いきなり異世界!?えっ!?テンプレじゃないっ????

神崎 悠里

 プロローグ

 魔境と呼ばれる森の奥深くにその建物は存在していた。

 気の遠くなる年月としつきを風雨に晒されたその建物は、漆喰が剥がれ落ち、石材も砕け、廃墟の様相を呈していた。

 だが、そんな荒れ果てた外観からは想像ができないほどの神聖な気がその建物から放たれており、ボロボロとなった今でも辺りを聖域へと昇華させていた。

 人々から忘れられたはずの廃墟に、幾百年ぶりの来訪者たちが現れた。

「…あ、あった…。ほ、本当にあったぁーーー‼︎」

「や、やったでやす‼︎やったでやすよ!」

「…おぉぉ、やっと見つけたぞ‼︎」

 喜びに顔を紅潮させる来訪者たちの目には、うっすらと涙が滲んでいる。

 物々しい装備を纏っているが、あちこち破損しているその姿が、この場に至るまでの道程がどれほど険しかったのかを物語っていた。

「それじゃあ行くわよ」

「おぅ!」

「ハイでやす!」

 一頻ひとしきり喜びを分かち合った来訪者たちは、気を引き締めるとある目的の為に廃墟へと足を進めた。


 正面入口の真上には、風化し、ボロボロとなった男神と思われる神像が飾られており、久方ぶりの客人たちを歓迎するように微笑んでいる。

 躊躇することなく、入口を潜った来訪者たちは眼前に広がる光景に息を飲んだ。

 屋内も外観に負けず劣らずの半壊状態であり、床のタイルは割れて雑草が繁茂し、天井は崩れ落ち、青空が覗いてる。

 そんな荒れ果てた屋内で唯一原型を留めている祭壇に降り注ぐ陽光ひざしが、神秘的で清廉な空気に包まれていた。

「……流石さすがは創造神を祀る神殿ね。荒れ果てた今でもこんなに神気が満ちてるなんて…」

「…あぁ、流石は最高位の神だ。これなら期待できるんじゃないか?」

「は、早く行くでやすよ!」

 逸る一人が駆け出すと、後を追う様に二人が続く。

 床に転がる瓦礫を避けながら、祭壇へと着いた三人は、祭壇に繋がる台座を調べ始めた。

「問題なく使えそうッス」

「そうね。…それじゃあ、私からやるわ」

 台座に損傷のない事を確かめると、少女が台座の前に立ち、男達を下がらせる。

 台座に手を翳した少女は、目を瞑り深く息を吸い込むと、祝詞のりとを捧げる。

「天地造りし始原の神よ ことわり定めし至高の存在よ 卑小の我が言葉ことのはに応えどうか慈恵と恩寵を---【神授の儀】」

 フワリと辺りが暗くなる。

 台座に刻まれた幾可学模様が淡い緑光を灯し、やがて祭壇へと広がる。

 ズゴォォォォォン、ゴロロロロォォと雷鳴が響き、祭壇の上に魔法陣が現れ広がる。複数の魔法陣が踊る様に現れては集まり、重なり、球体をかたる。

「「「…す、すごい…」」」

 目の前で起こる光景に驚く三人の声が重なった。

 祭壇の上では複雑な多層構造を描く球体魔法陣が輝きを増していき、臨界点に達した瞬間、弾けるように辺りを白く染め上げた。

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