第2話
それから白に声をかけ、大翔、瑠実、白の三人は映画館の入った大型ショッピングモールに来ていた。
「ファンタジー映画なんて初めて観るな」
映画のパンフレットを見ながらそう口にする白。パンフレットはチケット購入後、作品について知りたいと白が買ったものだ。その様子に、大翔が興味深そうに尋ねた。
「先輩はいつもどんな映画を観るんですか?」
「ジャンルでいったら、ミステリーとかサスペンスかな」
「へえ。確かに、いつもそういう系の本、読んでいますもんね」
数回頷く大翔に、白は恥ずかしそうに頬を掻いた。そして話を逸らすよう、瑠実へと視線を向ける。
「瑠実ちゃんはこういうファンタジー系が好きなの?」
瑠実はポップコーンを抱きながら、頷く。
「ファンタジーは空想のお話だから」
「へぇ。意外と子どもっぽいところもあるんだ」
意外そうな顔をする白に、瑠実は頬を膨らませて横を向いた。なんだか、バカにされているような気がしたのだ。
「い、いや、悪い意味じゃないよ。瑠実ちゃんは大人びて見えるから、意外だなって思っただけ」
焦ったように早口で言うのも、なんだか言い訳に聞こえる。瑠実は「まあ、いいけど」と若干口をとがらせて顔を戻した。
大人っぽく見られるのも、この冷めた態度が原因なのだろう。大翔は誰が見ても子どもっぽいところがあり、『顔は似ていても性格は似ていないね』と言われることが多い。しかし、実際は瑠実だって子どもっぽいところがあるのだ。――それは親しい人にしか見せない素顔なのだが。
「ふふ。三人で映画観るの、楽しみだな。後で感想言いあいましょうよ」
本当に楽しそうな顔で言う大翔に、自然と瑠実も白も笑顔になった。こういう太陽のようなところに、瑠実は何度も救われていた。
そうして映画の時間が近づき、三人は入場列へ並んだ。その時、入場列の隣で、きょろきょろとあたりを見回している人物が視界に入る。
――挙動不審だな。
瑠実はそう思い眉を顰めた。そしてその人物が何かした時のために顔を見て、思わず持っていたポップコーンを落としてしまう。
――何故、『あいつ』がここに?
「おわっ、瑠実、どうかした?」
「大丈夫?」
大翔と白がそれぞれ屈んでポップコーンを拾い始める。その様子に気づきながらも、瑠実は動けずにいた。
その様子に違和感を覚えた大翔は瑠実の視線を追う。そして視線の先にいた男を見て、体を固まらせた。ポップコーンを持っている指先が微かに震えている。
二人の様子をおかしく思った白は、ポップコーンを拾うのをやめ、立ち上がって二人の視線の先にいる一人の男を見つめた。男は白の視線に気づくと、三人へと駆け寄ってくる。その様子に、大翔は顔を青ざめさせ瑠実を自分の背中へ隠した。瑠実は震えた手で、大翔の背中を掴む。
白は二人を見て察したようで、二人の前に立ち男の姿を二人の視界から隠した。瑠実と大翔は思わず安堵のため息を吐く。
「あ、あの!」
男が白に声をかける。白は笑顔を作り、対応した。
「何か用でしょうか?」
「もしかして、
白は聞いたことのない名前だったのか、首を傾げた。瑠実は大翔の服を握る力を強くする。その男の顔は紛れもない、憎き井原健造の顔だった。
――自分が殺したはずなのに、何故ここにいるのか。大翔も恐れているということは、井原に似た人物というわけではないだろう。それならば、自分達が今見ているのは亡霊なのか。
瑠実は恐怖から手が震える。それに気づいた大翔が、瑠実の手を握った。大翔の手も少し震えていて、瑠実はこの恐怖が自分だけでないと少し安堵する。
「……もしそうだったら、何なんですか?」
白が背後の二人を気にしながら尋ねる。井原の顔をした男は、突如として顔を脱ぎ捨てた。――そう、男は井原健造の顔そっくりのマスクをかぶっていたのだ。白の背後からそれを見た大翔は、深くため息を吐く。そして瑠実の耳元でささやいた。
「大丈夫。『あいつ』じゃない。『あいつ』の顔を被っただけの人だ」
瑠実は恐る恐る男の顔を見る。そこには、井原と全く別人の、三十代の男性がいた。男も白の背後を見ていたのか、瑠実と男の視線が交わりあう。その刹那、男の顔が紅潮し始める。
「君は……井原のところにいた子だね。大きくなって――」
面識のない男に、瑠実は首を傾げる。大翔も面識はなかったようで、眉を顰めていた。
「ここで話をするのもあれなので、場所を移しましょう」
白の言葉で瑠実と大翔と男は周囲を見渡す。多くの視線が瑠実達に向けられていた。どうやら、気づかぬうちに周囲の注目を集めてしまっていたらしい。
「そ、そうだね。非常階段の方に行こうか」
男の言葉で、四人は非常階段へと向かった。
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