第29話 一緒に行ってもいいですか?

討伐で一緒に戦って以来、頻繫にアトルが俺達の所に来るようになった。

「なあ、こんなに頻繁に来て鍛冶屋の仕事は大丈夫なのか?」

「普段は暇だから大丈夫だよ」

「でも、俺達の依頼にも付いてきているし、マイアさんが心配するんじゃ?」

「大丈夫!ちゃんと母ちゃ…親方には説明してからギルドに登録してるし、

依頼をパーティー受託にしてもらってて連絡が来てから受けるか決めているから」

「へー。って、いつの間に!?」

 よくよく聞くと、召喚されてきてこちらに定住した者達の子孫はギルドに登録して賃金を稼いでも良いという法律があるそうで、アトルもかなり前にニースさん達のギルドに登録しているそうだ。

「上から体よくこき使われている感じもする制度やな」

「まあ結局うちら余所者やしな。こっちの人間に迷惑かけられへんようにするには仕事させて金稼がせておったほうがええっちゅうことやないの?」

「カラチもジャララも辛辣な物言いね…」

カラチ達のシビアな物言いに、旭さんがつぶやく。

「それで、今日の依頼は何だ?」

「今日は…って、また付いて来るのか?」

「大丈夫!危なくなったら隠れるから!」

ハハハと笑いながらアトルは俺の肩をバシバシたたく。

叩かれた場所をさすりながら、ある場所に届け物をする依頼の事をさっと説明して、

ニースさんから荷物を預かる。

「よし、じゃあ行こうか」

ギルドを出て、道なりに進み目的地に到着した。

が…、

「届け先って…」

「ここだよ」

「お、俺ちょっと用事が」

「ダメだよ逃げちゃ。ごめんくださーい」

片手でアトルの首根っこを掴みながら、もう片方の手で何とか入り口の扉をノックすると、中にいた人が出てきてくれた。

「はいよー。って、アトルじゃないか!

どこほっつき歩いてたんだい!?

遊びに行くなら仕事片付けてからにしなって何度もいっているだろう!!」

「アトル…」

扉を開けた途端、ものすごい勢いでアトルはマイアさんに雷を落とされて、

俺からは冷たい視線をむけられるのだった。


「スイマセンデシタ…」

マイアさんから拳骨という肉体言語を食らい、縮こまったアトルが椅子に座り、向かい側にはまだ怒りが収まっていないらしいマイアさんが座って紅茶をすすっている。

「じゃあ、仕事半分だけして街に来ていたってこと?」

「そうなんだよ。まだまだ半人前なのに、

掃除も薪割りも途中ですっぽかしてどこほっつき歩っていたんだかと思っていたら…」

そう言いながらギロッとマイアさんはアトルをにらむ。

「だって…」

「なにが『だって』だ!

ちゃんと仕事が出来るようになって一人前!

人の信頼をつかみたいのなら、ちゃんと一通りの仕事を覚えなさいって何度も教えてるだろう!?」

「ま、まあマイアさんもちょっと落ち着いて」

嚙みつきそうな勢いのマイアさんをなだめつつ、俺はアトルに言いかけていた理由を聞いてみる。

「何で遊びに来ていたの?」

「あ、遊びに…じゃなくて、俺もギルドの依頼をこなしたくて…」

「手に職付けている移住者は別にやんなくてもいいじゃないか」

「だ、だけど俺も宗也達みたいに冒険を…」

勇気を出してアトルがマイアさんに言ってみたのだが、

「却下」

ズバッと却下されてしまった。

「な、なんでだよ!」

「まだまだ甘ちゃんが何言ってんだい!?

アタシを説得させるならちゃんとした理由と根拠、そして目的を伝えな!

そうじゃないと許可は出さないよ!」

ド正論を告げられたアトルは、しょんぼりしていた…が、

「まだまだあきらめないぞ!」

と、熱く燃えていた。


俺達のパーティーにアトルが加入するのはまだまだかかりそうであった。




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