異世界ゆるふわ開拓記〜万能精霊と始めるチートスローライフ〜
空野進
町開拓編
プロローグ
――冷たい……。
誰もいない夜の公園横の歩道。静かで木の葉が揺れる音暗いしか聞こえない。
周りを街灯が淡く照らしているが目を凝らさないと先は見えないほどに薄暗い場所で僕、
どんどんと血の気が引いていくのがわかる。
僕を刺して逃げていった男は既に姿が見えなくなっている。
でも、その男が誰かはわかった。
昼に同じ歳くらいの高校生の少女を襲おうとしていた男。
僕が声をあげたら逃げていったその人であった。
――おばあちゃんから人を助けると巡り巡って自分に返ってくるって言われたんだけどな……。
放っておくことができずに珍しく勇気を出して行動した結果、少女には感謝されたが夜のバイト帰りに突然刺されてしまったのだ。
男は自分のやってしまったことに恐れをなして、「ひっ」という小さい悲鳴を上げて逃げ去っていった。
後に残されたのは僕一人。
薄暗く寒い星空の下、意識が薄れていく。
誰にも見守られない……というのは思いのほか孤独で悲しいものだった。
碌に友人がいない人生……。
止めどなく流れる涙を血に濡れた手で拭う。
顔が汚れることを気にもせずに……。
自分のやったことはなんだったのだろう……という後悔を抱きながらもついには視界が暗闇に覆われた――。
――今度はたくさん友達ができるといいな。
◇
色鮮やかな光の玉が目の前を飛び回っている。
赤『もう起きたっすか?』
青『まだ寝てるよ』
白『寝ぼすけさんですねー』
黄『すぅすぅ……』
黒『――(コクコク)』
赤『そろそろ起きそうっすね』
緑『起きるの、起きるの』
黄『はっ!?』
黄色の光の玉が目を覚ました瞬間に光の玉は散り散りに去って行く。
その際に、青い光が顔にぶつかったことで僕は意識を取り戻した。
「えっ!? ぼ、僕、助かったの!?」
思わず飛び起きて刺されたお腹を
それどころか服自体が傷一つない。ちょっとゴワゴワとして着心地はイマイチだったが。
――誰かが着替えさせてくれたのかな? そういえばさっき、光の玉が飛んでた気がするけど……気のせい?
周りを見渡すが光の玉は全く見つからずに幻覚を見たのかなと思える。ただ、ここば元いた場所でないことは周りを見れば一目瞭然であった。
先ほどまで公園の歩道にいたはずなのに今は森の中で寝かされていたのだから。
「どこだろう、ここ。見たことない場所だ……」
近くに人一人もいない。
ただ、場所が場所だけに人がいた方が怖いかもしれない。
薄暗い森の中を歩いている人なんてどう考えても普通の人に思えなかった。
そもそも自分が住んでいた近くでこんな大森林とも言えそうな森があるなんて話しは聞いたことがない。
近くを調べてみようと一歩踏み出すが、いつもとあまりにも違う感覚に思わずよろめいてしまう。
「わわっ……」
なんとか踏ん張り、転けるのだけは回避する。
でも体の異変にはすぐに気づいた。
――なんだろう? まるで小さく、それこそ子供になったみたい……。
顔や体をペタペタと触る。
まるで子供のような柔肌。手足も短く小さい。目線もだいぶ低くなっている。
――鏡でもあれば姿を確認できるのに。
だが、鏡はおろか体が映りそうなものは周りにはなにもなかった。
「せめて川……、水でもあったらなぁ」
そんなことを考えると目の前に幻かと思っていた光の一つ、青い光が現れる。
『呼んだ?』
突然声が聞こえる。
どうやら先ほどの声も幻聴ではなかったようだった。
どう反応したら良いだろうと少し迷った結果、僕は頷いていた。
「……うん」
『わかったよ』
ポンッと甲高い音が鳴ったかと思うと少し体にだるさを感じる。
何かが体から抜けていくようなそんな感覚に「ダメな回答をしたのでは?」と不安に思う。
しかし、すぐにその理由がわかる。
先ほどまで光があった場所には青みがかった銀色の長い髪、サメフードが付いた青いワンピースを着た、手のひらサイズの少女が現れる。
『魔力、もらったよ』
僕が出した手のひらにちょこんと乗る少女。
あまりにも不可思議な存在に僕は思わず聞いてしまう。
「君は誰? 幽霊さん?」
『青だよ』
「青?」
『みんなそう呼んでるよ』
「青の精霊さんかな?」
『そうだよ』
「もしかして名前はないの?」
『ないよ』
さすがに色だけの名前はかわいそうに思える。
それなら代わりに付けてあげるのはどうだろうと提案してみる。
「良かったら僕が名前を付けてあげようか?」
『良いの? ユウ様の負担が大きいよ?』
「ただ名前を付けるだけだよ。たとえば美しい青って書いて
『ミオ、ミオ、わーい! ありがとーだよ』
嬉しそうに手の上で飛び跳ねるミオ。
すると、名前を付けた瞬間に先ほどとは比較にならないほど体の中から何かが消失していくのを感じる。
『大丈夫?』
「うん、ちょっと立ちくらみしちゃったけどね」
『魔力を使いすぎたんだよ』
「魔力?」
『そうだよ。みんな持ってる魔力だよ』
「えっと、僕も持ってるの?」
『もちろんだよ。ミオはユウ様の魔力もらったよ』
どうやら今さっき抜けたように感じたのが魔力だったようだ。
「それじゃあ僕も魔力を使って魔法とか使えるの?」
『むぅ、ユウ様は魔法に浮気するの? ミオがいるのに?』
「使ってはみたいかな?」
『残念だよ。ユウ様には魔法のスキルはないよ。だからミオで我慢だよ』
なぜかミオは嬉しそうに笑顔を見せてくる。
「そっか、それなら仕方ないね」
『それよりユウ様、ミオを読んだってことは何かしてほしいことがあったんじゃないの?』
「あっ、そうだった。僕の今の姿が見たいから水を出してほしいんだった」
『水だね。わかったよ。思いっきり行くよ』
ミオが手を空に掲げる。
その瞬間に水の塊が空から落ちてくる。
ただ問題はその大きさだった。
ガスホルダーのような球体状の巨大な水。
しかもなんだか勢いがついているようにも見える。
『行っくよぉぉぉ!!』
「だ、だめー」
ドゴォォォォォォン!!
僕の必死の抵抗も虚しく、水の球体は目の前に落とされ、鈍い音を鳴らしていた。
そして、目の前には大きなクレーターが出来上がり、そこに落ちてきた水が溜まり池が出来上がる。
森? もちろん辺り一体、そんなものがなかったかのように薙ぎ倒されてしまっていた……。
僕は一部跳ねて、雨のように降り注ぐ水に濡らされながらジト目をミオに向けていた。
『ちょっと失敗だよ』
「ちょっとじゃないでしょ!!」
僕自身に当たらなかったからよかったものの、もし万が一当たってたら大変なことになっていただろう。
『うぅ、ごめんなさい』
「うん、次から気をつけてくれたらいいからね」
『うん、次は気をつけてぶっ飛ばすよ』
なんだろう、次も失敗するような気がしてきた。
でも、とりあえず予想もしない方法で飲み水を確保することができたかな?
――精霊が出した水って飲めるよね?
◇
ミオのおかげでわかったことが大分あった。
まずは僕の容姿について。
池ができたのだから、とのぞき込むようにして確認をする。
十歳前後の小柄な背丈、やや幼く優しそうな童顔、肩ほどまで伸びた黒髪、クリッとした丸い瞳、ぷにっとした餅のように柔らかい肌の少年が映し出されていた。
「だ、誰?」
『ユウ様だよ』
「えっ?」
『ユウ様だよ?』
「それはそうだけど」
『うんっ』
満足したようで笑顔を見せてくるミオ。ただ僕の方は困惑したままだった。
しかしここまで見ればはっきりとわかるが、どうやら僕は転生してしまったようだ。
「そういえばミオのことはこの世界の人だと誰でも見えるの?」
『今くらいの魔力をもらったら姿を見せられるけど、普段の姿は見えないよ?』
「あっ、そうなんだ。精霊を見るのにも適性とかがいるのかな?」
『そうだよ。精霊系のスキルを持ってないと見られないよ』
「それじゃあ、僕にはミオを見ることができる……、青の精霊系のスキルの適性があるってことだね」
『……違うよ』
予想が外れて、思わず首を傾げる。
「そっか。適性があったらいつでもミオに会えると思ったんだけどな……」
『呼んでくれたらいつでも来るよ』
「えっ、本当に!? ありがとう」
ぬいぐるみみたいな精霊だが、友達ができたことに喜び思わず笑みをこぼす。
するとミオは照れて顔を赤く染めていた。
『今日は帰るよ』
「あっ、もう帰っちゃうんだ。また遊びに来てね」
『……んっ』
手を振ってミオを見送るとその姿は次第に薄くなり、青い光となって消えていた。
「ミオ、来て!」
『今帰ったところなのにすぐに呼ばないでよ!? 精霊に実体を持たすのはユウ様の魔力、たくさん使うんだよ!?』
「でもちゃんと召喚できるのか見たかったし……」
『ならこれでもう大丈夫だよね!? 今度こそ帰るよ』
再びミオが光になって消えていく。
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