第11話 旅立ち
夜が明ける。
ベッドに寝かせておいたシャルロットが目を覚ましたのかブランケットがもぞもぞと動いている。
「すまんな、緊急だったから俺の部屋で寝かせたんだが、安心しろ何もしてない。あと今着る服を持ってくる。ちなみに服を脱がせたのはおばちゃんだから安心しろ」
シャルロットは自分が裸になっていることに驚いたが、だんだん記憶がはっきりしてくると、そんなことよりも自身の五体が無事であることに安堵した。
「服だけど、女性ものが無いからこれで我慢してくれ。おばちゃんのだとサイズが合わないからな、じゃあ着替え終わったら声を掛けてくれよ」
シャルロットは渡された男物のシャツとズボンにフード付きのマントを羽織る。
「着替えたわ、ところで、昨日のことだけどあれから何があったの?」
「ああ、それだけど、今はそれどころというか――」
「貴族がいたぞ! 囲え、一人も逃がすな! 捕まえようとは思うな! 奴らは魔法使いだ、見つけたらすぐに殺せ!」
外から大きな声が聞こえる。
おっちゃんとおばちゃんが部屋に入ってきた。
「カイルよ、……すまねぇ、今すぐ出てってくれねぇか……お前たちをここに置くわけにはいかねえんだ……」
普段と違ってよそよそしい態度だった。
そして自分の言ってることに罪悪感を感じているのだろう。
目を逸らして喋るおっちゃんに、俺は言う。
「おっちゃん……、外の雰囲気からなんとなくわかるよ」
貴族狩りが始まったんだろう。ドラゴンを呼び寄せた罪とかそんなところだろうか。
実際、貴族たちは率先して魔獣狩りを行っていた。強力な魔獣からとれる牙や毛皮などは価値があるし、彼らの財源の一つである。
そのたびに魔獣たちの報復を受けて死ぬのは大抵が平民だった。今回のドラゴンがその報復だったかは分からない。
でも証拠など必要ないし、貴族たちは昨晩のドラゴン襲撃でほとんどが死傷している。
拠点である王城や大貴族の屋敷、魔法学院はもう無いのだ。
貴族に対する復讐を叶えるのは今しかないのだというのは簡単に予想できる。
今は散発的に起こっている暴動は数日と待たずに王国全体に広がるだろう。
「おっちゃん、おばちゃん、お世話になりました。おっちゃん……そんな顔すんなって、育ててくれたこと本当に感謝してるよ。……時間がないみたいだしすぐに出ていくよ、それに俺たちを匿ってたらおっちゃん達が危ない」
外では逃げてた貴族が捕まったのだろうか、静まり返ったと思ったら断末魔が一瞬だけ聞こえた。
おばちゃんはシャルロットにカバンを手渡す。中には食料と水が入っているようだった。
「お嬢ちゃん、無事逃げたら、二人で食べなさい。硬いパンと干し肉だから口に合うかわからないけど……」
「おばさま、ありがとう、見ず知らずの私の為に服までくれて」
「さあ、行くぞシャルロット。目的地はないけど、とりあえずは街の外に無事に逃げること、今はそれだけを考えよう」
おっと、これを忘れるところだった。
俺は機械魔剣『ベヒモス』を担ぐと、ルカ・レスレクシオンの最後の言葉を思い出した。
『チュートリアル終了! よくやったぞ! なお、この録音音声は自動で消去されます。
他の使い方は君自身の手でつかみ取るのだ! ちなみに吾輩は迷宮都市タラスにいるかもしれないから、尋ねてくるとよいぞ!
あと、これはサービスじゃ、この魔剣を運搬するのはキッチンカーがあると便利じゃぞ。あれは吾輩が作った作品じゃからこの魔剣の運搬が出来るようになっておる』
キッチンカー。
馬車の三分の一くらいの大きさの自走式の魔法機械。
食糧の貯蔵と調理器具が一通りそろった、遠征や旅に便利な魔法道具だ。
おっちゃんに言うと「なんでも持ってってくれ」との事だ。
ありがたく頂戴しよう。
まあ実際は動力源の魔石が高価で、倉庫に眠っていたので使い道はなかったのだが。
俺はキッチンカーを見ると魔石をはめ込む動力部にある大きな溝に気付く。
今まではこの溝はただのデザインだと思っていたが、よく見ると魔剣の形と同じだ。
魔剣をこの溝に差し込むとキッチンカーは動き出した。
なるほど、魔剣の魔力が魔石の代わりに動力源になるのか。
よく作られている。
さて、旅に出るか。迷宮都市か、遠いな。まあ目的地があるだけマシだし、一人ではない。何とかなるだろう。
生きてれば何とかなる。
「よし、出発だ!」
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