第32話 塩の街

海とは違う潮の香りが風に乗って運ばれてくる。

ような気がする⋯。

結構大きな街特有の、頑丈そうな塀に囲まれた街が特徴の塩の街。

この塀では魔物も襲って来にくいだろう。

塩が主な生産物だと言っていたので、どれだけ賑わっているのかと思ったのだけど、

「⋯閑散としているね」

「うん、なんというか⋯」

門をくぐって石造りの家や店が立ち並ぶ表通りを進んでいくけれど、人がほとんどいない。

ゴーストタウンでは無い様なのだけれど、静寂に包まれていて人の気配があまりしない。

「とりあえず、所属ギルドにこの手紙を届けて登録更新しようか」

俺がそう言うと、

「まあ待ちや。あそこのお店でギルドの場所聞いてからの方がええんとちゃいますか?」

カラチがそう言いながら指を指した先に、商店と思われる古びた看板が掛けられた、ほどほどの広さの建物がある。

「何を売っているのかも分かるし、それはええかもな」

ジャララもカラチの意見に賛同したので皆で商店を訪れる事にした。


「すいませーん、誰かいらっしゃいますか?」

「お邪魔しま〜す」

頑丈そうな木の扉を開けて中に入ると、少しひんやりとした空気と、商店特有の色々な商品が陳列棚に⋯、

「あれ?あまり無い?」

「あまり商品が無くて悪かったな」

店の奥からドスドスと足音を立てて大柄な男性が店内に出てきた。

「いや、そんなつもりじゃ」

「フンッ、まあいいさ。

街道沿いに魔物が出てくる様になって、品物の搬入が遅れちまってな」

「魔物⋯ギルドとかには退治依頼とかしていないんですか?」

「品物が入らなくて金も儲けられん。依頼に出す金も当然出てこないんだよ。

魔物自体が強くて街の自警団もお手上げだそうだ」

八方塞がりという訳か。

「それに、塩湖にもなんだか胡散臭い連中が縄張り張ってて、そっちでの儲けも中々上がらないそうだ」

結構、情報通みたいだなこの店主。

おかげで色々この街について知る事が出来たのは良い収穫かもしれない。

「そういえば⋯この街のこのギルドの場所を教えてほしいんですが、知っていますか?」

「⋯⋯⋯」

店主は無言で水らしき物が入っている瓶を何本か並べて指を指す。

(これを買えば教えてくれるって事かな?)

おれはそう察して、

「これ、いくらですか?」

「1000」

「へー、1000⋯千!?」

「井戸を掘っても塩水が出てきちまうからな。この街では水は貴重なんだよ」

ぼったくりと言いたくなる金額だけれど、塩湖が近い地形というのもあって、渋々納得してお金を出す。

「毎度ありっ。さて、ギルドの場所だが」

そう言って、レジ台の側の箱から古びた紙を台の上に広げて、

「ここが俺の店、で、ここが」

店主が指を指し、

「お前らの探しているギルド⋯だな。まだガラの悪い奴らの登録が少ないって聞くから身の安全は保証するぜ」

「ありがとうございます」

水の入った瓶をカバンに入れながらお礼を述べる。

「それと」

店主は地図の一箇所を指差し、

「この辺は怪しい連中がたむろっているから近付かない方がいいぞ。闇商人や盗賊ギルドもあるって話だからな」

「あまり近付きたくないわね⋯」

旭さんがボソッと呟く。

「まあ姉ちゃん達は可愛いから特に行かない方が良いだろうな」

『可愛い』と言われ、旭さんは照れている。

「さて、気を緩めると持っていかれそうやさかい、早よギルドに行きまひょか」

分担して水を持ったカラチが「ヨイショッ」と自分のカバンを持って入り口にすすんだので、

「色々ありがとうございました」

「おうっまた寄ってくれよな」

最後に店主の気さくな笑顔を見ながら俺達は商店を後にしたのだった。

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