第34話 変化の薬
塩の街⋯まあこれは通称で、本当の名前は『セントソル』というらしい。
『聖なる塩』と、そのまんまな意味なのだそうだが、
塩湖を見つけた開拓者一行がここに居を構えて発展したのが始まりで、一昔前はたいそう賑わっていたのだそうだ。
だが、ここ最近は街道沿いに強い魔物が出てくるようになり、街を訪れる召喚者も魔物を倒せるレベルには達していない者が多いため、段々人通りも少なくなってきた。
さらに追い討ちをかけるように塩湖に闇ギルドが陣取り、塩を採取しようとすると使用料をふっかけたり街でも暴れたりするようになり、ますます街は寂れてきているそうだ。
「その闇ギルドの名前は?」
「確か⋯ロシチャカンだったかしら?他の街に本部があるらしいわよ」
ロシチャカン⋯確か三つ目の街オードックにもそういう名前のギルドがあったな。
あまり近づかない方が良いって言われていたけれど、そういう意味だったのか。
「街にも現れるんか⋯困ったなあ」
カラチが眉間に皺を寄せながら困った表情をしている。
「ひょっとして⋯」
俺の言葉にビクッと身体を震わせるカラチ。
「な、なんや?」
「いや⋯カラチみたいな珍しい種族って攫われたりしやすいから困っているの?」
「そ⋯そうなんや!何度も誘拐されそうになってな。いやあ困ったなあ」
俺の考えが当たっていたのか相槌を何度もカラチが打っている。
「ケットシーって見た事無いわねえ。じゃあ」
そう言ってウルさんはギルド内の戸棚をガサゴソと
「あったあった。これよコレ」
そう言って取り出したのは、ガラスの瓶に丸薬が入った物だった。
「これは?」
テーブルに置かれたそれを皆で覗き込む。
「旅の商人から昔買った物なんだけど、人間に変身する薬⋯と言っていたわ。
ただ、変身と言っても見た目を幻覚で替えているだけみたいだから声は変わらないし、時間が来たら元に戻るようよ」
試してみる?と、ウルさんは聞いてきた。
「カラチ、どうする?」
「まあ街中におる間だけ使えばええんやから、試してみまひょか?」
1回一粒で4〜5時間は変身可能との事なので、試飲してギルド内で様子を見てみる。
「じゃあ、いくで」
カラチは丸薬を手に取り、口に含むと水を飲む。
少しして、カラチの周りに煙みたいな
「⋯どや?」
俺達の目の前にカラチの服を着た小柄な男性が立っていたのだが⋯。
「服、丈が合わへんな」
「そこは他の服を用意しておこうか」
「まあ普通の人に見えるわね。あそこに姿見があるからそれで確認してみたら?」
旭さんに
「ほう⋯結構男前やな」
自信満々にニヤリと笑ってポーズを取る。
その反応に皆でドテッと倒れるのだった。
「気に入ったんなら良かったわね」
「まあ⋯バレんようになるならええか」
「服は⋯」
「予備の服があるから使っていいわよ。はいコレ」
ウルさんが次々と箱を出してくる。
蓋を開けると中には洋服が色々入っていた。
「いいんですか?」
俺が聞くと、
「1日50エールで貸してあげるわ」
やっぱりお金がかかるのか。
「まあ、そんなに外出しなければ出費は抑えられるし、買い出しは宗也君とかアトル君に任せればいいんじゃない?」
用心棒も兼ねて、という事だろう。
「流通が悪いみたいだから物価が高いのが悩みどころだけどね。まあなるべく安くて良い物を選ぶようにするよ」
「依頼の方は任せとき!」
ジャララさんが腕まくりをしながら頼もしい事を言ってくれる。
「ハハハ。頼みます」
こうして、ひとまず役割分担を決めてこの街での行動をする事にしたのだった。
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