異世界から帰還しました!②

 時間は少々巻き戻り、まだ出た森の時。


「さてと……」

 姉ちゃんをヴェントゥスに任せて、俺はこの不審な女とそこから離れ話が漏れないようにと、万が一でも姉ちゃんの耳に届かないように結界を貼る

 レッサーフェンリル程度に負ける相手とはいえ、この世界の実力は今だ未知だ。いくら警戒しても問題はないだろう

 まあ姉ちゃんからすればグレートウルフでも強敵だろうけど……

「それで。お前の言う話って何なんだ?」

「はい。でも、さっきの女の人には……」

「姉ちゃんには俺から伝えるから。一先ず俺に言え。あと俺の質問にも答えてもらうからな」

 ま、伝え方も伝える内容も、これからの話の内容次第だけど……

「わ、わかりました。えっと、まず聞きたいんですけどあなた達は”異世界帰り”で間違いないですよね?」

「……その異世界帰りって言うのが、”一度異世界に行って、帰って来た人”のことを指すなら大体は間違ってはないけど」

 正しくはこの世界じゃない気もするけど、今は置いておこう。今のところそれを言う理由もないし

「やっぱり。さっきの狼たちを操ってるのでだろうって思ってましたけど、間違ってたら怖かったんでよかったです。一先ず、ご帰還、おめでとうございます」

 安心したように頭を下げた姿は、異世界から帰って来ることに対して随分手慣れてるようだった

 それにまず確認するところがそれってことは、異世界から帰って来ることはそこまで珍しくないってことか?

「突然異世界に行って、また帰って来て驚いたかもしれませんがご説明させていただきます。まずご理解いただけていると思いますが、世界というのはあまたに存在しています。そして別世界からの召喚を行なう世界も少なくはありません。ですが別世界に呼ばれようと、ここ、元の世界との縁が途切れたという訳ではありません。だからこそ時間はかかりますが、このように戻ってくることができるんです。物語の中のようにずっと向こうに行きっぱなしって言うのは殆どありませんね」

 つまり……姉ちゃんと俺もまだ元の世界とのつながりが残ってる? いや、多分それはこの世界限定の特性だろうな。

 それに万が一繋がってるんだとしても、それは姉ちゃんだけだろう。既に一度死んだ・・・・・俺は完全に縁が切れてる、もし縁があったとしてもさっきまで居た世界のかな?

「そして異世界から戻ってきた人達は世界渡りをして身に着けた力をそのまま持って戻ってきます。そのせいで自分の力に慢心する人が多くて……はぁ」

 すごい切実なため息に、どんな現状なのかおおよそ想像がついて、思わず道場してしまう。

 もし姉ちゃんがいたら可哀そう過ぎて頭撫でてあげてそう……

「そして私はこの世界で異世界帰りの保護、記録、社会復帰のサポート、そして……行き過ぎた行動、犯罪者の拘束を仕事としている『異界警察』の者です」

 異界警察っか……確かに、やっていることは相手が限定している警察だな。

 社会復帰のサポートってなんか犯罪者っぽい言い方だけど、平均が分からないけどもし最低が年単位なんだとしたら、ズレまくった価値観や持ってきた能力での私生活の誤差などのせいで、こっちでのサポートがないと普段通りの生活はかなり大変だろう。

「ですので、あなた達姉弟も保護したいのですが……」

「それは構わないが、今すぐは避けてほしい。ついさっき戻って来たばかりで、出てきた場所もここだったから休む時間も欲しい」

「それならこちらで準備している場所があるので、そちらで……」

「悪いけど、現段階で俺たちがあんたらを今現在信用できると思ってる?」

「それは……」

 お前らが異世界で手に入れた力を利用しようとしているやつらじゃないって、保証がどこにある?

 意識的に冷たく、低い声で聴き返せば言い返せるほどの材料を持っていないらしく、少し口籠って諦めたようにため息をついた

「わかりました。ただし数日の間に必ずこちらに連絡を取ってくださいね」

「良いだろう。なら連絡用にこいつを渡しておく」

 ゲートから一匹の純白の美しい小鳥を出して、その美しさに見とれているこいつに渡す

「はわわわ~、きれー……さっきの狼と言い、あなたはテイマー何ですね」

「うーん、まあそんなところ。こっちが落ち着いたらそいつを通して連絡する」

「わかりました。あ、私は異界警察風ノ部の彩仍あやの茉莉まり と申しまして、異界警察に連絡する際は私の名前を出していだけるとありがたいです」

「覚えてたらな」

「ひどい! 君のご主人様ってば酷いね、ピーちゃん……」

 分かりやすく悲しいですというように手の中にいる俺のやった鳥に行っているが、勝手に人の鳥に名前を付けるな……まあ名前つけてるのなんて十数匹ぐらいだから、一匹ぐらいいいけど

「あと、こっちからも質問があるんだがいいか?」

「はい。私が答えられる範囲でいいのなら」

「俺たち、お前らで言うとこをの異世界帰りだが、お前らに保護された後はどういう扱いになる?」

 内容によっては俺もやり方を考えないといけないが……

「そうですね……私はあまり配属について詳しい立場ではないんですけど、基本は異界警察に所属してもらいますね。能力を持たずに向こうで普通の生活をしている人もいるんで確実という訳じゃ人ですけど、大雑把に生活魔法という風に呼ばれるものだけを使える人は経過観察するだけで、普通の生活を送っている人もいますね。でもあなたは間違いなく所属になると思いますよ」

 まあ別に俺はいい。こっちの実力者がどれぐらいの物なのか分からない以上、情報は欲しいしな

 でも姉ちゃんは……

「……そんなに力が無い人は普通の生活になるのか?」

「へ? ま、まあ基本はそうですけど、基準が私にはわからないんで、下手に断言はできませんよ?」

「まあ今はそれでいい。あとこっちにもあるもので向こうから持ってきたものをこっちで売るのは可能か?」

「えっと、こっちでのものと完全に同じものだと“鑑定”をして分かるんでしたら特に問題はありません。もちろんモンスターの素材とか、魔石とか、魔道具とかは絶対にダメなものですけど…こちらで売買したい物が?」

「まあな。あとさっき言ってた風ノ部ってなんだ?」

「ああ、それは、えっと、まだ部外者に教えるわけには……」

「……それはすまない」

 もじもじと申し訳なさそうに言いよどむが、聞き出そうと思えばいくらでも聞きだせる。でも自分がこの世界でどれぐらいの実力者なのか分かっていないうちに下手な行動はよしておいた方が良いだろう

「あの~、他に質問はありますか?」

「いや。今はこれでいい。それじゃあ、なにかあったらそれに紙でも渡してくれればいいから」

「わかりました……あ! すみません! あなた達の名前だけ今のうちに教えてください⁉」

 ああ、そういえばまだ言ってなかったっけ……そろそろ大丈夫だよな

「俺は優良まさよし。姉ちゃんはいより。ま、よろしく」

 それだけ言って結界を解き、一応つけておいた使い魔で反対の方に帰って行ってるのを確認して、飛ばしておいた他に指示をだしておいた奴らからの報告を聞いてから姉ちゃんの元に戻る。

 寒かったのか、ヴェントゥスの毛並みに体を潜らせながら撫でていた

「お帰り、マサくん。どうだった?」

「ただいま、姉ちゃん。ヴェン、何もなかったよな」

「ガウ」

 本当に何もなかったらしく、ヴェントゥスがいるから大丈夫だろうとは思っていてもまあ安心する

「とりあえずここが日本だってことは分かったから、まずは家に帰ろっか」

「本当! よかったぁ。そういえば彼女はどうするの?」

「ああ。彼女には僕の使い魔を一体渡して後でまた会おうってことになってるから。姉ちゃんは気にしなくていいよ」

 姉ちゃん、本気で嬉しそうでよかった。でもやっぱり少し元気ないな、早く家を用意して帰って休ませないと……

 ここは伝えないけど、ここは本当の故郷の日本じゃないから、実家には帰れない事、こっちでの生活基盤を整えるために俺の使い魔の力を使うという事、こっちにもあるとはいえ向こう物を売るという事などを伝えて、姉ちゃんもそれでいいって言ってくれたから、そうするために必要な奴らを読んでお急ぎで家も、俺たちの戸籍も用意する

 姉ちゃんに快適な生活をしてもらうためにも、立地がよく俺の使い魔もある程度はなっておけるように大き目の家を選んで、廃墟になっていたが使い魔の一体が時を戻して新品同然にして、近所の人達の記憶も多少弄ってから姉ちゃんを連れてその家に向かった

 新しい大きくて奇麗な家に眠そうに船をこいでいた姉ちゃんは大喜びして……

「お帰りなさい。姉ちゃん」

「ただいま。マサくん…………お帰りなさい。マサくん」

「……ただいま」

 姉ちゃんのお帰りに、ああ帰って来たって心底実感した

   ❀❀❀

 姉ちゃんが用意した二階の部屋で眠ったのを確認して、一階のリビングのソファでようやく一息付けて、あの世界ですっかり馴染んだ向こうのワインを飲む

「アインザック。調査したこの世界の報告をしろ」

「かしこまりました」

 音もなく俺の後ろに現れたサイドを人房分だけ伸ばして前髪を掻き揚げている白髪に、鋭く細い目から見える赤い瞳。髪と同じ色の山羊の角のようなものが頭に生えている男は冷静にこの世界について報告を始めるのを静かに聞く

「--そして、以上のことを踏まえますと。この世界は主様が元居た世界と似て非なる世界かと思われます」

「……だろうな」

 本当はこっちの世界に戻ってきた時点で分かっていた。でも、いい思い出が一個も無いんだとしても、日本に戻りたいんだと願っていた姉ちゃんに、本当のことは言えなかった。

 この世界が、元の世界と限りなく似ているから、なおの事……

 あの女。茉莉に言われたことも含めて改めてその事実について理解はするが、やはり自分側の奴に言われるほうが納得できる

「姉君にはどうお伝えしますか?」

「………姉ちゃんには言うつもりはない。お前らも絶対に言うなよ」

「かしこまりました。では、もし姉君が自力で気づいてしまった場合は……」

「その時はしょうがないから伝える。でもできる限り誤魔化せ」

「かしこまりました。あと、あの小娘についてですが、本部に戻った後に主様たちのことを報告したらしいです」

「それはおおよそ察していたし、向こうとも接触したいから別にいい。特に不都合な情報を知られている訳でもないしな」

 万が一知られていたとしても、その場合はあの使い魔が始末するだろう。

 リトルエンジェルバード。その名の通り天使のように美しい純白の姿と泣き声、そして光魔法を使えるとても希少な鳥で、この見た目でありながらレッサーフェンリルぐらいならたった一匹で群れを蹂躙できるほどの力を持っている鳥だ

「他にないな? 下がれ」

 静かに消えていったアインザックの代わりに、庭に放していたヴェントゥスを呼びつけて撫でる

「……今日は、久しぶりにお前らをたくさん使って俺もだいぶ疲れたよ。ヴェントゥス。誇り高き風と氷の魔獣、フェンリルよ」

 俺は、向こうに召喚された姉ちゃんとは違い、向こうの世界に転生をしたのだ……当時やっていたゲームのキャラに憑依して

 あのゲームはグラフィックが奇麗だからと姉ちゃんが興味を持ってたけど、難しいからって諦めてたから俺が最強データを作って姉ちゃんに渡そうと思って育てた。

 あんまりゲームが得意じゃ無い姉ちゃんのために、姉ちゃんが自分で何もしなくてもゲームの世界を楽しめるように職はテイマーを選んだ。テイムしたモンスターに戦わせれば姉ちゃんはゲームに専念できると思って

 だからサーバー内でも最強クラスのアバターにまで育てあげた

 あとはこれを姉ちゃんにあげようって思ったところで、突然俺が倒れてそのまま逝った

 そして姉ちゃんのために厳選に厳選と度重なる幸運でテイムできたアバターに憑依する形で、姉ちゃんと再会したあの世界に転生をした

 このフェンリルは俺がゲームから持ってきた伝説の魔獣だ。

 あれだけ大量のレッサーフェンリルをテイムできたのも、こいつがいるからなのが大きい

 姉ちゃんがいない世界に転生したって事実に心底絶望したけど、今の優しい家族を悲しませるだけだし、例え今の俺でも死んだら悲しむってわかってるから仕方がなしに生きてた

 あと、この体なら全国渡り歩いて元の世界に戻る方法を探した

 それを見つける前にあっちに呼ばれてた姉ちゃんと再会したんだけど……

 それで姉ちゃんが元の世界に帰りたいって願ったから、必死に世界を渡るすべを見つけて魔王が持っていた異界転移の技術をぶんどってこの世界に来た

 この世界を生活の基盤にして、今度こそ姉ちゃんと元の世界に戻る。そのために姉ちゃんにはもうしばらく黙ってないと……

「ふわぁ~、俺も寝よう。明日からも姉ちゃんのことを頼んだぞ」

 明日のための準備を最低限済ませてから、姉ちゃんの隣の部屋でぐっすりと眠った


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