第30話 旅立ちの日に

あの後、どうしても俺達と旅に出たいアトルは、マイアさんを説得するため自分の仕事に打ち込んでいた。

「じゃあ次はこの剣を研いでおいて!」

「はいっ!」

「あと、そこの掃除も」

「はいっ!」

「これが終わったら街に行ってパンを買ってきて」

「はいっ!」

俺がマイアさんの鍛冶屋へ届け物を配達に行くと、せわしなく働いている姿を見たのだが、

「パシリに使われている感もあるなあ⋯」

と、ふと感想を述べてしまいそうになる。

「あ、届け物かい?ありがとうね」

マイアさんが俺に気づいて品物を受け取ってくれたので、

「いえいえこちらこそ。

それで、アトルの調子は?」

さり気に話題を振ってみると、

「うーん⋯もう少し⋯なんだよねえ」

もう少し⋯という言い方に少し違和感を感じたが、

「ということは、旅に出ても良いという事なんですか?」

「⋯⋯⋯内緒」

マイアさん、嘘をつくのが下手なんだな、と俺は思ったけれど、口には出さない事にした。

「そういえば、俺達5日後に次の街へ歩みを進めようと思います」

「おや、もう旅立つのかい?」

「はい。路銀もある程度貯まりましたし、俺達も力が付いてきたので」

「そうか⋯じゃあ旅立つ当日、ここに寄ってくれない?」

「いいですよ。何かあるんですか?」

「⋯内緒」

またも内緒にされてしまった。

まあなんとなく予想はつくけれど、とりあえず黙っておこう。

「アトル!次は」

「うへえ〜」

忙しさに悲鳴を上げつつも、どこか楽しそうなアトルを見て俺は鍛冶屋を後にした。


5日後、俺達は装備を整えギルドのニースさん達に挨拶をする。

「数ヶ月間、お世話になりました」

「カレー美味かったで〜」

「良い魔法店教えてくれてありがとうね〜」

「ホンマ、良い情報教えてくれておおきに〜」

「いえいえこちらこそ、手伝ってくれてありがとうございます!」

「おかげで店が立て直せたよ。ありがとうな」

「経営が良くなったので、嫁に売られ⋯コホンッ、他所に嫁がなくても良くなった事には感謝のしようがありません。ありがとうございます!」

お嫁さんに行かされそうになっていたのかニースさん⋯。

「そんなに困窮していたのねここ⋯」

「旭さん、深く突っ込んじゃいけないよ」

さらっと俺は旭さんをたしなめる。

「アイテム良し、装備良し。じゃあ行ってきます!」

「道中お気をつけて!」

「変な物拾い食いするなよー」

「マーローじゃないからしないだろ」

「ぬあにをー!」

2人でケンカしそうな光景を見ながら、ギルドを後にする。

「じゃあマイアさんの鍛冶屋に一度寄っていこうか」

「確か⋯ドワーフの鍛冶屋やったよな?」

「何かあるん?」

「さあ?

『旅立つ前に寄っていって』って言われただけだから」

するとジャララが、

「何かすっごいドワーフのお宝貰えたりして!」

と、ニヤニヤしながら話してる。

「どうだろうね?」

と、俺は適当にはぐらかす。

そう会話をしているうちに鍛冶屋に到着した。

ドアをノックして開ける。

中にはマイアさんとアトルが待っていた。

「おや、旅立ちかい?ちょっと待ってな」

そう言って奥の作業場へ行き、

「アトル」

「はっ、はいっ!かあちゃ⋯親方!」

「これを」

マイアさんはそう言いながらアトルの手にお金が入っているらしき袋と、大きめだがアトルにピッタリな斧を渡す。

「こっ、これは!?」

「餞別⋯まあ今まで働いてきた給金だよ。これだけあればしばらく困らないだろうからね。あと、この父ちゃんが使っていた鎧も持っていきな」

「えっ?じゃ、じゃあ」

「行っておいで。但し、また帰ってくるんだよ」

「あああありがとうー!!」

「ほら早く準備しな!何時まで待たせているんだい!」

そう言った後、マイアさんは俺達の方を向いて、

「ふつつかもんだけど、よろしく頼んだよ」

と、深々と頭を下げられた。

「はいっ!任せてください!」

その光景を見たジャララが、

「まあお宝っちゃお宝やな⋯」

と、ボソッと呟いたのだった。


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