第三章 しょっぱい思いはたくさんだ!

第31話 ニワトリの嘴は固かった⋯

前衛タンク役のドワーフのアトルが仲間になり、次の街へ進む事にした俺達。

「次は⋯」

「確か『塩の街』って呼ばれている所だぞ。

塩湖が近くにあるんで塩で栄えた街なんだ」

栄えた?過去形?

何だか気になるな⋯。

「さすがアトル。こっち出身なだけに詳しいわね」

旭さんに褒められて、嬉しいのか照れているのかアトルは鼻の下を指でこする。

「そ、そこまで詳しい訳じゃ⋯」

「じゃあその街の名物って何?美味しい物だといいなあ」

俺も興味津々で聞いてみると、

「塩が名産品だから塩で包んで焼いた魚が有名だな。

前に1度親父に連れられて来た事があるけど、あれは美味かったぞ!」

塩の釜焼ってやつか。前にテレビで見たけれど塩が染み込んでいそうで美味しそうだったよなあ。

「親父さんって、アトル…おま、オトンがおったんか!?」

カラチが驚きの声を出す。

そういえば全然そんな話したことなかったっけ。

まあ出会ってまだ日も浅いから、その話題に触れなかったっていうのもあるんだけれど。

「単体で子供出来る訳無いんだからいるに決まってるだろ!?」

「「「そりゃそうだ」」」

俺も旭さんもジャララもポンッと手を打つ。

「かあちゃ…親方はこっちの生まれだけど、親父は召喚されてきたって言ってたな。

まあ親父もオレが15の頃にふらりとどこかへ行っちまったから、今ごろ何してるかわかんねえけどな」

飄々ひょうひょうとした表情でアトルが話すので、

(触れちゃいけない話題じゃないんだな)

と、俺達は思った。

「ま、いつも通りここの街のギルドに顔を出して宿屋を確保しようか」

「温泉か何かがあると良いんやけどなあ」

「あのねえ、旅行じゃないんだから、緊張感を持たないと⋯」

と、俺が釘を刺すと、予想通り魔物が物陰から現れた!

「何やあれ!?」

「鶏の体にヘビの尻尾⋯コカトリス!?」

「ちゃう!バジリスクや!

毒持っとるで!気を付けてな!」

さっきまでの緩い雰囲気から一変、緊張感が俺達を覆う。

「ねえ、アレってヘビの方に噛まれたら毒状態になるのかしら?」

今まで一度も戦った事が無い魔物に対処法を考えていると、旭さんがふとした疑問を俺に問いかけてくる。

「どうだろう⋯とりあえず鳥部分は食べられるみたいだよ」

前に読んだ、とあるマンガの知識を思い出しながら俺は答える。

「何で食わなあかんねん⋯」

呆れながらカラチのツッコミが俺達の会話に入る。

「ヘビに注意だな!

分かった!」

アトルが前方に駈けていきながらヘビの攻撃を避ける⋯が、

「イタタタッ!このっ!ついばむなー!」

案の定ニワトリのくちばしで突っついてこられる。

「カラチ!旭さん!攻撃補助頼む!」

俺も前方に進み、ヘビの頭を殴り、手と足を利用して頭部(?)を力で踏み押さえて噛まれないようにする。

尻尾部分のヘビを押さえられた事でバジリスクはバランスを崩し、尻もちを着いた状態になりつつ俺をくちばしでつついてきた。

「イタタタッ!」

コイツ体⋯というか首の関節が柔らかいな、と妙な感心をしつつ、

「カラチ!今のうちに矢で射って!隙を付いてアトルも攻撃頼む!」

「よっしゃ!」

「分かった!」

カラチが矢でバジリスクの首や胴体を射ち、アトルが斧で何度も切りつけていくと、段々と体力も落ちてきたのかケガのためか、バジリスクもグッタリとしてきた。

「えいっ!」

最後に旭さんとジャララさんが杖でバジリスクのニワトリ頭を殴り、トドメを刺した。

これが致命傷だったのか、バジリスクがバタリと倒れて動かなくなった。

「ケガはしとらんか?」

「つつかれた⋯」

「まあ軽傷って程度で済んだかな」

ついばまれて切り傷だらけのアトルに俺の手作りパンを渡しつつ、俺はパンを食べて回復を図る。

「あんがと⋯でも何でパン?」

「俺の作る料理は回復効果があるんだ。まあ少量だけどね」

2人でパンを頬張りつつ、カバンから顔を出したココアにもパニーの実を食べさせてから、道の隅っこにバジリスクを動かして通りやすくしてから街へ進むのだった。








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