第21話 商業都市フェルガナ③
買い物は終えた。
俺達は宿に戻る。この宿は二階が客室で一階は大きな食堂になっている。
俺達は明日の準備を済ませると、一階の食堂に降りてきた。
外はすっかり暗くなっており、食堂は賑わっている。丁度食事時なのだろう。
キャンドルの明かりが落ち着いた雰囲気を演出し。料理の香りが鼻をくすぐった。
俺達は席に座る。
「さてと、シャルロット、今晩だけはまともな食事がとれる滅多にない機会だ。何が食べたい?」
「ふふん、愚問だわ。肉よ! この店のお勧めの肉料理を一通り注文しましょう。あんたは、できるだけ味を盗んで頂戴。道中は貴方が頼りなのよ」
「おいおい、それはお互いさまじゃないか? なんで俺が料理をやる前提なんだよ」
「ふふん、それも愚問だわ。私に苦手なことがあるとすれば、それは料理よ」
たしかに、魚を焼かせたら炭になってたっけ。
「納得は出来ないけど、まあ了解だ。食料は貴重だからな。じゃあウェイトレスさんを呼ぼうか」
直ぐに俺達のテーブルに肉料理が豪快に盛り付けられた皿が並んだ。
「さて、じゃあ。俺達の旅に乾杯っ! ……て、もう食べてるよ」
シャルロットは本当に貴族なのだろうか。
皿がテーブルに着くやいなや、ガツガツと肉を口に運んでいるのだ。
「何言ってんのよ。貴族ってバレたら私達は終わりなのよ。マナーなんて知らない方がいいわ」
それはそうなんだが。さすがに無作法すぎて逆に目立ってる気がする。
平民といっても、ここは商人ギルド公認の宿だ。
ある程度裕福な人たちしかいない。彼らだってテーブルマナーくらいはできて当たり前だ。
となりの中年の夫婦は、俺達をみて露骨に嫌な表情をしている。
別の席の初老の男性は穏やかな表情で彼女を見ていた。
孫娘でも思い出していたのかもしれない。そんな優しい表情だった。
まあ、こんなに口の中一杯に肉を詰め込む女の子が貴族な訳がないだろう。
それは間違いなかった。
案外これが彼女の素の姿ではないかとも思う。一緒に過ごしたのは二週間の間だけだったが彼女の本当の姿を少しだけ分かった気がする。
「おいおい、さっきから一人で食い過ぎだ。俺の分も残しとけよ!」
食事を終えると俺達は二階の宿に戻った。
寝る前に明日の行程を確認する。
商業都市フェルガナは広い。
王都ほどの高い建造物は無いが。それでも中央には領主の住む館と、商業ギルドの本部がある。
中央には近づかない。俺達は外周の商業地区を歩いて南門から外に出る。
もしかしたら、例のエフタル解放戦線の連中が領主の館にいる可能性も否定できない。
一応、ここの領主は平民出身ではあるが、一代限りの貴族の爵位も持っている。
あの盗賊が言っていた貴族を殺すって、どこまでの範囲をいうのだろう。
それを今さら考えてもしょうがないか。
それに貴族という範囲でいえば伯爵家の令嬢であるシャルロットは間違いなくその対象だ。
この商業都市を抜ければ王都の影響はほぼ無くなるだろう。
もともと南部は田舎であり王都の人間には関心のない穀倉地帯がほとんどだ。
その穀倉地帯を通り過ぎれば独立都市グプタだ。
グプタに入れば王都の権力は及ばない。
なんとかそこまで、その後の事は着いてから考えればいい。
「ふう、さすがに商業ギルドご用達の宿屋は違うわね。部屋にお風呂があるなんて思わなかった。
これなら高めの宿代にも納得ってものよ。久しぶりのお風呂だからあんたも入っちゃいなさいよ。気持ちいいわよ」
半裸で出てきたシャルロット。
一応隠すべきところは隠しているが、もはや彼女に羞恥心は皆無だった。
まあ俺もそれくらいなら慣れたよ。いちいち同様してたらこの先何もできない。彼女は妹なのだから。
俺達は、この先の二人の関係は兄妹ということにしている。
風呂か、最後の贅沢ってやつか。ありがたく頂戴しよう。
旅で風呂はそれこそ温泉でもない限りは不可能だ。もっと豪華なキッチンカーならお風呂もあるのかもしれない。
だがそれは大型で貴族でも共同出資でやっと購入することができる、まさに贅沢の極みといった機種ではあるが。
そこまでして風呂に入る理由はないだろう。
……少し堪能しすぎたか。のぼせるところだった。
しかし風呂は確かにいい。旅の疲れが取れる気がする。精神的にもリラックスできる。
シャルロットは既にベッドで静かに寝息をたてていた。
俺もすっかり落ち着き、心地よい疲労感も相まって直ぐに眠りに落ちた。
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