異世界帰還~暗躍してくれる仲間がいるので、私は寝ます~
@kanamon510
異世界から帰還しました!①
「こ、この魔法陣に入れば、良いんだよね?」
「うん。そうだよ、姉ちゃん」
大きな力を感じる魔法陣を前に少し怖気づいてしまいそうになるが、腰に手を回して抱きしめてくれたマサくんに、勇気を出して魔法陣の中に一歩を踏み出す
途端に強く魔法陣が光り出して、足元の感覚が石レンガから柔らかな土の感覚に変わる
恐る恐る目を開けると薄暗い不気味な森の中で、まさか失敗したのではと血の気が引いて来たが、安心させるようにまた抱きしめてくれて
「ゲート。辺りを散策して来い」
渦の様な穴をあけて、そこから数百匹の鳥類を出して全方位に放っていく
「マサくん……」
「大丈夫だよ、姉ちゃん。もし失敗していたんだとしても、俺が絶対に守るから」
「うん」
力強い言葉に安心して、出来る限り離れないように抱きしめる
そのおかげか、風がある程度強かったが寒さを感じることはなかった
互いの心臓の音が聞こえそうなほど密着したまましばらく待っていると、何かを見つけたように反応して私を抱き上げて走りだす
私を抱き上げたまますごい勢いで木々の間を軽々と走り抜けた先には、マサくんのレッサーフェンリルに囲まれて怯えている少女がいた
「ふえぇぇ~。お姉様助けてぇ」
「ッ⁉ マサくん止めてッ!!」
驚いて叫ぶと警戒体制のままでもレッサーフェンリルを下がらせてくれて、私もマサくんから降りて慌てて彼女に駆け寄る
「大丈夫? レッサーフェンリルたちが怖がらせちゃってごめんね」
涙をシルクのハンカチで拭って、安心させるように頭を撫でる
「あ、あ……」
母音だけを発しながら、ぷるぷるとさらに震えながら縮こまって行って、もっと怖がらせちゃったかと抱きしめてあげるべきか? それとも逆に一度離れるべきかな?
そう思いながら頭を撫でてあげ続けていると
「ありがとうございます゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ー!!! 死ぬかと思った゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「うわぁっ⁉」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら抱き着いてきて、慌てて抱きしめ返してあげると、わんわんと泣きながら私のお腹に顔をこすりつけて来たけど、泣き止ませるのが最優先だとよしよしと頭を撫でる
「よしよーし。怖かったんだね。もう大丈夫だよ~」
「びえぇぇぇーーーん゛ん゛ん゛!!!!」
ああ、うん。一度こうなった子はそう簡単には泣き止まなんだよなぁ
そう思った通り、この子が泣き止んだのは私の服が彼女の涙でぐちゃぐちゃになるころだった
「グズッ、ヒック……」
「落ちついた?」
「は、はぃ……すみません……」
「そう思うなら姉ちゃんの服をこんな汚さないでくれ」
「コラ、マサくん!」
向かい合わせに座っている、まだ微妙に泣いている彼女の背中をさすってあげようと立とうとしたら、嫌そうな顔のマサくんに抱きしめるように抑えられて仕方なく座り直す
「とりあえず服を奇麗にするね、姉ちゃん…………〈クリーン〉。それから〈ドライ〉」
途端に私の服についていた汚れや水痕がきれいさっぱりと消えて、濡れていたという不快感も消える
「ありがとう。マサくん」
「この程度当然だよ」
「ッ!」
「「あ」」
当たり前のように使ってもらった〈生活魔法〉。でも目の前に私たち以外の人がいるってことを思い出して、血の気が引いたような気持になった
ヤバイ。見られちゃったッ⁉ いやまあそれを言ったらレッサーフェンリルの時点でってはなるけど……
「えっと、その、こ、これはねッ!」
「姉ちゃん。下手に取り繕うとしなくていいよ」
「え?」
「お前。何者? レッサーフェンリルには手も足も出なかったみたいだけど、その前に出していたグレートウルフをどうにかできるってことは、只ものじゃないでしょ」
えっ⁉ ぐ、グレートウルフを倒したの⁉
「え、えっと。違いますッ! 怪しいモノじゃないんです! いや、確かにこんな森の中に居る変な人にしか見えない気持ちは分かるんですけど……とにかく、私の話を聞いてください!!」
また今にも泣きそうなほど目に涙を溜めている姿は本当に庇護欲をそそるけど、でもグレートウルフがどれほど強く、厄介な魔物なのかを知っている身からするとそう簡単に気を許すわけにはいかない
マサくんの後ろ、それもレッサーフェンリルの群れのボスの子にしっかりとくっついて警戒をする
「お願いします。話だけでいいんで……」
うっ、でも流石にこれは虐めてるみたいだけど、我慢我慢。私は何の役にも立てないんだから……
「どうするの、マサくん」
「…………話だけなら聞く。今は情報が必要だ。あ、でも話は俺一人で聞くから、姉ちゃんはレッサーフェンリル……いや、ヴェンと一緒に居て」
「はーい」
新たにマサくんがゲートから呼び出したヴェンと一緒に、彼女と共に森の奥へと向かうマサくんを見送る。
他のレッサーフェンリルとよく似ているようで、より大きく凛々しい顔をしているヴェンの質のいい毛並みに埋まるように寄りかかる
もふもふとヴェンの毛並みを堪能していると、三十分程度の事だっただろう
「お帰り、マサくん。どうだった?」
「ただいま、姉ちゃん。ヴェン、何もなかったよな」
「ガウ」
帰って来たのはマサくん一人だったけど、特に慌てた様子もなさそうだから大丈夫だろう
「とりあえずここが日本だってことは分かったから、まずは家に帰ろっか」
「本当! よかったぁ」
マサくんが一緒なら大丈夫だって信じてたけど、それでもここが故郷である日本であるということ、そして一緒に帰れるが嬉しくて仕方がなかった
「そういえば彼女はどうするの?」
「ああ。彼女には僕の使い魔を一体渡して後でまた会おうってことになってるから。姉ちゃんは気にしなくていいよ」
「了解。でも、ここって何県?」
「それは……姉ちゃんには悪いけど、完全に元の家に戻るのは難しそうなんだ。だから、このあたりに新たに家を買おうって思う」
「いや、戻れないのはいいけど……家って、日本で未成年が買えるもんじゃないよ?」
実家については特に気にしてない。もう両親も、親戚もいないわけだし、マサくんが一度死んじゃった家にマサくんと戻るのは、ちょっと複雑な気持ちだからね……
「そこはまあ、俺の子たちの力を借りることになる…………あんまりいい手じゃないってことは分かるけど、それ以外手が無いからね。お金も向こうから持ってきたこっちの世界のレアメタルとかを換金すればいいし」
「私はマサくんがそれで良いならいいよ」
どこか気まずそうなマサくんに違和感は感じるけど、マサくんがそれでいいと決めたんなら私もそれでいいし、何より実行するのはマサくんだ。マサくんの好きなようにやって欲しい
そう思ってマサくんに色々と任せてヴェンと遊んでいたら、三時間もせずに家が決まったと言って二人で暮らすには十分すぎる大きさの一軒家に案内された
「お帰りなさい。姉ちゃん」
「ただいま。マサくん…………お帰りなさい。マサくん」
「……ただいま」
❀❀❀
姉ちゃんが用意した二階の部屋で眠ったのを確認して、一階のリビングのソファでようやく一息付けて、あの世界ですっかり馴染んだ向こうのワインを飲む
「アインザック。調査したこの世界の報告をしろ」
「かしこまりました」
音もなく俺の後ろに現れたサイドを人房分だけ伸ばして前髪を掻き揚げている白髪に、鋭く細い目から見える赤い瞳。髪と同じ色の山羊の角のようなものが頭に生えている男は冷静にこの世界について報告を始めるのを静かに聞く
「--そして、以上のことを踏まえますと。この世界は主様が元居た世界と似て非なる世界かと思われます」
「……だろうな」
本当はこっちの世界に戻ってきた時点で分かっていた。でも、いい思い出が一個も無いんだとしても、日本に戻りたいんだと願っていた姉ちゃんに、本当のことは言えなかった。
この世界が、元の世界と限りなく似ているから、なおの事……
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