第二章 冒険が派手な物とは限らない

第16話 生き急いで生命を失うな!

少しでも先に進みたいけれど、

『今の自分では死にに行くようなものだ』

と言われたのは誰にだったかと、ぼうっとした頭で寝っ転がっていると、

「大丈夫でっか宗也はん?」

「思いっきり魔物に飛ばされたから頭でも打ったかしら?」

「一応ケガは回復魔法で治しはったけど、しばらく安静にしとかんとアカンで〜」

俺の事を心配して旭さん達が覗き込んできた。

「えっと⋯俺、どうしたんだっけ?」

「ダチョウみたいな鳥型の魔物に蹴られてバシーンって吹き飛ばされたのよ」

バシーンって⋯リアリティを感じる擬音だな⋯。

「痛い所はありまへんか?」

身体を起こし、手や足を動かして調子を見ていく。

「うん⋯大丈夫みたい。旭さんもカラチもジャララもありがとう。心配かけてごめん」

俺は三人に無事を伝えて感謝の言葉を告げた。

「無事ならなによりや」

「回復魔法が効いて良かったわ〜。ウチ、ホッとしたわ」

「前衛だからって、無闇に突っ込んじゃダメだからね!」

そう言われながら立ち上がる。

「⋯そういえばあの鳥型の魔物は?」

辺りを見渡すと、旭さんが一方を指差す。

その方向を見ると、鳥型の魔物はプスプスと煙を上げながら転がっていた。

「弓矢と炎魔法でなんとかとどめを刺したわ」

俺が作っておいた焼肉サンドイッチをモグモグと頬張りながら、旭さんが教えてくれた。

「そうか⋯ありがとう」

そうお礼を述べながら自分の頭を撫でると、

「⋯うわっ!」

手にベッタリ血が着いたのでビックリして後ずさってしまう。

「頭を打ったからねえ⋯はいタオルと水。これで濡らしてから拭いたら?」

「ありがとう⋯」

タオルとペットボトルに入れておいた水を受け取り、

「⋯ひょっとして今の俺、顔とか血まみれ?」

肯定するように旭さんは頷く。

が、食べる事は止めないようで口をモグモグ動かしている。

「魔力回復に食べていたの?」

口いっぱいに頬張っているからか、旭さんはまたコクンと頷く。

「くっ、食いしん坊な訳じゃないんだからね!」

飲み込んでから喋っているけれど、慌てているのか旭さんの口調がツンデレっぽくなっている。

俺はそう思いながら頭に水を掛けて顔も洗いタオルで拭いていく。

拭いてすぐタオルは血で紅く染まった。

(質の良さそうなタオルを汚しちゃって悪かったな⋯)

そう思ったけれど、よくよく見ると俺が持ってきていたタオルだった⋯。

「これ⋯俺のタオル?」

皆に聞いたけれど全員横を向いて黙っている。

(このタオル、洗っても血が落ちそうにないから、今度布切れでもいいから買っておこう)

そう思いとにかく拭き終わらせる。

「じゃあ、とりあえず日暮れまでに街に戻りましょうか」

「羽根とかの回収も済んだし、ええよ」

「卵の回収も出来たで〜」

ちゃっかり魔物が持っていたアイテムを拾ってきているカラチとジャララ。

「街に戻ったら一応お医者さんに診てもらう?」

心配そうに俺を覗き込みながら旭さんに聞かれたので、

「うん⋯そうしとこうかな?」

「結構重傷やったから、その方がええな」

重傷⋯俺、よく生きてたな。


今回の戦闘で、自分の実力がまだまだなのだと悟った俺。

足止めになってしまって申し訳ないけれど、ここの街にもう少し留まって経験を積むしかないらしい。

(あと、防具を揃えるためにお金を貯めておこう)

あまりにも軽装な自分を見て、街で装備を整えようと予定も立てる。

生き急いで命を失うよりも、堅実に進んでいつか元の世界に戻る事を心の中で密かに誓った。

「早く元の世界に戻りたいー!

暖かいシャワーとかお風呂とか欲しいー!」

と、煩悩をブツブツ呟いている旭さんも出来れば一緒に連れていかないとストレスであちこちで暴れそうだな、とそれも密かに思ったのだった。








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