第41話 光る触手の道しるべ

「なんかあるわね、道」


「ええ、ありますね、道」


 オレの斬撃によって斬り裂かれた壁の向こうに現れた新たな通路。

 それを見つめながらルゥとリサが真顔で呟く。


「あれ……えっと、今のオレの斬撃とか触れてくれないわけ? わりと自分でもびっくりするような威力だったんだけど……」


「今はそれどころじゃないから。ここから生きて出ることが最優先なの。大体、フィードならそれくらいやって当然でしょ」


「そうですね。ワイバーンや、ヤクザのトロールさんを倒したフィードさんならやって当然です」


 え、えぇ……?

 なんか二人の間でのオレの評価、異常に上がりすぎてない……?

 オレ、そこまでスゴい化け物みたいな感じじゃないんだけど……?

 三十日前まで、ぴえんぴえん泣いてた小柄な男の子なんだけど……?


 自分の認識と力のギャップ、そして二人の認識とのギャップに、若干の戸惑いを覚えるつつ、かけられてきたオークのオルクの声に耳を傾ける。


「ヤクザのトロール……って、まさかルートォンのことじゃねぇよな……?」


「ルートォン? いや、よくわからないけど、元ツヴァ組の人らしいけど……」


「マジかよ! ルートォンったの、お前かよ!」


 オルクの声のボリュームが上がる。


「え、なに? 有名な人だったりするの?」


「有名なんてもんじゃねぇよ! 伝説だよ、伝説! あんだけ狂った暴風マシーン、他にいねぇよ!」


 オルクは興奮した様子で話す。


 暴風マシーン、か。

 まぁ、たしかに暴風ハチャメチャだったな。


「いやぁ~、死んだっていう噂話は聞いてたけど、まさかお前がってたとは……。いや、そりゃワイバーンも倒せるはずだぜ」


「そんなにすごい人だったんだ?」


 ワイバーンと並ぶほどとは、すごい持ち上げられようだ。


「ああ、オレたち世代に取っちゃ、まさに憧れの人よ! 敵も味方も気に入らないやつは全部ぶっ飛ばす、ってな! まさに魔物の中の魔物って感じの人だぜ!」


「その敵──は、大体うちの組員なんだけどね」


 リサ。

 オレの倒した老トロール、ルートォンの所属していたツヴァ組と敵対しているマフィア、ローデンベルグファミリーの一人娘だ。


「まぁ、そっちはいい迷惑だっただろうな。ってか、いいのか? ファミリーのお嬢様が人間になんかなっちまって?」


「ハァ? 私のことは私が決めるのよ。家とか関係ないでしょ?」


「関係ないっつってもあれだろ? 組長ドンがほっとかないだろ。あと、執事のゾルべさんとかが」


「うぇ。名前出さないで。今、一番聞きたくない名前だわ」


 執事。

 へぇ、そんなのもいるんだ。

 本当にお嬢様なんだな。

 でも……そんな子を勢いで人間にしただけでなく、連れ去ろうとまでしてるオレ……大丈夫なのかな……。


 背筋がひやりとする。

 すると、ローパーのパルがオレの横を通り抜け、ふるふるふると触手を振りながら、新しく現れた通路の中へツツツと入っていった。


「ああっ、パル! 危ないぞ! 何がいるかわかんないから!」


 慌てて後を追う。


 中に入ると、薄暗い中をパルの金色の触手がぼんやりと発光しながら動いてるのが見えた。


「あれ? パルの触手って光ってたっけ?」


「いえ、ローパーの触手が光るってのは聞いたことないわね……。さっきまでも光ってなかったし」


「じゃあ、さっきの場所が明るかったのは?」


「たまたま発光ヒカリゴケが多かったみたいね。ここから先、暗闇が続くとなると、かなり厄介だわ」


 発光ヒカリゴケ。

 魔界にはそういうものもあるのか。

 魔力も増えたことだし、これからは周りのモノもつぶさに鑑定していった方がいいかもな。

 どこに役立つものがあるかわからないし。

 この、教室の中で見つけたパリィ・スケイルや魔鋭刀みたいにね。


「あ、でも、暗くてもパルさんの触手が光るんなら助かりますね」


「そうね。でも、逆に言ったらパルがいなくなったら私達は終わりよ」


「マジかよ、ヤベえ! 何が何でもパルのヤロー捕まえねぇと!」


 暗闇でウネウネうねる触手の明かりを追いかけ、どうにか追いつくと、パルはある箇所に立ち止まったまま、ずっと壁をスリスリと撫でていた。


「なに? ここになにかあるの?」


 ふるふるふる。


 肯定するように触手が揺れる。


「フィード、ここ通れるように出来る?」


「ああ、出来ると思う。みんな、下がってて」



 【暗黒爪ダーククロー



 ズバンッ──!



 派手な衝撃音。

 斬り裂かれた肉の壁の向こう側に、また新しい通路が見えた。

 パルは、ふるふると嬉しそうに、その先に進んでいこうとする。


「ちょ、パル! ちょっと待って!」


 躊躇ちゅうちょなく進んでいこうとするパルを抱き止める。

 暗闇で感覚が鋭敏になってるからだろうか、ローパーのモチモチした感触が手のひらを通じて、やけにリアルに伝わってくる。


「フィードさん、もしかして……」


 ルゥが、おずおずと口にする。


「パルさんには、出口がわかってるんじゃないでしょうか……?」



 ふるふるふる。



 肯定するかのようにパルは触手を揺らす。

 オレたちの「マジか……」みたいな顔が触手の光に照らされて、暗闇の中にゆら~りゆらりと浮かんでは消えた。

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