第22話 二人旅①
俺達は商業地区を歩きながら南の関所を目指した。
今のところはまだ王都で起きた出来事については知られていなかった。
宿でみた新聞には王都の事は何一つ書かれていなかったからだ。
――バシュミル解放戦線という盗賊集団が王都への通行を妨害しており被害が日に日に増している。
フェルガナの領主はこれを無視しているのでは? 曖昧な回答に領主と盗賊団との関与が疑われる――
などなど、王都が壊滅したことをまだ庶民達は知らないようだ。
ならばこそ今のうちに街から出る。
商業地区を歩きながら俺達は露店に立ち寄り、少し高級な香辛料を購入した。
高級な香辛料の値段がかなり下がっている。
俺達は分かっている。王都の需要がなくなったためだろう。
今後、王都が陥落したことが知られたらこういう贅沢品は暴落どころではないだろうな。
まあ、そうなる前に俺達はさっさとこの街を出るから関係ない話だが。
小麦など保存がきく食材も追加で購入した。キッチンカーの倉庫はかなり充実していく。
二人旅ならこれでしばらくは大丈夫だろう。
「シャルロット、必要な食料はもう大丈夫だ。あとは今日食べるもので好きなのを買おう。保存が利かない食べ物は今日で最後だしね」
「うーん、そうね、そういわれると迷うわね。少し考えさせて」
考えさせてと言った彼女、迷っているのはなぜだろう。さっきから肉の焼ける匂いがするのに。
「ふふ、考えてるのよ。あの肉は間違いなく美味しい。でも昨日も食べた。新しい味を探すのもありかなって。でもハズレだったら後悔するし……」
「たしかにな、でもハズレだったら後悔するなら、確実に当たりを買えばいいじゃないか。そういう冒険は港町に着くまで取っておくのもいいじゃないか?」
「それもそうね、あなたが正しいわね。港町なら美味しい物がたくさんあるはず。なら今日食べるのはこの街で一番の串焼きよ!」
声が大きい。
周りの視線が痛かったが。屋台で肉を焼くおじさんはニコニコしていた。
「お嬢さん、嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか。この商業都市フェルガナはこれといった特産品は無いが香辛料の流通は世界一だぜ。
その香辛料をふんだんに使った秘伝の串焼きはこの街で一番の料理よ!」
上機嫌なおじさんは俺達が10本買うと言ったらサービスでさらに10本くれた。
ありがたいが悪い気がする。
「別にいいんじゃない? あのお店、繁盛してるじゃない」
たしかに、俺達が買った後には行列ができていた。
なるほど、俺達というか、一人の美少女がこの街で一番の串焼きよ、とか言って20本購入したという事実は。周囲の関心を引いたのだろう。
人が人を呼び行列になっていた。
なるほど、これなら10本サービスしてもお釣りがくるっていう訳か、さすが商業都市。
「まあ、そういうのを悪く言う人はいるけど、いいんじゃない? 実際、この肉、美味しいわよ? この街の全ての串焼きを食べたわけでは無いけど。美味しいのに変わりないわ。ほらあんたも食べてみなさい」
シャルロットはさっそく一口食べている。彼女は食べかけの串を俺の口に近づける。
俺は目の前にある食べかけの肉を一口食べると、なるほど旨い。
香辛料が効いている。
「うん、うまいな。正直、肉の味なんて、このピリッとした香辛料の香りでよくわからないけど、脂の美味しさはよく分かる、なるほどね」
「でしょ? 香辛料さえあれば、あんただってこれくらいの串焼きはできるはずよ? 頑張ってね。香辛料はたくさん買ったんだし」
二人で串焼きを食べながら南の関所につく。
俺達は香辛料の使い方について話し込んでいた。
いつの間にか関所の警備兵たちも俺達の会話に加わっていた。
香辛料の使い方についてアドバイスをしながら、ついでに俺達の手荷物の検査をしていた。
怪しいものは入っていないが。
警備兵のおっちゃんは香辛料の入った袋を一つ一つ取り出し。
これは、臭みを取るのにいいだの。これは焼いた肉にまぶすといいだの。いろいろと教えてくれた。
ここでもそうだが、キッチンカーの動力部にある魔剣に関してはまったくのスルーだった。
魔剣自体に知名度が無いのが良かったのだろう。あれが魔剣だと知れたら俺達は直ぐに事情聴取を受けてしまっていたはずだ。
「よし、問題ない。ちなみにクロスボウは武器にもなる。気を付けて使うんだぞ。あと、いい肉なら最初は香辛料を控え目で食べてみるのもいい。美味しい肉は本当に美味しいんだ。じゃあな、良い旅を」
警備兵から気持ちよく送り出されて俺達はいよいよ街を出て南方に向かう。
まだまだ油断できないけど、とりあえずこれで一直線に港町グプタに向かうことが出来る。
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