フィードパート

第122話 天使一本釣り

 【これまでのお話(フィードパートのおさらい)】


 ゼウスに見つけられ、天界で囚われの身となったフィードの精神(&アベルの肉体)。

 しかしフィードは機転を利かせ、ゼウスを地上のアベル(ルード)の元へと送りつける。

 ゼウスのいない間に結界からの脱出を試みるフィードだったが、ゼウスの張った結界によってスキルが防がれてしまう。

 おまけに使えるスキルも肉体依存の馴染みのスキルだけ。

 八方塞がりか……と思われたその時、フィードは物陰からこちらを窺っている人物がいることに気づいた。



────────



 さて、っと。

 オレがここから脱出するためには、あの雲の影でコソコソしてる奴を使うしかねぇわけだ。

 しっかし、あの隠れてる奴……。


 コソ、コソコソ……ガっ!


「っ~……ぅ!」

 

 挙動不審にガサゴソしまくってるうえに、そのへんの雲(たぶん固い)にすねをぶつけてもんどりってやがる。

 あれで隠れてるつもりなのかねぇ……。

 背中の真っ白な羽根もチラチラ見えてるし。

 天使か、神か。

 あのゼウスって野郎には羽根は生えてなかったから天使か?

 まぁ、いい。

 このオレの目の前にある神の障壁。

 これにはばまれて相手を加害するスキルは届かない。

 けど、このスキルはゼウスにだって通じたんだ。

 ってことで、さぁ正体を見せやがれ、隠れてる奴!



 【鑑定眼アプレイザル・アイズ



 オレの右目に、オレにしか見えない赤い炎が宿る。



 名前:ザリエル

 種族:天使

 職業:大天使

 レベル:9

 体力:40

 魔力:587

 職業特性:【神の代行者】

 スキル:【正直者の裁決オネスト・ジャッジメント



 ザリエル。

 大天使。

 大天使ってどんなだ?

 小天使とか中天使とかあんのか?

 レベルが低い割に魔力はなかなか。

 っていうか天使でも魔力って言うんだな。

 ま、神も魔も大差ないか。

 あのゼウスとかいうクソヤローを見ても魔物と変わんねぇしな。

 いや、魔神の方がうぬぼれててくれた分、まぁ~だ可愛げがあったってなもんだぜ。


 なんにしろ、相手の正体がわかりゃ、あとは対処するのみだ。

 どうにか、この障壁をあいつに解除させなくちゃだな。

 ま、あいつに解除することが出来れば……の話だが。


 どっちにしろ、いつゼウスの野郎が戻ってくるかわからねぇ。

 少しでもあいつから情報を入手しておきたい。

 今は他にあてもないしな。

 ってことで。



 【狡猾モア・カニング



 ぅおぉぉ……冴えわたっていくぜぇ~、オレ様の頭。

 ふん、なるほど……ここは。


 釣り、でいくか。


 オレはザリエルに背を向けると、ごろんと横になった。


 なぜ奴がこそこそしてるのか。

 それはオレに気づかれたくないからだ。

 どうして気づかれたくないか。

 考えられる理由の一つは。


『興味があるけど怖いから』


 人間に興味があるのか。

 それともオレだから興味があるのか。

 怖いのはきっとあいつ自身が臆病だからだろう。


 その他に考えられる理由は。


『悪巧みをしているから』


 うん、こっちの方がしっくりくるな。

 甘っちょろいアベルだと前者で考えるんだろうが、オレはこっち。


(で? 一体どんな悪巧みをしてるってんだい? 大天使ザリエルさんよぉ?)


 地面の固い雲の上に肘をつき、支えた頭をうつらうつらさせる。


(ほぉ~ら、オレはおねむだぞぉ~? 今だと気付かれないぞぉ~? 近寄って見に来い、ザリエルさんよぉ~?)


 うつら。

 うつら。


 太陽との間をさえぎるる雲も少なく、日当たりがすごくいい。

 なので寝てるフリだけしてても、なんだか本当に眠たくなってきてしまう。


(うぅ……こんな時にラミアからもらった『不眠インソムニア』があれば役に立ったのに……)


 今のオレに使えるスキルはたったのここのつだけ。

 それもほとんどが神の障壁にはばまれて役に立たねぇ。

 だからまずはザリエルの野郎をおびき寄せてから……。


 こそ……こそこそ……。


(ん? 近づいてきたか?)


 うろ……うろうろうろ……。


(しっかしこいつ、気配消すの下手すぎだろ……)


 オレの背中でウロウロしてるのがモロわかりなザリエル。

 そこで今のオレに使える唯一で最大の武器『狡猾モア・カニング』さんの下した判断は──。



「ワァッ!!!!!」



 振り向きざまに大声で驚かす。

 こんな不器用で気の弱そうな奴だ。

 こちらが上の立場だとわからせてから一気に畳み込む。



「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 

 オレ以上のデカい声で驚くザリエル。


「うるせぇぇぇぇぇぇ! って、お前……」


 目の前で腰を抜かしてへたりこんでる天使。


「女、だったのか……」


 その足が左右に開いて、その中間に真っ白なパンツが見えていた。


「しかもパンツ見えてるぞ、お前……」


「──ハッ!」


 顔を真っ赤にして慌てて足を閉じるザリエル。


(おいおい……なんだこれ……? なんというか……)


 デジャブ?


 オレの頭の中を、夜の教室で黒パンM字開脚していたリサの姿が頭をよぎる。


 まぁ、いい。

 さ~ぁ、この間抜けなパンチラ大天使をどう料理してやろうか。


 オレは捕食者の目でザリエルを見つめ、じゅるりと舌なめずりした。

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