第2話 小屋(一晩でできました)
翌朝起きると不思議なことが起こっていた。
木にもたれ掛かって眠っていた僕の側になぜか昨日までなかった木の小屋ができていたのだった。
それほど大きいわけではないが、ちゃんと立派な木造平屋の小屋。
さすがに怪しさ満載だったので、精霊達なら何かしらないかとミオを呼び出してみることにした。
「ミオ、今来れるかな?」
『はいー、なんでしょうかぁ?』
「えっ?」
なぜか現れたのはミオではなく、白い精霊だった。間違えて読んでしまったのかと不安に思ってしまう。するとそれを先読みしたのか、白の精霊が答えてくれる。
『大丈夫ですよぉ。ちゃんとミオちゃんを呼んでましたからぁ』
――そっか、ちゃんと呼べてたのならいいか。
「じゃない。どうして白の精霊さんが出てきたの? 僕になにか用があったの?」
『そうですねぇ。あれ、説明した方が良いかなと思いましてぇ……』
僕の視線を誘導するように小屋の方を飛び始める白の光。
「もしかして、あれって君が作ったの?」
『私ではないですけどぉ、他の精霊が作りましたぁ』
「でも、一晩しか経ってないよね。そんなに簡単にできるものなの?」
『簡単に一晩でできちゃいましたぁ』
――そっか……。精霊ってそんなことできるんだ……。
「もしかして、僕のために?」
『はいー。使ってくれると嬉しいそうですぅ』
「そっか。ありがとう」
それなら遠慮なく使わせてもらおう。
「あっ、でも、この辺りって危険な動物とか出てきたりしない? 安心して過ごせないかも」
『そうですねぇ。ミオちゃんとか危険ですもんねぇ』
白の精霊は池の方を飛びながら言う。
確かにあれを小屋に飛ばされたら一撃で壊れてしまうだろう。
危険と言えば危険だけど――。
「精霊さんじゃなくて動物とか。別世界なら危険な魔物とかいるんじゃないの?」
『あぁ、いますねぇ。そこに』
「えっ?」
よだれを垂らしながら僕の方を見る猪が木の陰にいた。
その猪と目が合うと思わず身震いをする。
「ひっ」
『あっ、大丈夫ですよぉ。ちょっと失礼しますねぇ』
白の精霊が魔力を吸い取ると精霊が人型になって現れる。
三回目ともなればさすがに僕もそれほど驚かなくなっていた。
一本だけぴょんっと跳ねたアホ毛がある白の長い髪と白のワンピースを着たどこか気品を感じさせる少女。
小さな傘を持っている彼女は地面に付くことなく空中をふわふわと浮いていた。
そんな彼女が現れたと同時に猪が僕たちへ向かって駆け出してくる。
巨大な木々があるせいでそこまでの速度は出ていないが、それでも小柄な僕からしたら十分驚異であった。
ただ、少し走ったら壁のようなものに衝突していた。
『主様を中心に防御の結界を張らせていただきましたぁ』
にっこり微笑む白の精霊。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
『お役に立てて光栄ですぅ』
目を回している猪は完全に気を失っており動きそうにない。
――これ、食用の肉になるのかな?
ただ、加工する方法がない。
こうスパッと魔法とかで切ることができたら簡単でいいのだけど。
魔法を使えないことをがっかりとしてしまう。
『保管なら黒ちゃんが得意なんだけどねぇ。切るのは……、黄ちゃんだけど、寝てそうですしねぇ』
「それなら無理に起こすのは悪いよね」
どうしたものかと考えていると白の精霊が期待した目で見てくる。
「あっ、そうか。君にも名前を付けてあげないとダメだったね」
『無理しなくて良いですよぉ』
口ではそう言っているもののアホ毛がぴょんぴょんと動いている。
でもこの子の場合だと真っ白ってイメージがあるね。それだと――。
「純白って書いて
『ありがとうございますぅ。主様より賜った名前、大切にさせていただきます』
相変わらずガクッと魔力が減ってしまうが、一晩寝たからか今はずいぶんと余裕がある。
「あっ、そういえば結界ってどのくらい維持できるものなの?」
一晩持つならもう夜の心配をしなくてもよさそう。
ただ、マシロから返ってきた言葉は予想外のものだった。
『私が切るまではずっと続きますよぉ』
「えっ?」
『主様を危険にさらすことはしませんからねぇ』
「えっと、それじゃあもしかして、この家の周りを結界で覆ったりとかも?」
『はいー』
マシロが僕の上空をクルッと白い光がキラキラと降り注ぐ。
そしてすぐに戻ってくる。
「やっぱり難しそう?」
『いえ、終わりましたぁ』
「えっ、もう終わったの?」
『はいー』
笑顔を見せてくるマシロ。
「そうなるとやっぱりあの猪の扱いが困るね。黒の精霊も呼んだら良いのかな?」
『それはやめておいた方が良いと思いますよぉ』
「なにか不自由があるの?」
『二人目の限界化は必要な魔力が倍増するのですよぉ。とんでもない量の魔力を持ってる主様でも大変かと』
「そっか……。それなら今はあのままにしておくしかないね」
当面の食事はミノリが用意してくれた大量のリンゴがあるので食べる上では困らない。
――お肉は食べたいけどね。
とりあえず今できないことは忘れておくことにする。
まずは当初の目的通りに小屋の中を調べることにする。
◇
さっきはジッと見れなかった小屋。
木造平屋。人一人住むには十分すぎるほどの大きさ。
――この木ってあの辺に生えてたやつだよね?
森の一部がいつの間にか狩られていた。
気にしないようにしていたけど。
――でも、あれだけ大きな木をどうやって加工したのだろう?
興味深く思うがとりあえず中へと入る。
当然ながら小屋なので中は部屋が一つあるだけだった。
しかし、なによりもこの部屋にはベッドが置かれていた。
敷き布団や掛け布団はないにしても木で作られたベッドが。
それを見ただけで僕は思わず感謝の涙を流すことに。
「どの精霊さんかはわからないけど、ありがとう……。これで夜もぐっすり寝られそう」
床も木製。ただ、日本の床みたいに表面がつるっとしておらず、ところどころとげが出ていたりするので、さすがに靴は履いたまま入ることになる。
それでも外で野宿をすることを考えると全く快適度が違う。
「あとは机と椅子。料理をするようになるなら厨房の設備かな? あっ、トイレとかも作らないと。お風呂……はさすがに贅沢かな?」
水自体は池から汲んでこればいいのでどうにかなる。
できれば家まで水道を引きたいところだけど、これは急ぎにはならない。いずれそうしたい、と覚えておこう。
――それよりも先にすべきは下水かな?
いつまでも森で隠れてトイレをする、というのは心情的によくない。
特に僕の周りを精霊が飛び回っていることを考えると。
特になぜか精霊は小さな少女の姿に変わる。
ただの光だとしても油断はならない。
その割になぜか必ず一つの光は僕の周りを飛び回っているのだ。
それを考えるとゆっくりトイレをすることもできない。
できれば個室でできるトイレを。
それに何かしら病気が発症するのも衛生面が悪くなるトイレなので、ここは極力綺麗にしておきたい。
「使い終わった汚水を破棄するには、何か方法ってないかな?」
マシロに相談をしてみる。
『それならスライムを飼いますかぁ? 何でも食べてくれますからいいですよぉ』
「よし、それならスライムを探しに行こう」
――スライムって最弱の魔物だろうし、今の僕でも倒せるかな?
『主様がそう仰るのでしたら、このマシロ、全力の限りを尽くさせていただきますぅ。ただ、いざというときは私を置いて逃げてくださいねぇ』
「そんなことはないと思うけど、もしそんなことがあったら一緒に逃げるよ」
『私が殿を――』
「一緒に逃げるからね。わかった?」
有無を言わさない鋭い視線をマシロに送る。
そうでもしないと彼女が本当に自分の身を犠牲にしそうだったから……。
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