第二章 逃避行

第12話 ルカ・レスレクシオン

 ここはカルルク帝国の最北端、迷宮都市タラス。


「チュートリアル終了! よくやったぞ! なお、この録音音声は自動で消去されます。――」


 ……ふむ、なるほどな、彼が所有者になったか。まったく何の因果かな。


「ルカ様お疲れさまでした。しかし、なぜ録音データだと嘘をついたのですか? テレパシーの魔法は別に珍しくないでしょう? まあバレバレだったので特に言う事はありませんが」


 バレバレだったかのう。まあ台本も無かったし急だったのもある。アドリブは難しいものだ。


「まあ、それはなんとなく雰囲気というやつじゃ。それに何でも質問攻めにされても吾輩が困るからのう。どのみちテレパシーの魔法は一回しか使えん、おまけで仕込んでおいた魔法だからのう」


 そう、もし所有者が偶然現れたとして、そいつが相応しい人物とも限らない。もし危険な奴だったら自爆させようと思ってたくらいだし。


 しかし、カイル少年か、立派に成長したようだ。あいつらも鼻が高いじゃろうて……。


 さて、出迎えの準備をせねばならんな。2年か3年か、彼らなら無事ここまで来れるじゃろう。

 だが彼らはまだ若い、根回しくらいはしてやらねばな。


「よし、セバスちゃんよ。吾輩はこの地下に研究所を作ろうと思う。隠居生活も正直飽きた。それにこの辺境の都市の相談役というのもつまらんし、ストレスが溜まる」


「はい、それは良い事です。では私もそれとなく彼らの動向を探ってみますね」


「うむ、そうだのう、どうせならここいらでオリビアちゃんに恩を返してもらおうか。今、手紙をしたためる故、これを持ってオリビアちゃんに会ってきてもらえるかのう」


「オリビアちゃんって……、いくらかつてのご学友だといえ、さすがに現カルルク皇帝、オリビア・カルルク陛下にそれは軽すぎでは……」


 オリビア・カルルクは名の通りカルルク帝国の皇帝。だが学生時代は吾輩の妹分である。

 何度も面倒を見てやったのだ。それに世間には知られてはならない恥部もある。


「はっはっは、セバスちゃんは知らんか。

 学生時代に彼女に頼まれてのう、一生のお願いだと言われて作った、七番の魔剣、魅惑の短剣『ダーリンアタック』を手渡してから、ずっと彼女は吾輩に頭があがらんのじゃよ。

 いやー、あの時のオリビアちゃんは年頃の悩める乙女全開じゃったからのぉー、それはそれは可愛かったものだわい」


「……なるほど、それは興味深い話ですね。何気に国家機密な感じがしますが、こんど聞かせていただきましょう。では手紙が出来次第、私は首都ベラサグンまで行ってまいります」


「うむ、まかせたぞい、それとエフタル王国のその後についての情報収集をたのむ。捨てた母国とはいえ一応ことの顛末くらいは知っておくべきじゃろう」


 エフタル王国はただ事ではないだろう。呪いのドラゴンロードの襲撃とはな。

 王都の大結界は強力な魔物ほど侵入が難しくなる完璧な多重防御結界だったはず。

 王族関係者が裏切ったか、まあ、裏切るだろうな、あの王様では。


 では誰が裏切ったか。


 ……裏切る奴の心当たりがありすぎて分からんわい。

 まあ、せめて前の王よりもまともな奴であってほしいものだ。

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