし、今は姿の見えない光の玉のはずが、それでも極力他の人から見えない位置に行こうとするのも相変わらずだった。



「昨日のスライムみたいにあの丸太を運ぶことってできないかな?」

『――(こくこくっ)』



 どうやらできるようで元気よく頷いてくれる。



「それならお願い」



 僕がそう言った瞬間に丸太がその姿を消していた。



「うおっ!? な、何が起こったんだ!?」



 突然丸太が消えたらそういう反応するよね。



「えっと、この後住宅を建築してるところも見に行くからそこまで丸太を運んでおくね」

「ま、まさか空間を操る魔法ですか!?」

「精霊さんが運んでくれるんだよ」

「でもこれなら安心して切っていけますね!」

「ほ、ほどほどにね。僕がいないと運ばないわけだし」



 気合いを入れる木こりたちに僕は思わず苦笑を浮かべていた。






(住宅エリアにて)

 クロエと雑談……、というか一方的に僕が話しかけてクロエが相槌を打つだけだったが、それでもただ一人で行くよりは随分と楽しい移動ができた。



「それにしても荷物運びみたいな役目をさせてごめんね」

『――(ふるふる)』

「そう言ってもらえるとたすかるよ」



 まだ出会って間もないのにもうすでに会話が成り立つようになっていた。

 僕がわからない時は全身を使ってでも何を言おうとしてるのか伝えてくれるので助かる。


 そして、住宅エリアにたどり着くとすでに地縄が張られていた。


 もっと適当に好きな位置に家を建てるのかと思ったが、結構綺麗に等間隔に並べて建てるようだった。



「ご苦労様。なんかこうしてみると本当に家ができていくんだって気持ちになるよね」

「まだまだ全然工事にすらかかれてないですけどね。木材が届くまでにできることだけしておこうと思ったのですよ」



 住宅の建設を行う盗賊は三人。

 全員が大工出身、というわけではないがそれでも力仕事が得意なものがメインで手を上げてくれた。

 唯一の経験者であるゴンドが親方として指揮をとり、他の二人を動かしていた。



「あっ、そうそう。それ預かってきたよ。クロエ、出してくれるかな?」

『――(こくっ)』



 クロエが何もない場所から大木を大量に取り出すとゴンドたちが目を点にしていた。



「ど、どこからこれを?」

「精霊さんに運んでもらったんだよ」

「なんでもありなのですね……」

「足りなくなったらまた取ってくるからいつでも言ってね」

「ありがとうございます。これで作業も進みます!」



 僕にお礼を言った後、すぐに家の建設が始まった。

 とは言ってもまずは仮設のみんなが住む家を作るらしい。金槌の心地よい音を後にして僕は再び森の中へと入っていく。







(狩りの観察にて)

 狩りの様子を見に結界の外へと出かける。

 ただ僕一人では不安なのか、ミオが実体化してついてきていた。



『ユウ様一人だと危ないですよ』

「マシロの結界もあるから大丈夫だと思うけど?」

『そんなことないですよ。だって、今もこうして襲われてるじゃないですか!』



 なぜか結界を出た瞬間に大猪や大トカゲ、巨大怪鳥や狼の群れに襲われていた。

 それら全てマシロの結界に弾かれて倒していたので、改めて彼女の結界の凄さが浮かび上がる。


 倒した獲物はクロエに運んでもらっている。

 ただあまり倒しすぎるようなら氷室のようなものも作ったほうがいいかもしれない。



「ここにいる魔物って弱いのかな?」

『かなり強い部類ですね』

「それならやっぱりマシロが強すぎるんだ……」

『もちろんですよ。精霊の中でも特に白と黒を冠するものたちは人一倍能力を持ってますから』



 確かにみんなすごいけど、マシロの結界とクロエのもの運び、そしてキナコのモノを作る能力はひときわ凄かった。


 やっぱり精霊の中で能力の上下があったんだ……。


 そんなことをミオと話しているとようやく狩りをしている男たちを発見する。

 ただ相手にしているのは小さな狼。

 それも一体を相手に男たちは満身創痍だった。



「くっ、やっぱりこの森の魔物は手強いな」

「少しでもユウ様の力にならないかと思ったけど、このままだと足手纏いになりかねない……」

「そんなことないよ。ただ、そこまで危険を犯してることだけは後で反省だからね」



 僕が近づいた瞬間に小さな狼は吹き飛ばされる。

 それを見ていた男たちは驚愕するのだった。

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