第24話 穏やかな日常と、ある疑問

料理対決の後、食堂の宣伝効果もあったようで、ニースさん達の宿屋兼ギルドはお客様が増えてきたそうだ。

ギルドからの依頼がある時以外は旭さん達も宿屋と食堂を手伝っている。

俺も手が空いている時は厨房でベニー達を手伝うようにしていた。

俺も厨房にいるからなのか、ベニーとマーローがケンカする事も回数が減って、その騒ぎでお客様が出ていく事も無く、平穏な日が多くなった⋯らしい。

俺の料理は無意識でHPMP回復(小)のスキル効果が付与されるので、それに気付いた召喚者達が俺の料理ばかり注文してきてベニー達から、

「スキル付与⋯いいなあ」

「この辺はまだ召喚場所に近いし、体力とかも低い召喚者が多いから効きが良いだけだよ」

「でも薬草並の回復力だろ?

夜は凶暴な魔物が多いから外に出る奴はいないけど、日中2つの依頼受けられて料理で回復出来るのはありがたいって、お客様が言っていたのを聞いたぞ」

「ハハハ⋯」

褒められて嬉しくないわけじゃない。

ただ、手伝いの報酬が小生物ココアの好物、パニーの実を貰えるのでやっているから、

なんとも複雑な気持ちではあるのだ。

(これ手伝いといっても有償だからバイトだよな⋯)

パニーの実が報酬の件は、俺とニースさん、旭さん達だけが知っている。

一個150エールとちょっと高額なパニーの実。

普通に依頼をこなしているたけではいつまでも赤字街道まっしぐら。

先に行く事もままならなくなる。

なのでニースさん達と交渉して、一泊の値段を値引きしてもらい、ギルドからの依頼をこなすのとは別に食堂の手伝いをして、少しでも財布の中を潤そうとした。


ココアを拾って二ヶ月経った頃、満月になるとココアは中庭に出ていく。

一晩外にいて、朝には俺の部屋に戻ってくるので俺はその行動は放っておいている。

放っておいているんだけど、外にはココアしかいないはずなのに何故か話し声が聞こえる。

それも二人で会話しているみたいだ。

好奇心で確認してみたいが、姿を見たとたんここからいなくなってしまうんじゃないかという不安もある。

不安もなんだけど、実は夜になると手伝いや依頼をこなすから疲労困憊ひろうこんぱいでもう起きていられないからゆっくり眠りたいというのが本音。

なので俺はベッドから出ず朝まで部屋にいる事にしている。


そんなある日、ニースさんに、

「宗也さん、ちょっとお使いを頼んでもよろしいですか?」

と、頼まれた。

「お使いですか?

いいですよ」

俺が快諾すると、

「町外れの鍛冶屋にお届け物をして欲しいんです。

これなんですけど」

そう言いながら布に包まれた物をテーブルの上に乗せて見せてくれる。

「これは⋯」

それは、ゼンマイや歯車が組み込まれてある簡単な仕組みの機械のような10センチ位の四角い物だった。

「昔、両親が知り合いから貰ったゼンマイ時計らしいのですけど、歯車が原因なのか何処か調子が悪くて」

「時計だと専門家に任せた方が良いのでは?」

俺が聞くと、

「この手の時計は召喚者が持ってきた物が多くて、

ここの近くだとその鍛冶屋さんしか直せないんですよ。」

鍛冶屋というと刃物とかを精製している印象があるんだけど、ここの世界はちょっと違うのかもしれない。

「分かりました。届けに行きます」

時計を布に包み直し、俺はカバンに入れて行き先への地図と名前入りの手紙を受け取り、旭さんに声をかけてから、

「じゃあ行ってきます」

「いってきまーす!」

旭さんと2人で出掛けることになったのだった。

「ニースさんは召喚者のドワーフって言っていたけれど、どういう人なんだろう?」

「ヒゲモジャなのかしら?」

ファンタジーでしか話を聞いた事が無いドワーフという種族に会えるのを楽しみに、俺達は街道を歩いて行くのだった。


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