第12話 『普通』とは違うのかもしれない

宿屋の交渉と手配を済ませたカラチは、細々こまごまとした商品を購入してから、何事も無かったような顔で待ち合わせ場所に向かった。


先に待ち合わせ場所に来ていた俺と旭さん。

「良いギルドを紹介してくれてありがとう旭さん」

カードに提示されたギルドのマークを見ながら俺はお礼を述べる。

「いいわよ別に。私もトロール倒したお礼金を貰いたくってギルドに寄りたかったから気にしないでね」

「ここの世界って、魔物退治するとギルドからお金貰えるシステムなんだね」

「カードに、倒した魔物の記録がされていくらしいわよ。よく分からないけど」

お金が入った袋をニコニコした表情で見ながら旭さんが説明してくれる。

「でも暗殺者ギルドとか闇商売ギルドとか物騒なのもあるみたいだから、そういう所には近寄らないようにね」

召喚された人はランダムみたいなので、中には前の世界でそういう仕事をしてきた人もいるために、専門ギルドが派生したそうだ。

「確かにガラが悪そうな人も見かけたもんなあ。あ、待ち合わせ場所ってここだよね」

喋っているうちに待ち合わせ場所へ着く。

「おまちどうさん。予定は済みましたか?」

「お陰様で。そっちはいい宿屋は見つかった?」

「カラチとウチの交渉術でバッチリやで!」

「ジャララはなんもしとらんやろ!」

漫才のようなやり取りに俺も旭さんもつい笑ってしまう。

「で、今晩のご飯は何にするん?」

「あ、やっぱり素泊まりで自分でご飯を作らなきゃならないのか⋯」

「そりゃ安く済ませるためにそういう風に交渉したからなあ」

「宗也はん、料理上手いんやて? 楽しみやわ〜」

俺はその後宿屋で荷物を下ろしてから厨房を借りて、四人分の夕ご飯を振る舞う事になった。


「んー、美味しい!」

「フーフー、アチッ!」

「これが異世界の料理なんか⋯旨いわ〜」

宿屋の食堂のテーブルを借りて、俺が作った料理を皆でいただく。

ここの宿屋は食堂も兼ねているらしく、周りでは召喚者や一般の人がそれぞれ食事を取っていた。

「異世界の料理と言っても、調味料とかが違うからほとんど試行錯誤状態だけどね」

「でも美味しく再現出来てるよ。この肉じゃが風煮込みとかも美味しいわよ」

「熱々っ!」

「で、ジャララさんの旅の目的は?」

俺は聞くのを忘れてた疑問をジャララさんに聞くと、

「せやなあ⋯とりあえず元の世界に戻りたくはないねん。せやからゆっくりのんびり旅をしようかと思うてなあ」

「戻ったら元の男に戻ってまうからなあハフハフ」

「それを言わへんでー!」

と、まあ和気あいあいと夕ご飯を食べていった。


宿屋に一泊して、朝ご飯の時に周辺の地図を広げて次の行き先を相談する。

「こっちは魔物が強いらしいで」

「じゃあそっちの道は?」

「ここの地区で魔物退治で経験稼ぐ?」

「今は戦い方や連携を覚えたりするんも大事やな」

「じゃあ次の目的地はここで!」

「ええで〜」

全員の意見が一致したので、朝ご飯を終わらせて旅立ちの準備をして、宿屋を出た。

「とりあえずレベルアップだー!」

「レベルってなんや?」

カラチがすかさず疑問を投げかける。

「こっちではレベルって概念無いのか⋯」

「んー、経験を積んだ事を表現する単語⋯かな? 経験値ごとにレベル1、2っていう風に」

「なるほど、そうなんや。相手を10人○して一人前とか」

「ちょっと待ちー! その表現は一般的にはマズイでカラチ!」

「とりあえず今の言葉は聞き流しておこうか旭さん」

「⋯そうね」

何となくカラチは普通じゃないという事を理解した朝のひとときだった。

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