第1話 生活環境と整えよう

 ミオが消えた後、当面の目標を立てることにした。

 襲ってくる危険に対してはミオの水攻撃で対処することができる。


 生きていくために絶対に欠かせない水がどうにかできたわけだから次に確保すべきものは食料。その次は居住場所だった。


 ミオのおかげで大分自信が付いた僕は軽い足取りで近場を見て回ることにした。







――な、なにもないんだけど……。



 ミオが作った池の周りをぐるっと一周回ってみた。

 行けども行けども大木が目にとまるだけで、木の実一つ見つけることができなかった。

 しかもその大木だが、巨大すぎて今の僕にはとてもじゃないけど加工ができない。


 家を作ろうにも木材がないのでは作りようがなかった。



――もしかして僕、詰んだ?



 思わずがっくりと肩を落とす。



――落ちこんでいる暇もないよね。



 何も見つからなかったら今日のご飯はなしになってしまう。

 立ち止まっているヒマはない。

 今は一歩でも多く歩いて食べられそうなものを探そう。







「この草、食べられないかな?」



 散々歩き回り日が傾き始めたが、僕の成果はゼロのままだった。

 思わず地面に生えている雑草が食べられないかと考えてしまう。



『それは毒があるの』



 緑の光が僕に近づいてきて言ってくる。



「ミオ?」

『ミオって誰なの?』

「あれっ? 違うの?」



 想像していた精霊とは違い、思わず首を傾げる。

 でも、よく考えるとミオの光は青で、この子は緑だった。



「もしかして緑の精霊さん?」

『そうなの』

「そっか…。うん、ありがとう。おかげで毒のあるものを食べなくて済んだよ」

『どういたしましてなの』


 可愛らしい話し方に思わずほんわかとしてしまう。

 そんなときに僕のお腹の音が鳴る。



 くぅ……。



「うぅ……」



 お腹を押さえながらなんとか空腹を紛らわそうと池へと近づく。



『お腹、空いたの?』

「うん、朝から……。違うね。転生前も入れたらもう一日半も何も食べてないんだ……」

『そ、それは大変なの。なんとかしないとなの!』

「でも食べ物が見つからなくて……」

『少し魔力をもらってもいいの?』



 緑の精霊が確認をしてくる。

 思えばミオの時はここまで詳しく聞いてきてくれなかった。

 しかも今の僕をどうにかして助けてくれようとしているのだから断るという選択肢はなかった。



「いいよ」

『ありがとなの』



 緑の光が僕の方へくっついてくる。

 すると、体から魔力が抜ける感覚がする。


 そして、僕の手のひらには茶色い髪の小さな少女がちょこんと座っていた。ひらひらがたくさん付いた緑のドレスを着ており、垂れ目気味の目をしている。



『ありがとなのー。これで手助けできるの』



 どうやら精霊は魔力を与えないと直接人を助けることができないようだった。

 おそらく人の魔力には制限があるから遠慮しているのだと思うが、まだまだ僕は余裕があるからそんなに遠慮しなくて良いのに、と思っていた。



「あとは、名前もいるよね? どんなのがいいかな?」

『そ、そこまでは大丈夫なの。た、確かに名前をもらったら精霊は大精霊へと進化して強い力を使うことができるようになるけど、ユウさんにとんでもない負担をかけてしまうの』

「気にしないで良いよ。死ぬわけじゃないから」

『し、死ぬこともあるから言ってるの!』



 大げさだな、と思いながら食べ物に困っているタイミングで出てきてくれたところからある名前を思いつく。



「ミノリ、はどうかな? なんとなく緑色が作物を浮かべてしまってたくさん実ってくれるといいなって」

『とってもとってもうれしいの。でも、ユウさんが――』



 心配するミノリ。

 次の瞬間に強力な喪失感が僕を襲う。


 辛うじて耐えられそうではあったものの日に二人以上の精霊に名前を付けるのは無理そうだと感じた。



『だ、大丈夫なの!?』



 泣きそうな表情で僕の顔へと飛んでくるミノリ。



「うん、平気だよ。でも、ちょっとお腹空いたかな」

『ま、待っててなの。今たくさん取ってくるの!』



  そう言うとミノリはどこかへ飛んでいってしまう。







 しばらくするとミノリが飛んでいった方からリンゴのお化けがやってくる。

 いや、たくさんのリンゴを抱えたミノリであった。



『これは食べられる果実なの。いっぱい取ってきたの』

「ありがとう。助かるよ。でも、どこから取ってきたの?」

『それは企業秘密なの』



 リンゴを僕の足下に置いたミノリは口に人差し指を当ててクスッと微笑んだ。



――明日からの食材に使用と思ったんだけどね。



 あまり数がなくて僕を心配させないように場所を教えないだけかも知れないしね。

 でもそれだと僕一人で食べるのも悪い気がする。



『……食べないの?』



 ミノリが不安そうに顔をのぞき込んでくる。



「いただきます」



 リンゴに齧り付く。

 瑞々しいを通り越してどこか水っぽい気もするけど、それでもしばらく何も口にしてない僕からしたらどんなご馳走にも勝るおいしさであった。



「ミノリも食べる?」



 僕の食べさしを差し出すとミノリは顔を赤く染めていた。

 あまりにも自然にやったことだったので気づかなかったが、ミノリの反応を見て、僕もなんだか恥ずかしくなる。



「あっ、ごめんね。新しいやつの方が良いよね?」

『い、いえ、私はその……、ユウさんの食べてたものを少しだけわけてもらえると……嬉しいの』



 顔を真っ赤にしながら僕の手元にあるリンゴへ向かって飛んでくるミノリ。

 小さい体なら僕が口にしてない場所をいくらでも食べられたはずなのだが、なぜか彼女が口にしたのは僕が食べたところだった。



『ちょっと水っぽいの』

「でも美味しいよ?」

『まだまだ改良が足りないの。次はもっと頑張るの』



 何を頑張るのだろうか? 色んなところへ行って取ってきてくれるってことだろうか?

 そんな疑問を抱きながらも両手に握りこぶしを作り気合いを入れているミノリを見て、ユウは彼女の頭を軽く撫でる。



「一緒に頑張ろうね」

『あ、あわわわっ……』



 あまりにも自然にした行為だったが、ミノリからしたら赤面を通り越してリンゴ状態になっていた。



『わ、私、これ以上は無理なのぉぉぉぉ』



 最後に悲鳴を上げながら緑の光へと戻っていった。

 なんだか悪いことをしてしまったかな?







 夜になる。

 辺りを照らす照明がないので、僕の回りはすっかり真っ暗になっていた。

 食料と水をどうにかすることに手一杯で今日は家の準備ができなかった。

 明日には住宅用の木材を確保する方法を考えないと。


 色んな出来事がありすぎたのと魔力の使いすぎもあってものすごく眠かった。

 でも、本当に寝ても大丈夫なのだろうかと不安に思う。


 起きているときは何かが襲ってきても対処できるのだが、寝ていてはそういうわけにもいかない。

 ただ、襲い来る睡眠欲には勝つことができず、深く寝静まってしまうことだけはないように注意して、仮眠を取ることにした。




◇◆◇




赤『それではこれから青のギルティー裁判を行うっす』

ミオ『何もしてないよ?』

赤『ユウに名前をもらったっす。それだけでもう罪深いっす』

黒『――(コクコク)』

黄『すぅ……』

ミオ『それを言うなら緑、ミノリも同じだよ』

ミノリ『私はユウさんが死なないようにするためだったの。他に方法がなかったの』

赤『緑は今のところ執行猶予っす。それじゃあ判決を執り行うっす』

白『それよりも主様がほしがってたものがあるんじゃないですかぁ?』

赤『はっ!? そ、そうだった。よし、おれが一番役に立って見せるっすよ』



 精霊達はみな散り散りに飛び去っていった。

 後に残されたのは青と白の二人。



ミオ『助かったよ。ありがとう』

白『気にしなくてもいいですよぉ。そんのちょっと、次呼ばれたときに代わりに私にいかせてくれるだけでいいですよぉ』



 ここまで考えての行動だったらしい。

 ミオは乾いた笑みを浮かべながらも今の白には逆らえないと頷くしかできなかった。

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