第22話 闇 / とある女の憂鬱

「...開発班の関係者か?」

流石にこのタイミングで、しかもこのような対応を取ってきたこともあり、こう聞くのは当然だ。私は武蔵一郎。WBOという世界最高峰のゲームの運営班の主任である。すべての対応は仮想現実で行われているWBOの運営。開発班はこの独自のオリジナルの仮想現実世界を ”WW勝者の世界(Winners World)” と呼んでいる。何を持って勝者なのか、現時点まで私も気づいていなかった。


このAIの立ち振る舞いは、この異次元のプレイヤーに似すぎている。


独特な威圧感。まるで全てを知っているかのような聡明な雰囲気。...そして、奈落のような深い目。


気づいたのだろうか。私が今一番見込んでいる開発チームのメンバーも息を呑む。この目は、何かを見てきた目だ。一体、何を見てきたというのだ。否、と言うのだ。そのような若いアバターの身で...私は、憤りを隠せなかった。


<秘匿通知 後で話がある。n号開発班世界まで来い。(招待コード)>


私は、何をさせられるというのだ。


この日、私はヴィルセトルの闇を知った。そして、その残酷な過去を知った。


______________________________________

<???視点>

ある都内某所のタワーマンションの一室で、一人の女が珈琲を飲んでいた。

ちらりと見える都会の町並みには暗雲が立ち込めており、窓を開けると少し雨の匂いが感じられた。女はため息を吐き、窓を閉める。女の部屋には、驚くほどに何もなかった。

スーツが数着。私服はない。冷蔵庫などの必要最低限の家具。一般家庭で見られないようなタワーマンション特有の金持ちの持つようなソファーや調度品は一つを除いて一切見られなかった。


超巨大VRギア。


女の部屋の真ん中には、その存在があった。


「...やっと、来たみたいね。」


女は、少し笑みをこぼしながら、VRギアを装着した。


「VRシステム・起動。アクセス・WBOHOTOTOGISU


<...認証チェック...一致。転送を開始します>


雨はいつの間にか小雨から本降りに変わっていた。

この世界は、少し淀んでいる。それは、心地よい淀みだと、彼女は感じた。

は、少し技術の発展が遅れているものの、多少は面白い文化があるではないかと、彼女は常々感じている。

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