異世界転移は常識《テンプレ》です

I. 変態は突然現れる!?

 その日もいつものように登校した俺は、通学路で一緒になった友人達と教室に向かった。

 昨夜のTVドラマの話題で盛り上がる友人達を余所に、俺は最近始めたばかりのゲームに集中していた。

 代わり映えのない日常が、意識せずとも、俺の身体を教室へと運んで行く。

 最後に教室に入った俺は、ゲームに夢中になるあまり、誰かにぶつかってしまった。

「あ、ごめ………んっ?」

 すぐに謝ろうと顔を上げた俺の前に、見知らぬオッサンが一人。え、何この変態…。つーか、ここ教室じゃないじゃん…。

「初対面の人に対して変態はないんじゃないかい?まぁ、ボクは心が広いから笑って許しちゃうけど、普通なら激おこものだよ?」

 背中に翼をつけた上半身裸の髭もじゃジジィが、激おことか言うなよ…。そもそもオッサンがボクとか恥ずかしくないのかねぇ。

「えっ?反応するところそこなのっ!?普通心を読まれて驚愕びっくりするところだよね!?」

 いまどきの日本男子は心を読まれたくらいで驚愕びっくりするわけないだろ…。神様的なやつなら、そのくらい知ってないと駄目なんじゃないか?

「いやいや、それはおかしいから!なんか常識を語ってるように言ってるけど、違うからね!?というか、まだボクの正体を言ってないよね!?」

 おいおい、それでも神様的なやつかよ…。学校から何の前触れもなくこんな何もない白い空間に転移して、そこに誰かがいたのなら、十中八九そいつは神様的なやつだろうよ。

「…確かにボクは君達の言う神ってやつだし、君が言ってることはもっともなんだけど、なんか釈然としないんだよなぁ…。まぁいいんだけどさ。それよりもそろそろ普通に会話してくれないかな?」

「仕方がないな…。で、俺は何でこんな所に拉致されたわけ?」

「ホント何なのこの子!拉致とか言わないでよ!君はこれから異世界に行くことになったから、心構えができるように神界に呼んだっていうのに!」

「ほぉ、つまり勇者召喚ってやつ?」

「……いや、実は君が異世界に行くのは創造神様が決めた事で、勇者召喚とかの類いたぐいじゃないんだ」

 ん?ならなんで、俺が異世界に行かなきゃいけないんだ?

「それは、ボクにもわからないよ…。それに、勇者召喚じゃないから、今流行りのチート能力なんてのもあげられないんだ…」

「えっ?」

「創造神様が決めた事だから、ボクにはどうしようもないんだ…。ごめんね」

 オイオイ、チート能力も無しで、生きていけるような世界なのか?

「…想像通り、魔法と剣のファンタジー世界だから、モンスターもいるし、亜人種もいるよ。まぁ、頑張ってとしか言えないね…」

「断固拒否する‼︎そもそも、なんで俺が異世界に行かなきゃ行けないんだ!早く日本に帰してくれ‼︎」

「あ、時間になったね!大変だろうけど頑張ってね〜」

「なんだよ、オイ!クソ神!ふざけっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」

「…落とし穴で異世界転移はテンプレでしょ?ってもう聞こえないか…」

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