第13話 盗賊と処刑人
早朝。
まだ周りは若干薄暗い。
完全に日が昇る前に王都を出ることが出来てよかった。
俺達は開けっ放しの外壁の門を抜ける。
混乱は王都の中心で起こっている。
それは時間と共に王都の外周部にまで広がるだろう。
そして、この門も閉じられる。
逃げるのが今でよかった。おっちゃんが急いでいたのはこのことだったのだ。
ありがとう、いつか恩返しをさせてくれよな。
…………。
だが甘かった。
王都から出て直ぐに俺達は危機に遭遇した。
あれは、なんだ? 黒い甲冑に身を包んだ草原地帯に場違いな一人の騎士と、その隣には平民の服をきた細身の男のアンバランスな二人組。
いや、平民ではないか、ポケットが多いし、腰にはたくさんのアイテムや武器を隠している。間違いなく盗賊だろう。
彼らは何か話している。黒い騎士の声は聞こえないが、盗賊の男はわざとなのか大声でしゃべっている。
だからこの距離でも聞き取れた。
「ここいらに居れば、逃げてきた貴族を捕まえられるっすねー。ここはグプタへの最短通路っすから」
黒い甲冑の騎士は大きな剣を地面に突き刺したまま、その場に仁王立ちをしており、なんの反応もない。それどころか銅像のように身動き一つしない。会話が成立しているようには思えない。
シャルロットを見ると彼女は振るえている。
彼女は我慢できなくなったのかフードを被ろうと手を頭の後に持っていく。
俺はとっさに彼女に言った。
「だめだ、シャルロット、彼らはとっくに俺達に気付いてる、顔を隠さないで堂々として」
不味い、あれは、逃げないと。でも、どうやって、恐らくあの盗賊には斥候のスキルがある。ひょうひょうとしているが立ち姿に隙がないし、軽い口調のわりに周りをよくみている。
俺達の存在にもとっくに気付いているだろう。
俺は歩みを止めることなく道なりに進む。そして会話が届く距離にまで近づくと。
盗賊がわざとらしく俺達に話しかけてきた。
「おや、こんなところで建設組合んところのバイト少年じゃないっすか。こんな朝早くからどちらに?」
思い出した。この盗賊は昨日、俺たちの仕事場に来た旅芸人の一人だ。
どういうことだ、まさかこいつらはあのドラゴンの手先なのか、それとも逆なのか。
分からない。でもできるだけ冷静に。
落ち着いて対処しないと。全て終わる。
「いや、ちょっと用事があって。急ぎで隣町まで行かないといけないんですよ」
くそ、いい理由が浮かばない。でも下手な嘘はこの百戦錬磨の盗賊にはすぐに見破られる。
こいつは間違いなく強い。身のこなしにまったくの隙が無い、それに隣の黒い騎士も不気味だ。
「へぇー、お使いってやつですかい、関心関心。少年の働きっぷりは俺っちも感動ものっす。やっぱ男は体を動かしてこそってやつですわー」
彼らの目的が分からない。この会話の意味も分からない。
でもしょうがない。話に付き合うしかないのだ。
「あの、おじさん。その騎士様はどなたでしょうか? 昨日は見なかったので……」
盗賊は表情こそは変わらなかったが。一瞬、明らかに目つきが変わった。
「ああー、これっすか? これは姫様の『亡者の処刑人』っす。
俺っちは生き残った貴族を殺すためにここで待ち構えているんっすよ。奴らが逃げるとしたらこの道を通るに決まってるっす。
少年もこの道は危険っすよ? 逃げ延びた貴族に腹いせで殺されたら大変っす。まあ俺っちがこの先に逃げられないように、ここで待ち伏せしてるんすから問題ないとは思いますがね」
「亡者の処刑人!」
シャルロットが明らかにおびえたように反応した。
「おや、お嬢さんには処刑とか刺激が強すぎっすかね。でも安心してほしいっす。俺っちの命令なしでは執行しませんから。ところでお嬢さんはどなたですかい? まさか――」
「シャルロットは関係ないし貴族じゃない! 彼女は! ……その、俺の妹です」
しまった。洞察力の高いであろうこの男にこんなこと言ったら嘘が直ぐにばれるのに。
どうする。魔剣を取り出す時間もない。格上の盗賊から逃げれるわけもない。
終わったのか……。
「シャルロット? うーん、聞いたことがある名前っすねー。
あ、これは失敬、少年君のお気に入りの嬢ちゃんの名前っすね。妹だなんて、バレバレな嘘を、まったくー、ぐへへ、これはこれは、おれっちお邪魔でしたかなー?
ふむふむ、お二人共、お使いだけじゃないね? こんな早朝から? いやいや、失敬失敬。若いお二人の邪魔しちゃったっすね。ちなみにこの先はエフタル解放戦線の縄張りっす。
奴ら能力は低いが数だけは多いっす。街道は避けて森を進むことをお勧めするっすよ。
ほら、ちょうど今、太陽が昇ったっすから、地図持ってるっすか?
ちょっと拝借……で、ここを通ると……隣町ってな感じっす。じゃあほどほどに少年よ! 独りよがりは女の子に嫌われるっすよ! 若い男こそ自制心をっす」
……どうやら俺達をあいびきと勘違いしたのか? いや、そんなはずはない。俺達を助ける理由は分からない。
でも、あの人の教えてくれた情報は正しいだろう。逃がしてくれたと思う方がただしい。
それにエフタル解放戦線は厄介だし、このまま街道を歩く理由はない。
森を進もう。
…………。
「ふむ、名前を憶えておいてよかったっすね。姫様からは貴族の中でも殺してはいけない名前が一人あったっす。
シャルロット・レーヴァテイン。もし生きてればってことだったっすが。よかったっす。
レーヴァテイン公爵は唯一の姫様の味方だった人っすから」
処刑人は急に剣を構えた。
大きな両手剣、切っ先の無いエクセキューショナーズソードだ。
盗賊の男は王都の方向へ目を凝らす。
「お、やってきたっすね。問題はクリアしたっすから、後は心置きなくゴミ掃除をするっすよ」
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