第156話 崩落、第一門

「いくぞ? 三……二……一……」



 【筋波電光マッスルウェーブ・ボルトぉぉぉぉぉぉ!】



 ズドガガドゴガガガガがガガガ!



 第一の門『朝暘門フォールアセンション』の内部に侵入し、巨大な壁を支える支柱を叩き折る。


「わわわわわ、振動! 大丈夫ですかね!?」


「大丈夫じゃないからすぐさま次の柱に移動って打ち合わせしたでしょ! ほんっと馬鹿なのね、この肉欲肉だるまは!」


「はぁ!? 肉欲肉だるまじゃないですし! 天才ですし! 清らかスレンダーですし! 大体あんたみたいな魔物風情に崇高なる私たち神族の規範なんて計り知れるわけないじゃないですか、ば~かバーカ!」


「天使のほうがよっぽど馬鹿! こんな刺激のないところでボーッと暮らしてるからそんな馬鹿みたいなオツムになるんじゃないの!? おまけに肉体までこんなに堕落して! あ~、話してたらこっちまで馬鹿が伝染る! えんがっちょ! 馬鹿えんがっちょ!」


「はぁ!? 物理的にも環境的にも汚いのはそっちでしょ! こっちこそエンガチョ~!」


「はい、汚いとかの話、今だれもしてませ~ん。やっぱり馬鹿決定! 馬鹿確定! バカ肉天使馬鹿天使~!」


「きぃ~! なにちょっと語呂がいい感じで貶めてくれてるんでんすか! ちょっと真似して口に出したくなるじゃないですか!」


「だぁ~ってろ!(ゴンっ!)」


 頭を押さえ涙目で恨めしそうに睨むザリエル&グローバ。


「馬鹿同士喧嘩するんじゃねぇ!」


「ったぁ~い……! って、なんで私が馬鹿なんですか!」


「馬鹿だろ、バカ肉天使馬鹿天使」


「あ~、クモノス様まで真似して~!」


「ぷぷぷ、バカ確定」


「笑ってるけどクローバ、お前もどつかれただろ」


「はい? どつかれていませんけど? この『千年王国』の王女たる私が頭をグーで殴られるなんて、親に怒られる幼児かのように頭をグーで殴られるなんて、そんなこと万に一つもありえませんけど?」


「こ、こいつ……」


 現実を受け入れずに脳内改変してやがる……!

 どんだけプライドが高いんだ。

 ゴブリンの王女だかなんだか知らんが、バンパイア一族のボスの一人娘のリサでもここまでプライド高くなかったぞ。

 っていうかゴブリンだろ?

 なんでゴブリンごときがここまで王女然としてられるんだよ。

 っていうかさぁ、俺の即席使い捨て肉盾ども……変なのしかいねぇ……。

 まぁ変だからこそ、なんの未練もなく容赦なく使い捨てられるから別にいいんだけど。


「フィード、次はこっちだ」


 壁内職員の権天使に『憑依ポ・ゼッション』した小鬼インプのホラム。

 男の脳内にある地図を読み取って俺に進路を伝える。


「ほれ、穴掘りしか能がないお前の出番だぞ」


「え~!? 私いっぱい取り柄ありますよ~!? カワイイとか、包容力があるとか、抱き心地がいいとか、あと……え~っと……ん~……」


「うるせぇ! さっさと掘れ!(ゲシゲシ)」


「あ~ん、クモノス様~!」



 地上、人間、そしてすべての生物を生み出した天界。

 その入口にそびえる巨大な壁『朝暘門フォールアセンション』。

 敵対者に超えられないことを目的として作られたそこは、超えられないためのあらゆる仕掛けを講じられていた。

 しかし、想定していなかった。

 破壊を──ましてや内部から破壊しようとする連中が現れることなど。



 ズドドドドドドドドドド!



 俺の『筋波電光マッスルウェーブ・ボルト』によって六本目の柱が崩れ落ちる。

 

「クモノス様、すごいです! もう六本目! お疲れじゃないですか!? 私の体をなんでもぜ~んぶ隅々まで使って癒やされてください! そう! す・み・ず・み・まで使って! って、あ~ん! なんで私を無視してみんなで先に進んでいってるんですかぁ~!」


 いちいち反応してやるのにも飽きた俺たちは、ザリエルを置き去りにして最後の柱を目指し移動を開始。

 そして俺は決意する。


 クズ天使スネファスを


 七つ目の柱を壊した時。

 あとは脱出するだけとなったその時。

 スネファスを置き去りにする。

 置き去りにされたスネファスは当然瓦礫の下だ。

 肉盾一号~三号には事故にしか見えないだろう。

 それがベスト。

 こいつらは今後も使う道具。

 いちいち疑いを抱かれても面倒。

 ってことで事故で死ね、スネファス。

 お前はもうお役御免だ。

 死刑場まで俺を案内して死ね。死ね。死ね。っていうか殺す。


 もうすぐ殺されるとも知らず、俺たちの先頭に立って一歩、また一歩と己の処刑場へと近づいていくスネファス。


「ここが最後の支柱のある部屋です」


 施設職員の権天使に『憑依ポ・ゼッション』したホラムが告げる。


「よし、じゃあ開けろ、スネファス」


「へ? 私めで?」


「そうだ。なにか問題でも?」


「い、いいえ……! ないです、ありません」


「そうよそうよ! クモノス様のご指示に口答えするなんて天使失格よ! この落第ゴミ天使!」


 いつもみんなから馬鹿にされてるザリエルがここぞとばかりにスネファスを貶す。


「では……開けますね?」


「さっさとしろ」


「はい。では今から開けます! 開けますよ! はい、いま開け──たぞぉぉぉぉぉぉ! 死ねぇぇぇぇぇクモノスとかいうインチキ詐欺野郎ぉぉぉ! ギャハハハ! これで貴様は死ぃ~……ぃい?」



 【軌道予測プレディクション

 【投触手ピッチ・テンタクル



 ズドドドドドド!



 扉の向こうに控えていた第一門の主力の権天使たち。

 そいつらの攻撃の軌道をスキルで予測し、右手から出現する触手を投げつけて方向を変える、相殺する。そして。



 【斧旋風アックス・ストーム

 【身体強化フィジカル・バースト



 一人ひとりの羽を両手に持った短刀『結界斬ボンド・ダガー』と『悪鬼滅刃アキメジ』で切り落としていく。


 シュンッ──。

 ジュゥ……!


 音もなく、いとも容易く『結界斬ボンド・ダガー』は羽を切り裂き、本能的に嫌悪を催す音を立て『悪鬼滅刃アキメジ』が羽を爛れ切る。

 命どころか天使たちの誇りや存在意義そのものらしい羽を切り落とされた天使たちは次々と絶命していく。


「どうした、スネファス? なにをそんなに青い顔をしている?」


「な、なんでこんな完璧に返り討ち出来るんだ……! ここで貴様を討つという俺の作戦に不備はなかったはずなのに……!」


「不備ならあったぞ」


「ど、どこに……?」


「だって俺、お前がここで俺に仕掛けてくるのを知ってたから」


「な、なぜだ!? 仲間への伝達は完璧だったはず! 絶対に気づかれたはずはない! ま、まさか……! 俺の心を読んだとでもいうのか!?」


「心は読んでない。ただ、可能性を絞るとここしかなかったんだよ。貴様が生き延びるために俺をどう裏切るかを考えるとな」


「出来るはずがない! だって俺の『卑屈サービティ・ライバー』の前ではいかなる者も油断してしまうはずで……」


「なぁに、単純な話だよ。貴様の『卑屈サービティ・ライバー』よりも俺の『狡猾モア・カニング』の方が上手だっただけの話だ」


「『狡猾モア・カニング』……? 複数スキル持ちだと……?」


「ああ、言ってなかったっけ、お前には。お前以外の三人は知ってるぞ、俺がいくつもスキルを使うことが出来るって。さらに、ってな」


「な……! 奪うだと……!? ハッ、まさか……」


「そのまさかだ! 貴様のスキル俺が貰い受けてやるぞ! 『鑑定眼アプレイザル・ア……」



 バキッ──バキィッ! ゴゴゴゴゴゴゴ……!



 ……ん?

 なにこの振動?

 そして物音。

 え、なんか。


「クモノス様! 柱! 柱壊れてます!」


「……は?」


「クッ……! どこの馬の骨とも知れぬ逆賊どもめ! この天界の誇り『朝暘門フォールアセンション』! 貴様らの手にかかって散るぐらいなら、私の手で! ぐぉぉぉおお!」



 【万力包容マイティ・エンブレイス



 抱えきれない巨大な柱に手を回し、潰せる範囲だけ次々と抱き潰していく権天使。

 柱の影になって見えないからスキルも奪えない。

 回り込んで姿を視界に入れようとするが、アホのザリエルが「怖いですぅ!」とか言って抱きついてきて出鼻をくじかれる。

 そして。


「あっ」


 と言う間に最後の巨壁を支える柱がバキバキと崩れ去って満足そうな笑顔を浮かべる名もなき権天使を飲み込んでいく。



 ドドドドドドッ!

 ガラガラガラガラガラガラ!



「きゃ~! クモノス様~! こわいですぅ~!」


「だぁぁぁぁ! 離せ、死ぬだろ!」


「構いませ~ん! クモノス様と一緒のお墓に入れるなら圧死大歓迎で~す!」


「構う! 俺は構う! おいグローバ、こいつを引っ剥がせ……ってもういねぇぇぇぇ! 一人で勝手に逃げてやがる! この隙を狙ってやがったな、あいつ!」 


 ガラッ、ブチャ! ポロッ。


 落ちてきた雲片に押しつぶされた憑依ポ・ゼッション権天使の口からホラム飛び出してくる。


「フィードもさっさと逃げろって!」


「言われなくても逃げるわ! 奴隷一号! 俺様の盾になれ!」


「え~、私は常にクモノス様の盾であり鞘ですよ~?」


「意味わからんこと言うな! いいから逃げるぞ!」


「はぁ~い」


 軌道予測プレディクション

 身体強化フィジカル・バースト

 斧旋風アックス・ストーム

 投触手ピッチ・テンタクル

 筋波電光マッスルウェーブ・ボルト


 とにかくスキルを使いまくって俺たちは必死に走りに走りまくって、天界第一の門『朝暘門フォールアセンション』の外に──出た。 

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