第一章14【ギフトスネーク】

 シュウは自らの失態を悔いていた。魔物を問題なく倒せるため、油断していたのだろうか。足元の注意がおろそかになり、結果的に間一髪のところで死ぬところだった。


 だが、今のシュウには自らの失態を悔やむよりかもやるべきことがある。それは、


「━━シュウ?人の話聞いてる?」


「はい、すいません」


 自分が命知らずな行動を取っていたため、ミラはかなりお怒りのようだ。さて、どうしたものか。


「それで、ミラはなんでこんな所に?今日は俺一人で行くって言ったよな?」


「まあ、そうなんだけどさ。独りで待つのも暇だったから、シュウが戻ってくるまで森の中を散策してたんだよね。そしたら突然大きな声が聞こえて、」


 自分がこの能力の事を考えて、魔物と戯れている間にミラは、依頼を終えてしまっていたようだった。

 結果的に彼女が来たことで、検証ができなかったが、もしもの事を考えれば助けてもらったのも事実だ。


「タイミングが良いんだか、悪いんだか」


「━━ん?シュウ何か言ったかな?」


「いえ、何でもありません」


 取り敢えず現在の最優先事項は、不機嫌そうに頬を膨らませる幼馴染の機嫌をこれ以上損ねないようにすることだろう。


 ギルドに戻るまでの間、シュウはひたすらにミラの機嫌を取り続けたのであった。




 * * * * *

 



「━━よし!それじゃあ、今日も頑張って行こう!」


「今日の依頼は、いつもより危険なんだから無理はするなよ」


 今日も、シュウ達はエストの森の中を進んでいた。だが、シュウの顔はいつもより険しい。今回受注した依頼は、彼らのランクより1つ上のEランクであるからだ。そのため、シュウの顔にはいつもより緊張が現れている。一方で、ミラはいつも通りの表情で元気に進んでいる。


「あ、そういえばさ、」


 ふと気が付いたかのように、ミラがこちらを振り向いてくる。見慣れた紅い髪に、紅い瞳だ。急に振り向かれ、距離を縮められると反応に困るから止めてほしい。


「シュウって、なんで魔物と闘う時、いつもフードを被ってるの?見づらくない?」


 フードを突きながらミラが質問してくるが、当然の疑問だった。魔物と戦闘するときも含めて、自分は常にフードを被るようにしている。傍から見ると違和感しかないが、


「説明しづらいんだけど、これが俺の力を活かすのに、一番いいやり方なんだよね」


「ふーん、そっかぁ」


 納得がいっていない様子で、また前を向くミラ。


 怒られないようにミラに内緒でこっそり検証を行い、何度も魔物と戦闘を行ったシュウがこの能力を活かすために最も適していると判断したのが、このフードを被りながら行う戦闘だ。


 この能力は命の危険に反応することから、不意打ちに滅法強いことが判明した。その為、フードで視界を制限することで戦闘を有利に進めることができる。これがシュウが導き出した結論だった。


「━━Eランクの魔物、ギフトスネークか」


 しばらく歩いているとミラが静かに呟く。依頼の目的はEランクの魔物ギフトスネークの討伐である。

 ギフトスネークとは、毒蛇の魔物で、嚙みつきや、尻尾なども厄介なのだが、最も警戒すべきはやはり毒だ。この魔物の毒は、すぐに死ぬような致死性の毒ではないが、身体の自由を奪うため、十分に警戒するのに値する物である。


 成熟し、巨大になったギフトスネークはDランク認定されるのだが、今回の討伐対象はまだ成熟しきってない子供である。そのため本来は厄介な、毒を霧状にして噴射してくる攻撃などはしてこないため、ミラと戦えば、そこまで苦戦することはないだろう。


「警戒を緩めるなよ、ミラ」


「依頼内容によると。この辺りだよね?」


 辺りを警戒するが、今の所、ギフトスネークは見当たらない。ミラが息をつき、警戒を緩める。もっと奥の方に移動した可能性を考慮して、彼女と一旦作戦を練り直そうと思ったが、音がして後ろを振り向く。


 何事かと思ったが、木の実が落ちただけか、全く脅かせ━━、

 

 後ろを振り返り、そのままの流れでなんとなく茂みをみたシュウは、何かと目が合った、


「っ!ミラッ!!!!」


「きゃっ!」


 前方へ駆け抜ける。その際、前方にいたミラを抱きかかえるようにして、地面に向かって飛び込む。2人が離れると同時に、緑色の霧が後方にあった茂みから放たれた。


「ミラ、大丈夫か!」


「う、うん。何が起こったの?」


 ミラからすると、突然抱きかかえられ、地面に向かって飛び込んだのだから気が気じゃないだろう。そんなミラをよそに、シュウは後方の暗い緑色に光る霧の向こう側に出現した魔物を睨みつけ、警戒する。


 これは、非常にまずいことになった。今の初撃は偶然気付いたから躱すことができた。そうでなかったら確実に2人ともやられていただろう。少なくとも、この距離まで近づかれるまで、敵の存在に気付かなかったことが自分の未熟さを思い知らされる。


 そんなことを悔やんでいる暇は今は無い。今やるべきことは、現状を把握した上での打破だ。もしも打破できなければ、


「あれって、ギフトスネーク?」


「あぁ、そうだな」


 ミラの言葉に静かに同意する。討伐対象だった魔物、ギフトスネークが現れたのだ。事前にギルドで調べた情報通り、緑と黄色が混ざったような色の皮膚を持っていて、勇翔曰く、まるで森の中に溶け込むための迷彩柄の服。でも問題はそこじゃなくて、


「でもさ、なんか、大きくない?それに、」


 そうだ、これは非常にまずい。現れたギフトスネークはギルドで得た情報に比べると、遥かに巨大だ。聞いていた限りだと人族の大人と同じくらいの大きさ。

 今目の前にいる魔物はそれより、二回りほど大きい。加えて更に危険だと示すのは、


「━━毒の霧」


 後ろに座り込むミラが震えた声で呟く。事前の情報より大きな体に加えて、毒の霧を噴射する。間違いないこれは、


「Dランク、ギフトスネークの成体」


 これは、非常にまずい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る