第56話 魔法機械技師ルカ④
「ルカ様、……腕は治らないそうです。時間が経ち過ぎました。あのときすぐに最上位の回復魔法を施していれば間に合ったのですが……いえ、申し訳ありません。私の影縫いでもう少し時間を稼げれば腕を失うこともなかったのです」
たしかに、傷を負ったすぐに最上位の回復魔法を受けたなら、失った腕は元通りに回復しただろう。
だが、時が経ち、身体が欠損した状態を受け入れたなら、どんな回復魔法でも失った腕は元には戻らない。
それは回復魔法の常識だ。
あの時にあの状況でそれが出来ただろうか、いや無理であろう。それに吾輩の手を奪ったのはベヒモスであってセバスティアーナではない。
「セバスちゃんよ、そう落ち込むな、あれにはどんな魔法も効かんだろう。それにだ、吾輩だけ五体満足で帰還してみろ。それのほうが問題であろうが?」
先ほどからセバスティアーナは自分の忍術が失敗したことを反省している様子だ。
しかし、あれは決して影縫いが失敗した訳ではない。恐るべき膂力で地面ごと影縫いの効果を引っこ抜いたのだ。
吾輩としては勉強になる。もしかしたら今までの結界魔法を根底から崩しかねない発見だ。
そう、今、思いついただけでも現在の結界は穴だらけだ。
例えば、王城の城壁には多重魔法結界が施されている。
だが。地下室を爆破してしまったら? 城壁ごと瓦礫になるだろう。魔法結界とはなんだったのか……。
まあ、それはそれで、吾輩としてはどうでもよい、問題は珍しく落ち込んでるセバスちゃんを立ち直らせないと、それが最優先事項だ。
「あの後、王城では、誰が責任を取るのかで大いにもめたぞ、結局は指揮官であるレーヴァテイン公爵が爵位の降格と、自身は隠居という処分となった。
いくら王の叔父という身分でも貴族は隙あらば足を引っ張る、そういう化け物の集団なんだよ。
吾輩の方は左腕を失うということと、ベヒモスを殺せはしなかったが一矢報いたということで罪には問われなかったしな。
もし吾輩がピンピンして帰還したら地位を奪われたのは吾輩の方であったよ。わはは」
「なるほど、貴族とは度し難いものなのですね」
今、吾輩は自身とセバスティアーナの為だけに研究をしている。
よし。完成だ。
「あの、それはガントレットでしょうか……肩まで覆うのは初めて見ましたが……」
「うむ、半分正解だ、それ、セバスちゃんよ。ちょっと装着を手伝ってくれたまえ」
「はい、……なるほど、これはルカ様の義手ということですね、…………ひゃ! どこを触ってるんですか」
「さあのう、どこかのー、吾輩の義手が勝手に暴走したことゆえ、わからんのー。しかし、セバスちゃんよ、最近ちょっと太ったかの? おしりの肉厚がバージョンアップしてるような気がするぞい?」
「ルカ様! まったくルカ様はいつもの戯れの為に魔法の義手を開発されたのですか? これでは今までと何も変わらないではないですか。あっ! …………」
「そうだぞ、いつも通りだぞい? セバスちゃんよ、ちなみに君はこの後、吾輩に言葉と物理のげんこつを浴びせるのが今まで通りのルーティーンだぞ?」
「はい、……ですが。いえ、私が勝手にくよくよして申し訳ありませんでした。今後ともルカ様の従者として、このセバスティアーナは変わりなくお仕えすることを誓います。
ですが太ったとは聞き捨てなりません。鍛えなおしていたのです、その成果を物理的にお見舞いしてみせましょうか?」
いつもの調子に戻って吾輩も嬉しいよ。正直、湿っぽいセバスちゃんも、それはそれで可愛いが、よそよそし過ぎて……な。少なくとも身内だけは笑いあっていたいのだ。
「そういえば、セバスちゃんよ、九番では重すぎだと言っておったな。だから十番を新しく作った。名前はそうだな『ダブルコダチ』としよう。
ほら、君らの伝説の北米帝国ではニンジャーは二刀流だと言っておったからの」
「ルカ様、怪我をされていたのに、またそんなことをしていたのですか? 私の為に……」
「おうさ、ちなみに『ノダチ』と同じで魔剣開放は使えないが、それはセバスちゃんの忍術に適合させている。役に立つはずじゃ。だからな、あまり思いつめるものではない。
ラングレン夫妻は死んだ。死んだのだ。だから次は死なせないように頑張ればよいのだ」
義手にもなれて、魔力も回復した頃、再び王城に呼ばれた。
「ルカ・レスレクシオン辺境伯、今回の一件、貴殿の片腕の喪失、まことに申し訳なく思う。それでも貴殿の貢献は我が王国に多大な利益を――」
長ったらしいので要約すると。
吾輩の罪はベヒモスを逃してしまったこと。
だが、それを言うと指揮権を持っていたレーヴァテイン公爵の名誉を傷つける。
どうにか、いい感じで落としどころを付けたい。貴族間の派閥闘争も過激化しつつある。これもなんとかしたい。
そうだ、ベヒモスを再討伐すればいいんじゃね?
だから、王家としては、次の仕事として、ベヒモスに対しての最強の武器を作ってほしい、財源は国庫から半分、残りは今解体中の公爵家から捻出するということであった。
言いたいことは完結明瞭に話せと、いやそれはいい、吾輩としては受けざるを得ない。
それにラングレン夫妻のような、生まれたばかりの子を孤児にしてしまうような悲劇が繰り返されないためにも最強の武器を作らないとな。
「王よ、そのご命令、承りました。吾輩も先の遠征で思うところありましてな、最強の武器、それこそベヒモスなど一刀両断できる武器を考えておったのです」
こうして吾輩は、国から膨大な予算を得ることになり、魔剣製作を再開した。
十一番以降は実験も含めて試行錯誤したが最終的には最強の魔剣、二十番『ベヒモス』を完成させることができたのだ。
まあ、いろいろと盛り込み過ぎて使い物にならずに吾輩は国を追われることになったのだがな。
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