都市伝説VS暴力

@happyendtyuu

File.1 ワタシ、キレイ?

「口裂け女だぁ……?」


 探偵家業を営んでいる日紫喜光は、女友達であるレイコの言う都市伝説を聞いて、それをオウム返しした。


「うん、子供ばかりを狙う化け物みたい」


「最近この街で頻発してる子供の失踪もその口裂け女とやらの仕業って訳か?」


「関係性は分からない。でも噂の広まり方が尋常じゃないのよ」「それで俺の事務所に依頼しに来たってことか。なんでだ?」


「なんでって……と、友達の子供が連れ去られて……それでその子も精神病んじゃって……」


 そこまで聞いただけで書類を纏めていた光はそれを後回しにして依頼を引き受けた。


「よし、引き受けましょうその依頼。で、場所は……って、どこいったんだ……?」


 気が付けばレイコはどこかへいなくなっており、机に1枚の紙だけが残されていた。


「なんだこれ、場所が書かれてる……。もしかしてこれが奴が現れる場所か……?」


 子供を連れ去るという触れ込みから、なるべく動きやすい格好でそこに向かったのだった。


「ここが……へぇ……」


 そこは夕方という、人が沢山いるはずの時間帯だというのに人通りが少ない路地裏だった。そこにポツンと、トレンチコートを着た人がいた。


「実在の存在だったか……」


 呟くその一瞬のうちに、"それ"は彼の目の前にまで来ていた。


「ワタシ、キレイ?」


「えっ?」


「ワタシ、キレイ?」


(そうかそうか……)


「お前にどんな目的があるのかは知らないが、お前は子供を連れ去ったのか?」


「ワタシ、キレイ?」


「子供の行く先を教えろ!」


「ワタシ、キレイ?」


 回数を増す毎にそれの語気は強まっていく。


「あぁもううるさいなぁ!! 綺麗だって!! そう言ってんだろ!!」


「これでも?」


 そう言いながらそれ自らの口を覆う大きなマスクを取り外す。外したと同時に片手に持っていた物を振り上げる。


(ハサミ……!?)


 突然の事で反応が遅れた光は間一髪で避ける。


「いっ!?」


 しかしギリギリ肩を切りつけられてしまう。


「いってぇなぁ!!」


 そんな口裂け女の顔の形状は常軌を逸しており、とても人のものとは思えなかった。


「バケモンがよぉ!!」


 そう言うと彼女の攻撃はよりいっそう激しさを増す。


「お前に連れ去られた子供!! どこに行った!!」


 狭い路地裏で繰り広げられる苛烈な死闘。段々日が暮れ、夜になっていく。すると彼女の姿はみるみるうちに変わっていき……。


「レイコ……? お前……レイコか……?」


「ごめん……光くん……私……死ねなかった……」


「は……?」


「私……子供の命……奪って……」


「どういうことだ……?」


「夕暮れ時になったら私……あんなことをして……私は4人目で……」


「どういうことだよ……もっと分かりやすく説明してくれよ」


「口裂け女は死んだら別の女に乗り移って……それで私……でも言い伝えでは……首を切れば……どうにかなるって……」


「どうにかって……俺がお前の首、切れって言うのか?」


「私を殺しただけじゃ、また次の口裂け女が現れる……だからお願い光くん……」


 散々悩んだ末に光は、レイコの首を切り落とした。そしてその背後には……。


「口裂け女……!! てめぇが……てめぇがレイコを……!!!」


 それを見た光は口裂け女を背負い投げ、マウントを取り顔面を殴り続ける。


「てめぇが本体なんだろ!? 罪のねぇ子供を!! お前は!! 一回死んだんなら、死んだままでいろッ!!」


 裂けている上顎と下顎を掴み、上下に引き裂いた。


「てめぇの首も……切ってやるぞ」


 口裂け女自身が使っていた大型のハサミを使い、もう一度奴の首を切り取る光。


「はぁ……はぁ……」


 こうして彼の、最初の怪奇依頼は幕を閉じたのだった。

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