-犬と狼の間-②

「グガアアアッ!」


 ほれみろ、また話が脱線してしまった。追い掛けられる恐怖は本物なのに、どうしてこう下らない思考にまってしまうのか。集中しろ、集中。


 さて、次なる案だが、他者に助けを求めるというのはどうか。ブロック塀が延々と続く道に人影は皆無だし、適当な家に転がり込むのもリスクが高すぎるが、それでも存在しない誰かに頼るというのはどうか。どうかもクソもあるか、この馬鹿者が。


 自分で自分にツッコミを入れながら、改めて周囲の様子を分析する。なるほど、さっぱり人気がない。路地なんて元々人通りが多いスポットでもないが、それを差し引いても、この過剰な静けさはどうしたことか。


 よくよく観察してみると、辺りの家々もどこかおかしい。妙な言い回しになるが、命の気配がしないのだ。


 窓から明かりが漏れ出ている建物が一軒もないとか、生活音が一切聞こえてこないとか、分かりやすく不審な点は多々ある。だがそれ以上に肌を刺激するのが、第六感的な信号だ。全てを偶然の一言で片付けるには、私は捻くれすぎていた。


 息苦しさが度を増す。横腹の痛みが強調される。何度も味わってきたはずなのに慣れない、孤独というスパイスの苦さと塩辛さ。


 西浪市を「怖い」と評した私の認識はまだまだ甘かった。自分がどこへ足を踏み入れたのか、何の棲家すみかに迷い込んだのか、正確に把握できていなかった。


 感じないという感覚に脊髄を凍らされ、ほんの一瞬だけ速度を落とす。


 ――それが命取りになるとも知らずに。


「……ウガッ!」


「!?」


 突然腰を襲う激しい痛み。改札にぶつかった時とは比べ物にならない、大槌で強打されたような衝撃。


 やはり私は馬鹿者だ。謀略も道具も何もかも、「人間」の特権であると勘違いしていた。「怪異」は「人間」の物差しで測れる存在ではないのに!


 ブロック塀の欠片か、大きな石か。何で撃ち抜かれたのかは分からないが、それを詮索する行為に意味はない。


 重要なのは、予想外の一発にバランスを崩され、大きく前のめりになってしまった現状。慌てて体勢を立て直そうとしても、もう間に合わない。

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