第22話 好物はこれでした

勝負は二日後。ご飯やパンと一緒に一汁一菜のメニューを頼めばご飯とかはおかわり自由にして、各種約30人前を作って、誰の注文が多かったかで勝敗を決めようというルールになつた。

もちろん一汁一菜は1食250エールを貰う事にした。

そして今日、旭さんがニースさんと一緒に買ってきてもらった食材⋯なんだけれど、

「これ、どういう味なの?」

この世界に来て1ヶ月以上経つけれど、初めて見る野菜もあるので、1つ1つ味を確かめる事が多い。

「パニーという野菜で、この実は栄養価が高いです。ただ、味が通好みと言われてますね」

ニースさんの説明を聞いて、

「茹でて味見してみてもいい?」

承諾を得てからパニーを茹でてみたが、

「茹で汁がどんどん紫色になっていく⋯」

皮をむくと白い実が見えて、茹でると紫色に変わっていく。

茄子は皮から色素が出て茹で汁が紫色になる事があるけれども、実の色も変わるのが不思議だと思いつつ、一口味見をしてみた。

だけど⋯、

「甘⋯辛?酸っぱい?」

 嚙めば嚙むほど、複雑な味が口の中で広がる。

口直しにそばに置いていたお茶を一口すすった。

「大丈夫ですか?」

ニースさんに言われ、

「確かに通好みの味だね。料理に使うのは難しそうだ」

そう言って俺は残ったパニーの実を横によけておいた。

「じゃあこれはこっちで使わせてもらうよ」

マーローがそう言ってパニーの実を貰っていく。

「どうぞどうぞ」

俺はそう言いつつ、他の野菜を見ながら今まで作ってきた料理を思い出して献立を組み立てていく。

試作品を何個か作っていくと、宣伝から戻ってきたカラチとジャララが味見役を買って出てくれた。

「この煮物、旨いなあ」

「肉と野菜を一緒に焼いた料理も旨いなあ」

俺の料理だけじゃなくベニーやマーローの料理も一緒に味見している。

「公平な意見を言ってほしいんだけど、大丈夫?」

「らいじょぶや。モグモグ」

「これは売れると、思うで。ハフハフモグモグ」

口いっぱい頬張りながら、良いと思う料理を指差して教えてくれるんだけど、

「一旦何か飲まないと、食べ物が喉につかえない?」

水を注いだコップを2人に渡しながら忠告していると、

「か、辛っ!」

「えー?旨いと思うで〜?」

マーローの辛口料理を食べたカラチが、

口から火を吐きそうな顔で水を一気に飲んだ。

「ジャララさんは辛いの平気なんだね」

「ウチの地元、辛い料理が多いんよ。これ、パンに合うと思うで〜」

褒め言葉を貰ってマーローはガッツポーズを取っている。

「っしゃあ!」

喜びを隠す気は無いらしい。

「こちらはいかがですか?」

反応が気になるのか、ベニーも色々と料理を勧めてきてくれる。

「こっちは野菜、こっちは肉か。ベニーは煮込み料理が得意なの?」

「はいっ!この地域の郷土料理で、皆から美味しいと一番言って貰える料理です」

ニコニコしながらベニーが話してくれる。

その時、コロコロとパニーの実が俺の足元に転がってきた。

「ゴメン、手が滑って」

マーローが実を拾おうとした時、

パクッ

その辺でゴロゴロしていたココアがパニーの実が転がってきた事に気付き、実にかぶりつく。

「えっ!?」

驚く俺を見向きもせず、ココアはモシャモシャと実を平らげていく。

「好物⋯なのかな?」

「キュッ!」

もっと食べたいのか、潤んだ目でこっちを見てくるんだけど、

「ねえニースさん、パニーの実って1個いくらなの?」

「1つ⋯その時によりますけど150エールです」

ひゃくごじゅうエール⋯結構な出費となるよなあと、俺は頭の中で計算してから、

「マーロー、絶対ココアにパニーの実を渡しちゃダメだよ!使う前に食べられないように!」

「お、おうっ!」

意味を理解したようで、マーローはココアから隠すようにパニーの実を抱え込んだのだった。









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