第71話 巨人 vs ドリル
「な……なに、あれ……?」
「ドリルさん、ですねぇ……」
口をあんぐりと開けて、空飛ぶ巨大ドリルを見守るリサとルゥ。
ドルルルルルァガガガガガガガガッ!
次々と壁の塊を粉砕していくローパーの集団。
三角錐状態の先端では、守護ローパーのプロテムが触手を固く尖らせている。
「ローパーが組体操みたいなことをしてるのは見かけてたけど、こんな……マジかよ、すごいな……」
最初は十数人で作っていたドリルだけど、町からどんどんローパー達がやってきてドリル組体操(?)に加わっていき、いまや百人超えの超巨大ドリルになっている。
「あれ、どうやって飛んでるのかな……」
「鑑定で見てみたけど、外側のローパーは【飛行触手】、内側のローパーは【回転触手】っていうスキルを持ってるのが集まってるみたい」
「ちゃんと考えて組み合わさってるんだね、すごい……」
「ぶひひん」
アルネとケプも、目の前で起きてるあまりの非現実的な光景に、ただただ呆然としている。
「な、ななな、なんだこれはァ!? わが、わがわが……吾輩の知識にないぞ、こんなものっ! なん……なんなんだァ、ローパーごときが……こんな……!」
「うん。ずっと秘匿されてきたみたいだからね、このローパーたちの国。偉大なる女王ポラリス様によってさ。きっと、お前みたいなカス野郎に見つかるのが嫌だったからじゃないのかな」
「カカカカ……カス野郎……? わが、吾輩が、カカカカカカ、カス……?」
ドリルから逃げ回る壁の塊の中から上半身だけを露わにした大悪魔が、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で動きを止める。
「ええ、あんたはカスよ!」
さらにリサが追撃する。
「フィードを
おい……リサ……いくらなんでも言い過ぎじゃ……。
いや、まぁ、言ってることは正論だけどさ。
そういえば忘れがちだけど、リサってマフィアのボスの一人娘なんだよな……。
最初に会った時も凶暴だったし、これくらいの
オレもヘタレなところを見せて
「チチチチチチン……!? チン……チン、チンチチチチチチンカス……! みとめとめとめとめ、認められない! わが、わがわが吾輩は、悪魔界序列一位の偉大なる大悪魔、決してチン! カス! などとは! とはとはとは……ああっ! 吾輩の体がッ! 体が削られていくぅぅぅぅッ!」
ドドドドドドガガガガガガッ!
「あ~あ、壊れちゃった」
「壊れちゃいましたねぇ」
「ブヒンっ」
リサの口撃と、ローパーたちの粉砕によって、文字通り身も心も打ち砕かれた大悪魔は、なすすべもなく塊ごと削り取られていく。
「お、お前たちっ! 元のダンジョンに戻りなさいッ!」
肉体の欠けた大悪魔の声に従い、ドリルの被害を
「おっと、いいのか、ほんとに? 穴の中に戻るってことは……」
【
「こうなるってことだぜ?」
ドウッ──!
逃げ場を失った蟻たちは、オレの放った炎によって一斉に焼き払われる。
「わが……わがわがわがわが、吾輩のデビル・アントたちが……! あってはならない……こんなこと絶対にあってはならないのだ……! 魔界を統べる、この吾輩がッ! こんなローパーごときに追い込まれるなどォォォォォ! 絶対にィィィィィイッ!」
ドゥルルルルル……ドッパァ──!
穴の中から、すごい勢いで壁の濁流が流れ込んでくる。
「キャッ!」
「危ない! 下がってろ!」
猛烈な勢いで
ギュルルルルルドカカカカカカカッ!
ローパーたちも対抗すべく、どんどんとローパー達がドリルに加わっていき、巨人を打ち砕く巨大なドリルへと姿を変えていく。
ドリルによって削り取られていく巨人。
しかし、巨人は削り取られた部分を即座に補修し、さらに体を大きくしていく。
「くくくくっ……! ワ~ハッハッハッ! やはり、はりはり! ローパーごときが吾輩に
巨人の頭から上半身を出した大悪魔テス・メザリアが高らかに吠える。
「フィード……!」
「マズいな……。ローパーの数には限度があるし、体力的にも限界がある。一方、大悪魔の方は、どういう仕組みかはわからないが無尽蔵に補給できるみたいだ。これじゃあ……」
「私達に出来ること、なにかないでしょうか……? このままじゃローパーのみんなが……」
「ああ、陽動をかけて、再生する速度を遅らせよう」
【高速飛……
ドガァァ──!
飛び立とうとしたオレの行く手を、巨大な手のひらが覆い尽くす。
「おおっと──させませんよ。吾輩にも、だいぶ余裕が出てきましたからね。そちらに気を割くことも出来るわけです。そうですね、やっとわかりましたよ……。あなた方を殺すのに必要なのは、魔物ではなく、圧倒的な質量ッ! 圧倒的な大きさッ! デカさッ! 重さで押し潰しさえすればッ! それで済んだ話だったのデスッ!」
手のひらが、オレたちを押しつぶそうと落ちてくる。
「ケプ! アルネを連れて逃げろっ!」
「ぶるっ……!」
ケルピーのケプは、近くにいたアルネの首元を咥えると背中に放り、ヌルヌルと地を這って離れていく。
【
【
ズズゥーン……!
オレが、リサとルゥを両脇に抱えて逃れると同時に、手のひらが地面を叩き潰す。
「間一髪!」
「フィードさん、ありがとうございます……!」
町へと繋がる道の上に二人を下ろす。
「少し避難しててくれ。あいつをどうにかしないと、ダンジョンに戻るどころじゃなさそうだ」
「でもっ──! 私達でもなにか手伝えることが──」
「リサさん」
ルゥがリサの手を掴み、首を横に振る。
「……っ! 人間……自分から望んでなったはいいけど、まさかこんなに何も出来ないだなんて……!」
「力になれないのがもどかしいのはわかります。でも、今は大人しくするのが私達にできる最大の協力なんです」
「今は……」
「そう。今は、です。強くなって、フィードさんを支えられるようになりましょう」
「強く……そうね、なってやるわ、強く……」
「それまでは、辛抱です。フィードさんだって、三十日間辛抱して強さを手に入れたんですから」
「……わかったわ。フィード、近いうちに必ず私も強くなるから……だから……! 今は……フィードが、あいつをぶっ飛ばしてきて!」
ギッ──。
リサの食いしばった口元から、血が一筋流れる。
グッ。
オレは親指を立ててそれに応えると、大悪魔──巨人へと向かって飛び立った。
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