閑話
第130話 パルの決意
【まえがき】
ストックが10話分溜まったので連載再開です。
毎日更新で力尽きるまで頑張ります。応援してください。
閑話5つ挟んで『向かえイシュタム編』が始まります。
よろしくお願いします。
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ローパーの女王パルの朝は遅い。
女中ローパーたちが起こしに来てもなかなか起きない。
女王として亡き母のようにしっかりしなくてはと思いはするものの、そう簡単に体はついてこない。
体だけならいい。
心もついてきてない。
つまりなにもついてきてない。
なので今日もローパーたちの意識共有、テレパシーによって民たちから起こされる。
“パルちゃん、朝”
“今日もお寝坊?”
“ねぼすけ女王さま”
“パル姫、人間いるときだけシャキッとしてた”
“フィードって人の前だとメロメロ”
“メロメロパルちゃん”
“プロテムにはあんなに強気なのに”
“プロテムかわいそ”
“プロテム頑張ってる”
“でもプロテム怒りっぽいから”
“弟のペリシスの方が好き”
“ペリシスかわいい”
“ペリシスもてもて”
“プロテムもてなかったのに”
“……こらぁ~、なに言ってんだお前らぁ~”
“あ、プロテム怒った”
“や~い、プロテムのおこりんぼ~”
そんな声が頭に鳴り響いてもパルは起きない。
今日は一段と起きる気がしなかった。
なぜならフィード(今ではアベル)との一日一度の『
フィードのことを今でも好きなのは好きだし、声を聞くだけでウキウキして心がふわふわする。
けど、離れているとちょっとしたズレも気になってくる。
たとえば。
今自分が話してるのはフィードではなくて正確にはアベルだ、とか。
たとえば。
これは会話してるんじゃなくて正確には一方的に言葉を投げあってるだけだ、とか。
たとえば。
こっちはず~っと変わんない生活してるのに、フィードの方はなんかバタバタしててしかもフィードのことが好きな女の子たちも引き連れてるし、しかもフィード自身が女の子になっちゃった? へ? とか。
そういった細々としたことや、壮大すぎて意味わかんないことや、お互いの環境の違い、温度差によって引き起こされる倦怠感によってパルは女王専用のふかふかベッドの中から起き上がることが出来ずにいた。
ああ、それから。
プロテム。
急に告白してきた彼。
あまり気にしてない……はずだけど、もしかしたらちょっとは気にしているのかもしれない。うん、ちょっとは。少しくらいは。うん。
とにかくそういったもろもろのストレスを生まれて初めて浴びているパルは視覚神経を遮断して、女中ローパーのシャッと開けたカーテンから射し込んでくる陽の光からヴァンパイアのように逃れるのだった。
そして、よりによってそんな時に訪れる。
【
ガバッ! 秒で起き上がるパル。
『パル! オレだ! フィードだ! フィード・オファリング! 色々あってアベルから切り離されちまって今天界ってところにいる! で、だ! パル、お前に頼みがある! いや、
頼られてる?
アベルじゃなくてフィードに?
私が?
リサでもルゥでもセレアナでもテスでもなく?
私?
私が一番?
私が一番フィードに必要?
やっぱりフィードは私が一番好き?
私もすき。
フィードすき。
フィードすき。
フィードすき。
フィードすき。
フィードすき。すきすきすきすきすきすきすきすき。
私もフィードがすき。フィードも私がすき。
だから頼られてる。
応えないと。
すきだからフィードが。
あれ?
でも。
なにを頼まれたっけ?
フィードの言葉に舞い上がったパルはその後の言葉が耳に入っていなかった。
がんばって思い出そうとする。
さいわいローパーは全身が目で全身が耳。
体のどこかの部位の耳がきっと聞いていたはず。たぶん。
え~っと、たしか……。
『アベルはゼウスといる』
『イシュタムへと向かっている』
『アベルの命が危ない』
『アベルが死んだらオレも死ぬ』
『ゼウスを殺せ』
『パルの
『一秒でも早く』
『ゼウスくそヤバいから』
『アベルのスキルはゼウスに乗っ取られてる可能性がある』
『だから
『フィードであるオレのことだけを信じろ、いいな?』
『アベルは信じるな』
『愛してる、パル』
たしかそんなことを言っていたような言っていなかったような。
いや、最後のはきっと言ったに違いない。いや言った。言ってたはず。確実に。うん。
パルは単純だった。
蝶よ花よと育てられてきたパルは人を疑うことを知らなかった。
だから気づかなかった。
今フィードから送られてきた言葉にいくつも嘘が紛れていることに。
そして今は時期悪く、パルの一瞬しおれかけていたフィードへの恋心が再び再燃焼するという恋のビッグウェーブの寄せては返す波の二回目の「寄せて」が訪れたところだった。
さらにたちの悪いことに、女王の血を引くパルは芯がとてつもなく強かった。
そして気高かった。
しかも前向きで行動力があり、こうと決めたら決して引かないガンとした不屈の精神力を備えていた。
『わかった! フィード、待ってて! ゼウスは、必ず私が殺して、フィードもアベルも、救うね! 私が!』
それだけを『
「女王、何用で?」
「女王様、やっとおめざめ~。あれ、なんか急いでる?」
地底のローパー王国ララリウム。
その地下にある地獄。
さらにその地下にある魔法的超次元空間。
魔神サタンのいたという、そこ。
時間と空間を超越したそこなら連続して一日一回限定の『
自分にできることは声を伝えることだけ。
フィードを救うには、そこへ行って各所にテレパシーを飛ばす必要がある。
助けないと、私が。
必ず魔法的超次元空間へとたどり着いて!
「プロテム、ペリシス。私を、地獄の底に、案内して」
たちの悪いことに、女王の血を引くパルは芯がとてつもなく強かった。
一度言い出したら絶対に考えを曲げることはなかった。
そのことを身にしみて理解していたプロテムは。
「はぁぁ~……」
と渋皮のように体表を寄せて、深くため息を付いた。
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