第82話 奪えちゃった
音が聞こえない。
静かだ。
それに、なんか心が安らぐ。
信じてたパーティーから追放され。
目覚めたら檻の中。
三十日間の監禁生活を経て。
やっと脱出したと思ったら次はダンジョン。
しかも一方的なゲームに巻き込まれ、不条理な悪魔の契約を結ばされる。
ローパーの国ララリウムでゲーム攻略のヒントを手に入れるも、大悪魔が追ってきて大穴に落下。
着いた地獄ではテスの消滅制限時間に追われ、閻魔を訪ねた。
二千年前の鑑定士ネビルにかき回されつつも、どうにか閻魔を相手に交渉してララリウムに戻れるかと思った、その矢先。
また落下。
ああ、落ち続けてきたなぁ。この三十数日間。
それにしても、ここは心地がいい……。
せわしなく制限時間に追われていた心と体が癒されていくようだ……。
まどろみながらも仲間たちの安否が気にかかり、気力を振り絞って徐々に意識を呼び覚ましていく。
(そうだ、テス……。それに、他のみんなも穴に落とされたんじゃないのか……。それを確認しないと……)
いつまでも浸っていたくなる夢見心地に後ろ髪を引かれつつ、閉じていた目を開く。
(ん……?)
水が……紫色の水の塊が宙に浮んでいる……。
オレは……その水の中に浮かんでいるのか……?
深い夜空のような紫の水が体を覆っている。
普通に考えると溺れるわけだが、なぜだかこうしているのが自然なことのようにも感じる。
息は……出来るのか?
スーハースーハー。
意識して息を吐いてみると「ぶくぶくっ」と音を立てて水泡が上へと浮かんでいく。
不思議だ。水の中なのに息が出来てる。
それに、心なしか体力も回復したような気がする。
(……! もしかして──!)
【
自分の体を体を覆っている水を鑑定してみる。
【
やっぱり!
魔力も回復してる!
……回復するくらいの長い時間休んでたってことか?
それとも
にしても
超高価で希少な回復薬が、なんでこんなに……。
しかも、オレはそれに包まれてるって……これは一体どんな状況だ?
次第に目が焦点を取り戻す。
よし……次はあの石の塊を鑑定してみよう。
暗闇の中、
今、目に入るのはそれだけだ。
鑑定して、ここがどこかを
【
石の塊の前に文字情報が表示される。
【
く、く、
一欠片だけでも一生遊んで暮らせるだけの富が手に入る素材が、あんなにどっさり!?
一体なんなんだここは……オレは夢でも見ているのか……?
「ぐっ……」
水の中だから重心が取れない。
ぐぎぎ……と体に力を入れて無理やり向きを変える。
「プロテム!」
そう叫ぼうとして、むせる。
背後の斜め上に浮遊する
その中にプロテムが浮かんでいた。
一本しかなかった触手は以前のようにたくさん生えており、傷だらけだった体も元のガチガチの鋼鉄のような体表に戻っていた。
(よかった……生きてたんだ……それに、
ぐぐぐ……体をねじってさらに振り返る。
テス。
紅白の水玉ワンピを着た金髪少女が、眠るように
(消滅せずに済んだのか……。どういうわけかわからないが、とりあえずよかった……)
これで、とりあえずはオルク達も無事だろう。
およそ一周振り返って見渡すと、他にヌハン、トリス、トラジロー、そして二千年前の鑑定士ネビルまでもが同じような状態で浮かんでいた。みな、すやすやと眠っている。
(とりあえず、みんな無事ってことか)
さてさて。
となると問題は。
ここはどこで、オレたちはこれからどうするのか、なのだが……。
「くくく……悩んでいるな、悩んでいるな。一人で先に目覚めるとは、これが鑑定士。これが
胸元を背後から二本の腕で撫で回される。
「どぅわっ! な、なっ……!」
ぞわわと全身の身の毛がよだつ。
「まぁまぁ、そう怖がるな。なんせ初めての人間の客だ。しかも
今度はオレの顔を掴み、上からゆっくりと一人の魔物が頭から逆さまの状態で下りてきた。
「ああ……これが何万年も見てきた鑑定士か……」
そう言って魔物はオレの頬をなぞるように撫でる。
「ちょ……おいっ! くっ、離せっ!」
手を振り払い、顔の真ん前、数センチまで近づいてきていた魔物の顔を押しのける。
「おやおや……つれないじゃないか。こちらから干渉することの出来ないルールに変わってからは、もう二度と目にすることは叶わぬと思っていたというのに」
「なんだ? 何を言っているんだ? ここはどこだ? そして貴様は誰なんだ!?」
得体のしれない魔物。
褐色の肌には様々な細かな紋様が刻まれている。
黒の長髪はオリエンタルな雰囲気を漂わせ、横に長い垂れた瞳は地獄の業火かのような深い真紅に染まっている。
そして、見たことのない上下一体型の黒い服。
ピッタリと体に張り付いたそれは、下にある筋肉の形を見事に際立たせている。
人型の……魔物。
魔物のはずだ。
こんな人間は居るはずがない。
しかも、こんな場所に。
その魔物が、ほんのりと笑みを浮かべたまま溶けるような声で話しかけてきた。
「フフフ……コマ。コマコマコマ。ああ、会いたかったぞ、私の可愛い可愛い
なんだ?
挑発してるのか?
そもそも、こいつはオレのこと鑑定士だと最初から知っていた。
なぜ?
それに、こいつが何度も口にする「コマ」ってなんだ?
ああ、わからないことが多すぎる上に、体は水に覆われてうまく動かせない。
なのに、魔物はもったいぶってからかってきやがる。
くっそ~、なんだか無性に腹が立ってきた。
ああ、そうさ。
こいつが何度も言ってるように、オレは鑑定士だ。
なら、やってやろうじゃないか!
オレの右目に、オレにしか見えない赤い炎が宿る。
さぇ、見てやろうじゃないか! お前の正体を!
【
名前:サタン
種族:魔神
職業:魔を総べしもの
レベル:∞
体力:∞
魔力:∞
職業特性:【
スキル:【
…………………………は?
魔神…………サタン………………?
「どう? わかった?
宙に浮かび、足を組んでにこやかに笑いかけてくる魔物。いや──サタン。
サタン?
魔神?
魔神って神だろ?
え、どうすんの?
どうすんの、どうすんの?
「くくく……どうやら驚いて声も出ないようだな……」
上機嫌に肩を揺らすサタン。
ああ、驚いてる。
驚いてるが、お前の思ってることよりも、もっと別のことに驚いてるんだオレは。
だって。
だだだ、だって……。
ヤケクソ気味に
魔神サタンのスキル────。
【
奪えちゃったんだもの~~~~~~~~~~!
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