第3話 初心者のスライム退治

 『2、3ソルダで次の町に着く』

 そう言われて歩き始めてみたものの、

「ソルダって、翻訳ほんやくすると何時間なんだろう…」

 召喚場で貰ったカードをいじりながら呟く。

 なんとなくフィーリングで理解出来ても、正確な事を知らなければ意味がない。

 すると、カードから半透明のステータス画面が目の前に表示される。

 「いや今は出なくていいのに…」

そう思ったが、左下に所持金と時間が表示されている。

 「ン? 時間…」

よくよく見ると『1ソルダ(1時間)』

と、読めた。

「1時間経過…なのかな? なんか本当にRPGのプレイ画面みたいだな…」

とりあえず時間の単位がこれで解明出来たので、太陽の位置から計算して、日暮れまでには町に着けそうな気がしてきた。

 (無理やり入れられたボーイスカウトの経験が役に立ったな)

こういう時が来るとは全然予想していなかったけど。

そう思いながら早足で進む。

 ガサッ

 草むらから音がして、何かが道の真ん中に出てきた。

 「プニッ?」

 まん丸とした球体、ゴマ粒のようなクリンとした目、半透明なボディ…

「ス、ス、スライムだ!」

RPGの定番雑魚キャラ、スライムだった。

 「意外と可愛らしいな」

と、思ったが近くの草が溶けている事に気付いた。

 「ひょっとして…触れると溶けるのか!?」

 近接攻撃しか出来ないが、なんとか鉤爪の先だけで応戦する事にした。が、

プニッ

弾力がありすぎて刺そうとしても攻撃が跳ね返ってしまう。

「くっ! こ、こんな雑魚にー!」

なんだか可愛い表情なのにも関わらず、憎たらしく見えてくる。

「プニニッ」

笑っているのかからかっているのか、周りをコロコロ転がっている。

「なんか段々腹立ってきた…」

溶けるのも覚悟で素手で殴ろうとした時、

「スライムに素手? バッカじゃない!?」

突然後ろから女の子の声がして、視線をそっちに移すと、とんがり帽子にローブ姿の高校生位の年頃の可愛らしいロングヘアーの女の子がその子の腰くらいまでの長さの杖を構えて立っている。

「ほらどいて! 私が見本を見せてあげる!」

前に杖を掲げると、ブツブツと呪文を唱えて、

「ファイエル!」

と、スライムに向けて業火を放つ!

「熱っ!」

中々の勢いだったので巻き添えを食わないように避けたがそれでも熱気が来た。

「ぷしゅう〜」

火の熱でかどうかは分からないが、スライムは溶けて無くなった。

「ふふん、どうよ私の魔法は!」

腰に手を当てて自慢げに仁王立ちをする女の子。

だが、そのあとすぐお腹を鳴らしながら、

「魔力切れた⋯」

と言ってそこにへたりこんでしまった。

「あの魔法そんなにMP使うのか?」

こちらが聞くと、女の子は自身のカードを触りステータス画面を見せてくる。

そこにはHP・MPの表示と共に、

『スキル・全力投球(MPを注ぎ込み威力を最大にして魔法を使える)』

と、書いてあった。

「…ハズレスキル?」

「ハズレじゃないもん! ただMP使いすぎちゃうだけだもん!」

それに、と女の子は言葉を続ける。

「今のはまだ初歩魔法だもん…」

「…どっちにしても魔法1つ使ってすぐに倒れそうになるのはこの先問題じゃないか?」

「誰か一緒に旅をしてくれればいいんだけど、下心丸出しな人ばかりだったから…」

見た目が可愛らしいでは確かに下心が出てきてもしょうがないし、魔法一発出しただけで倒れてしまうようでははっきり言って足手まといと思われても仕方ないだろう。

「とりあえず、次の町で宿屋に泊まって回復したら? 行くだけ一緒に付いていくから」

助けてもらったのに、このまま放っておくのも心苦しいので声をかけると、

「泊まるお金が無い…」

と、恥ずかしそうに女の子は呟く。

魔法ひとつだけで倒れてしまっては頻繁に宿屋に泊まらなくてはならず、すぐ資金切れになりそうだ。

スライムを倒してもらった恩もあるし、と考えてバックパックの中をゴソゴソ探し出す。

「あなた、何してるの?」

こっちを見ながら女の子が聞いてきたので、

「あなたじゃなくて宗也そうやって名前だよ、あさひさん⋯だよね?」

女の子は、なぜ自分の名前を知っているのかと驚いた表情をしていた。


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